1日目 その4
「ホルダーはここでも買えるし、道具屋にも売ってるよ」
クリスの言葉にレナは反射的に質問した。
「価格差は?」
「ないよー。統一価格だもん。まあデザインは道具屋の方が豊富かなー」
チッという音は舌打ちかな?とはパジの心の声だ。
「ちなみに、おいくらかしら?」
「1つ2000EN」
ENは通貨単位かしらと思いつつレナは質問を続ける。
「さっきのスパイクスネーク討伐っていくらだったの?」
「んーと、スパイクスネークは1匹8000ENだね」
命かかってその価格は安いのか高いのか判断できないなとレナは質問を変えることにした。
「この辺のお安いパン1個は?」
「安いパン?…露店の100ENかなー。まあまあ美味しいよ」
「じゃあ、宿屋の1泊分の代金は?食事付ね」
「そーだねー、お姉さんみたいな人が泊まっても大丈夫なところだったら、1~2食付で5000ENからかな」
「じゃあ町中でできるような仕事と相場はおいくらくらいかしら?」
「そーだねー。近所にお使いで買い物とかだと終了時に700ENで、町清掃が1時間で1000EN、高いところで貴族の子に家庭教師一日の20000ENかなー」
クリスはレナに丁寧に答えているがゲオルクは純粋に驚いていた。庶民ならばパンの値段など聞くまでもない事柄だからだった。
「本当になんにも知らんのな」
ゲオルクが関心したように感想をのべる。
「うん!」
パジは元気に返事をした。
「いや、うん、お前はそのままでいろ」
満面の笑顔で答えるパジの頭をぐしゃぐしゃにしながらゲオルクは言った。ちなみに万年中学生な外見だが、彼女はもうすぐ30歳になるのだ。最後の20代、四捨五入したら30なのだ。そこには早生まれ、遅生まれなどはもう関係ない。
「まあ、ホルダーは明日買いに行くぞ。…レナ、金は、ツケでいい」
レナが言葉を発するために息を吸い込むのを遮るようにゲオルクはそう言った。この男はレナを見切ったらしい。
「…」
その後、無事にレナのカードも作りギルドを三人はあとにした。
「あー、もう乗り掛かった船だ。ひとまず家くるか?」
ゲオルクはパジを抱えてレナに聞いた。
「よろしくお願いします」
レナの中では既に決まっていたことだが、そんな様子は一切見せずに頭を下げる。
「よし! まかせとけ。そうと決まればとりあえず飯食うか。自慢じゃねぇが家には飯がねぇ」
ぐーぎゅるぎゅるぎゅるという音が飯に反応しパジの腹から聞こえてきていた。巨大な腹の虫が空腹を訴えているのだ。
「近くに安くて旨い飯屋がある」
「行きましょう」
「レナも腹減ってるんだな」
ぐーぎゅるぎゅるぎゅると又パジの腹の虫が苦情を訴えている。
「…」
ゲオルクは黙って小走りに店を目指した。
魔光と呼ばれるロウソクに似た明かりが入ったランプが店内を灯している。近くにある飯屋は先ほど西門から来た道沿いではなく大通りを1本中に入ったところにあった。一瞬例の窓からブツが降ってくるかとレナは構えたが大丈夫のようだった。臭いもない。食事をとる前におしぼりはなかったが、“クリン”とよばれる生活魔法をかけてもらいひとまず安心した。皮膚の表面についた汚れを落としてくれるという、なんともありがたい魔法だ。異世界すげぇと二人は驚いていた。
「で、明日は買い物のついでに教会にも行くぞ」
「教会? お祈りにいくの?」
「教会には伝道師がいるからな」
「愛の伝道師?」
「ちげぇ、伝道師は俺達の素質を見れる。で、さっきお前さんらが感動してた“クリン”とか使えるようにしてくれる」
「マジで!」
「マジだ…みなまでいうな。素質を見るのはただ。使えるなら魔法は購入になるぜ」
「値段は?」
「わかんねぇ、俺はほとんど素質がねぇからな」
「ゲオルクさん」
「かー、止めろ。さんとか入らねぇ柄じゃねぇ。んで、なんだよ、改まって」
「1つ確認したい。私たちは貴方に借りてるお金をすぐに返せない。仕事もみつけてないし。貴方の生活は大丈夫かしら?」
レナの意図は私たち暮らしていけるかしらだったがゲオルクは心配されていると受け取っていた。
「俺はわけあって今、たんまり貯金がある。それに討伐系の仕事はハイリスクハイリターンだ。だから心配すんな」
「おぉ! ゲオルク太っ腹!」
「だから子どもは遠慮しねぇで、しっかり食え」
いえ、この人は子どもじゃないんですよと心で思うレナであった。