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プロローグ

※ちょっと息抜き。


※中篇。大体、七話くらいで終わります。

※一日一話くらいで、最終話は4/15予定。一気読みがしたい人は15日以降にどうぞ。

※あらすじではBLっぽいけど、風味程度です。

 なので警告タグは入れませんでしたよ?

 風味でも嫌な人はバックしてください。

 告白。それは誰しも憧れるシチュエーション。

 ましてや、それがかわいい子からのものなら尚、誰しも頷いてしまうだろう。


観平(みひら)緋露(ひろ)さん」


 そう僕の名前を呼んだのは見知らぬ顔。

 制服を着ているという点で同じ学校の生徒であることはわかっている。

 目の前の人物は大きな瞳で見上げるようにこちらをじっと見つめてくる。

 だからといって別に僕の身長が高いわけではない。相手が特別低いわけでもない。

 お互いごく平均的な身長だと思う。

 なのに相手の顔は下にあるのは、僕らが立っているのが階段の上段と下段だからだ。


 僕はもう一度相手をじっと見た。辺りには図ったように誰もいない、静かな放課後。

 夕日を浴びて銅色に輝く柔らかそうな髪、大きな黒目がちの瞳、やや低い鼻、小さいが形の整った唇。ふっくらした頬は夕日のせいか状況のためか赤く見えた。

 かわいい。素直にそう思える顔立ちだ。

 そんな顔が恥らうように時々逸らせはするもののまっすぐこちらを向いているのだ。

 状況はまるでドラマのように整っている。

 学校の屋上に通じる人気のない階段。

 秋の気配深まる晩夏の夕暮れ刻。窓から差し込む夕日の光が全体を赤く染め上げている。

 ムードは満点だ。相手はかわいい。 

 申し分のない状況。しかし、問題があった。


「一目惚れなんです。僕と付き合ってください」


 僕の通う森之宮学園は男子校だった。

 真剣にそして勢いをつけて言ったせいなのか鼻息が漏れたのが聞こえた。

 ああ、ちょっとこの辺はかわいくても男なんだなっといった感じを受けた。

 それから、相手は逸らすことなく視線をこちらに向けた。

 その視線の意味は状況から見てただひとつだ。

 

 返事を待っている。

 僕は少し考えるように深い溜息をついた。

 別に返事を迷っているわけではない。

 しかしそれを即答するのは状況的に憚られた。


「……綾瀬くんだっけ」


 そのまま、答えを口にするのではなく、相手の名前を呼んだ。

 告白場所への誘いも王道を行く扱いで下足入れに手紙だった。

 そこに名前が書いてあったので相手の名前はわかっていた。


「はっはい!」


 上ずった声が相手の緊張感を伝える。

 まるで告白がうまくいくか、本当に不安がっているように見える。

 可愛いいどこか不安そうな表情。…まったくこれが演技だというから恐れ入る。


 「何が目的?」

 「え?」


 戸惑いの表情と困惑の声。

 本当にこの演技力には恐れ入る。演劇部にでもはいればいいのに。

 なかなかの迫真の演技だが、騙されてやる気はない。


 「いや、違うな。こう聞いた方がいい?」


 ここで間をおいた。相手は内情を知る僕の目にも演技かと疑わせるほどの実力を持った人間だ。

 生半可な台詞や状況じゃボロなんてだしてくれないだろう。

 だから考える間に言葉を選んで出来るだけ効果的に切り出した。


「君は、理事長派、学園長派、どちら側の人間?」


 さすがというべきなのか。あれほど完璧な告白という演技を見せた彼だ。表情に大きな変化はない。

 でも、わずかに見開いた目の動きに確信が見えた。

 少し下げていたあごを持ち上げ、小さな目の前の相手を睥睨した。


「驚いたって顔だね?まさか今日この学園に来た僕が知っているとは思わなかったのだろうけど…。

 あいにくと色仕掛けで引っかかるほど単純でもないつもりだよ」


 そう皮肉めかして言ったあとに少し口端を持ち上げて笑ってみせる。


「……割と演技が迫真に迫っていたから、ちょっと騙されかけたけどね。

 …ま、君がどちらの人間であれ、僕はとりあえずどちらに付くつもりもな…」


 そのときだった。


 「綾瀬(あやせ)(つとむ)―――――――――――――――――――!」


 唐突に目の前の少年を呼ぶ声が聞こえたかと思うと僕たちの立つ踊り場から階段を挟んだ下の階、4階の廊下に男が現れた。

 ……これは随分とまた、目の前の少年と対照的な相手が現れたものだと一瞬状況も忘れて思ってしまった。

 大きい。それは中途半可じゃない。階段を挟んでいるので正確にわからないものの僕より頭ひとつ分、悠にあるんじゃないか、と言える巨体。目の前の少年を少女マンガに出てきそうな美少年系にたとえるなら階下の男は一昔前の熱血スポコンものにでも出てきそうな容姿をしていた。

