表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/7

お飾り妻と日常生活

「旦那様は、まーた今夜も仕事をしているんですか。どれだけここに仕事を持ち込んでいるのですか?」

 屋敷の執務室にルーカスの返事をまたずにノックと同時に寝着姿のアーデンは入ってきたかと思うと、腰に手を当ててため息をついた。


 (旦那様。文官の習慣がしっかり身に染み付いていますよね)

 アーデンも心当たりがある。

 どうしても文官とはというのは根っからの仕事好きが多くワーカホリックになり気味だ。


「さっさと寝ますよ。ここでは24時間働けますかと問われることはありませんから」

「いや…でもこれだけでも仕上げて…」

 アーデンは首を横に振り続ける。


 こんなにも旦那様が寝ることを嫌がっているのは、もうひとつ理由があるのだ。

 ルーカスとアーデンの微妙な関係に気づいた侍女長のステラに問答無用で夫婦の寝室を一緒にされてしまったからだ。

 ひとつのベットで寝ることにルーカスは相当抵抗があるようで、いつも夜中も仕事をしてベットに来ることはない。

 お飾り妻であるアーデンをこんなに警戒しているのは、婚姻届にサインをした日に陛下の要望だけには応えようと子作りの話をしたからだろう。

 アーデンは大きくため息をついた。


「安心してください。ぶ厚い寝着を着ていますから、旦那様を襲うことはありません」

「お、襲う…とか」

 口に手を当てて彫像のように固まりながら綺麗な顔で冷たい冷気を放っているが、最近アーデンはこれに慣れてきた。

 なんやかんやと冷たい冷気を放っても、ルーカスは意外にもアーデンの話を最後まで聞いてくれる。

 今夜もそうだ。そして、なんやかんやと言っても、アーデンの意見を尊重してくれたりもする。

 冷たい冷気を放ちながら、ルーカスは無言で仕事でめいいっぱい広がった机の上の書類を渋々だが片付けだしている。

 

(こういうところは可愛いのよね)


 これをきっかけに王都で働き詰めだったルーカスの不規則な生活が、アーデンによって規則正しい生活を送るように変えられていくことになった。




「今年度の領地のこの予算はどうなっている?資料はあるか?」

 本棚で別の資料を探していたアーデンが、ひょいと資料を出してくる。

「ここに一覧表がありますよ」


 日にちが経つにつれ、ルーカスが王都から領地に持ち込んだ途方もない量の仕事をアーデンが補佐したり、領地に関する仕事をふたりで手分けしてするようになった。

 ルーカスはアーデンと領地のことを議論したり、自分の仕事を補佐してもらっているうちに、アーデンは明るく聡明な女性で、自分と同じ目線で話のできる人だと理解した。

 話しをしていても議論していても楽しいのだ。

 出来ることなら、アーデンと仕事以外のことをしてみたくなっていた。手始めに一緒に庭を散歩でもいい。

 そして、自分の勝手な感情で前公爵夫妻が亡くなって以降、領地に帰って来ず、ロッドに領地管理を丸投げしていたことがどんなに酷いことであったのかも理解するようになっていた。

 アーデンから、領地改革に着手する前の状態を聞いた。

 もし、アーデンがこの機会にこの公爵領地に来てくれていなければ、いずれ領地は大変なことになっていたのは間違いない。


 「アーデン、いままで申し訳なかった。貴女がこの公爵領地に来てくれていなければ、私は父母が大事にしていたこの領地をめちゃくちゃにするところだった」

 「どうしたんですか?突然?」

 アーデンは資料を探していた手を止めて、ルーカスの執務机に歩み寄った。


「私は反省をしたんだ」

 真摯に反省し、それを言葉にするルーカスが愛しく見えて、アーデンは思わず自分の両手で、ルーカスの両頬を包んだ。


「旦那様。謝罪はわたしではなく、領民のみなさまと執事のロッド、侍女長のステラ、料理人ニック、御者兼庭師ゴードンにしてくださいね。彼らは旦那様を信じてずっと領地を守りながら待っていてくださったんですから」

「そ、そうだな。そうとわかれば、早速ロッドたちのところに行ってくる」

 こみ上がってきた涙をアーデンに見られまいとルーカスは慌てて席を外した。


(びっくりした。冷酷・冷淡だと言われる旦那様でも反省することがあるのね。思っているよりも悪い人ではないのかも。ただ、少し人より感情を口にだすことが苦手だけなのかも知れない)

 アーデンも熱くなった自分の頬を手で冷やしながら、胸が高鳴っていることに気づいた。


 それをきっかけにふたりで庭の手入れをしたり、うっかり木陰でふたりで昼寝してしまったり、ふたりの距離は次第に縮まっていった。

 そして、規則正しい生活ができるようになったルーカスは、夫婦の寝室のベットで遠慮なく眠るようになった。

 ルーカスの方が早く寝支度ができると、ベットに入って待っており、アーデンが遅れて入ってくると抱きしめてそのまま眠ってしまうぐらいには。



 ルーカスが領地に帰ってきてから2週間ぐらい経ったころだった。

 王都から1通の手紙がアーデンに届いた。それはアーデンの従兄弟のヴァージルからであった。

 アーデンの従兄弟のヴァージルは、アーデンより2つ年上で一番仲の良い従兄弟であった。

 ヴァージルは商会を経営しており、その仕事で隣国に行くついでに結婚祝いを持って寄りたいとのことだった。

 同行者にはヴァージルの顧客が一名一緒だと書かれてあった。それはシェイラ・アボットという女性だった。

次回は予約投稿済み。

明日24日18:00です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