 着ているものが制服じゃなければ体育教師かと思ったかもしれない。


「綾瀬!裏切りおったな!」


 怒鳴りながら、男が階段を上がってくる。その足取りは音こそしなかったが、ゴジラのようなドスドスという効果音が聞こえてきそうなほど荒々しい。

 そうして踊り場まできた男の身長は予想通り顔を見るためには上向かなければならないほどだった。

 しかし、見上げた先の顔はこちらではなくただ一点、それこそ彼の容姿とあまりに対照的な線の細い美少年に向けられていた。


「まだ、学生会が姿を補足してすらいないというのに!勝手に転校生に手出しするとは何事だ!」


 怒り心頭っといった感じで怒鳴る男。その声はゴジラが叫んだらこんな感じかとも思えるほどで…。

 よし。これから彼のことはゴジラと心の中で呼んでやろう。

 僕は怒鳴られている綾瀬少年を見た。ただ俯いて怒鳴られっぱなしだ。あれほど迫力でこられれば、儚げな美少年が萎縮してしまうのは仕方ないか。

 どうやらゴジラは外観体育教師なせいかどうかはわからないが、お小言が好きらしいようで、なおも綾瀬少年に言い続けている。


「だいたい、お前は…」

「は!」


 突然綾瀬少年が息を吐いた。それから俯いたままだった顔が上向くとそこには先ほどまで見せていた告白に恥らう少年の顔はなかった。 

 その代わりに人を見下すような冷たさを秘めた表情が露になる。


「……内祇(うちぎ)い…さっきから黙って聞いてりゃ、何様よ?お前」


 身長差のせいで綾瀬少年の方が内祇と呼ばれた男の顔を見上げるだけに留まらず、視線を上向かせる形になってはいるものの、その上目遣いの様子も先ほどの甘さを感じさせるものではなかった。

 声も先ほどのものとは違う低さを帯びていて、その変化に思わず後ずさりしてしまう。

 と、背中に階段の手すりの感触を受け、気がついた。今なら逃げられるかも。


「な、なんだと」


 綾瀬の豹変振りにまったくこちらの動きに内祇は気づかない。

 て、いうか最初からこちらに気づいているのか不明なやつだが。


「裏切りだって?馬鹿なこと言うじゃないか。大体情報合戦も試合のうちだろうが。

 もともとスポーツをやっているわけじゃないんだ。同時にスタートなんてやるわけないだろうが」


 さらに綾瀬を窺うと一見余裕そうな笑みを浮かべているものの、目はまったく笑っていない様子で一心に内祇を睨んでいる。

 こちらを気にしている余裕はなさそうだ。


(今のうちか?)


 この学校の特殊な事情下においても転校初日からトラブルに巻き込まれるのは勘弁してほしい。

 とりあえず、下駄箱の手紙の件は片付いたので、こんなところからおさらばするに限る。

 僕が気づかれないようそっと階段を降りかけたときだった。


「おい!ターゲットが逃げるぞ!」

「綾瀬様~!観平が逃げようとしてますよ!」

「気づいて~!綾瀬様~!」


 唐突に踊り場の向かいに位置する教室の扉が開いたかと思うと、三人ほどの男子生徒がばらばらと飛び出してきた。

 ちっ、仲間がいたのか、と悪役みたいな思考で舌打ちする間も有らばこそ、階段下を完全に塞がれてしまった。


 踊り場の二人も僕の行動に気がついて、口喧嘩をやめてこちらに視線をやるのが見えた。

 その時僕は直感した。

 絶対今逃げなければろくなことにならない。

 しかし、階下には三人の綾瀬の手下(たぶん間違いないだろう)。

 あの中に飛び込んだらどれだけ相手が弱そうに見えても三人だ。

 あまり腕力に自信のない僕ではあっという間につかまってしまうだろう。

 ならどうするか。あまり考えてる時間はない。

 下からの三人はじわじわとこちらに向かってくる。後ろからは内祇が動く気配がした。

 逃げなければとういう思考が瞬間、目に入った階段の手すりに反応した。


「あ!」


 手下の一人が声を上げたのを感じた。

 僕は階段の中央にある手すりをつかむとそのままそこを乗り越えのだ。

 内祇がこちらに手を伸ばしているのが見えたが、その手は空を切っていた。

 すとん。

 無事着地。足場が階段なだけに不安だったが、思いのほか着地はうまく言った。

 上を見上げれば、こちらを見下ろす綾瀬、内祇、手下三人。

 皆一様に驚いた顔をしている。

 まあ、そうかも。基本的によい子は真似しちゃだめ形の技だ。

 とりあえず、固まった五人に「じゃ」と手を上げて、階段をそそくさと駆け下りた。

 その時、一人凍結が解けたか、綾瀬の声だけが背後に降ってきた。


「あー!こら!待てー!」


 もちろん待つ奴はいないよね?


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