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「これからあなた達に説明しなくてはならないことがあります。最後まで黙って良く聞いてください。これは命令です」
三段高い場所に立ち、召喚の間に居る全員に聞こえるように大きな声を出す。人生でお腹の底から声を出すなんて初めての経験だったが、人間やる気になればできるものだ。
それに気付けば背筋もきちんと伸びていて、もう絶対に俯いて歩かないという決意も固い。なんだか本当に心から生まれ変わったような気がする。
「まず、あなた達に施した隷属魔法はあなた達の知るものと少し違います。普通は命令に背いたり主に危害を加えようとすると紋章に激痛が走ると言うものですが、この隷属魔法はさらに制約と処罰を詳しくできるようになっています。あなた達にも分かるように簡単に言うと、血の契約を交わすのと同じだと思ってください」
隷属魔法は主を設定し絶対に服従させるのを目的とし、反抗させないためのものでしかないが、血の契約とは契約事項を絶対に守らせる為のもので、この世界では法律より重い効果を持つ契約魔法の一つだ。
例えばプライバシーに関して絶対に他言しないと隷属魔法で命令しても、紋章の激痛に耐えることさえできれば命令違反もできない訳ではない。
しかし血の契約で契約を交わすと契約違反は絶対に許されず、例えば話そうとした途端に口が利けなくなるとか命を落とすというような罰則事項を設定しておけば、魔法により問答無用で行使される。ある意味とても恐ろしい仕組みを持ち、大事な契約にはこの血の契約を交わされることも多い。
それに契約なのでお互いにリスクを抱えることになる難点もあったが、その難点は隷属魔法に組み込むことで解決できた。
だが血の契約を発動させるにはその契約内容を行使する相手にしっかり伝えなくてはならない。一方的に行使できる隷属魔法とはその辺が違うのが不便だった。
そしてこの血の契約を知るのは極一部の者だけで、また血の契約の魔法を使える者も少なかった。そのお陰で契約を破棄される心配もなく安心して使える。
隷属魔法を研究し尽くし、本来は別の魔法である血の契約の効果を隷属魔法にも組み入れることに成功した少女の強い執念と怨念を感じずにはいられない。
「まず人を欺くようなことをしたら指を一本切り落とします」
真性の嘘つきは自分で嘘をついている自覚がないという。だからここに居るヤツらも人を欺くと言う曖昧な制約だと普通なら罰則が発動しないかも知れない。
しかし少女が隷属魔法に組み込んだ血の契約に則った制約は、人を欺くと言う曖昧な定義でも、彼らの主観ではなく主となる者の主観が適応される。
要するにコイツらに欺しているつもりはなくても、判定は主の考えが基準として適応される超便利仕様。なので主に欺くとはどういう事か明確な定義があれば、制約が曖昧であっても幅を広くできる。
その点コンプライアンスに煩い日本で生活し、少しの法律の知識も持つ倫理観を基準に適応させたら、きっとコイツらはたまったものではないだろう。まさに異世界改革だ。
「次に私利私欲に走ったらやはり指を一本切り落とします。最後に他者を見下し嘲ったらやはり指を一本切り落とします。切り落とす指がなくなったら手首や足首に肘や膝と言う関節を切り落とすことになるので、最後に首を切られることの無いように慎んでください」
それにこれは絶対に全員ぶっ殺してやると言っていた青年の恨みを少しは晴らすことにも繋がると思っている。
私は死をもって償わせるのは寧ろコイツらに楽をさせるだけだと考えている。コイツらには絶対に死ぬよりも辛い苦しみを永遠に与えたい。
何しろ手足揃えても指は全部で二十本しかない。欠損をも治す最高級ポーションを使えば元に戻るとは言え、ポーションもタダではない。それに治しては切られ戻しては切られ、何度痛い目に合うのか見物だ。
「簡単なことです。品行方正に過ごせば良いだけですからね」
三段高い場所から全員を見回しニコリと微笑んでみせるが、何故かみんな複雑な表情で口をバクバクさせている。
怒りを露わにする者、困惑を隠せない者、呆気にとられている者と色々居るが、黙って聞けの命令が効いているのか誰一人声に出す者は居ない。
「あぁ、あと、しばらくこの城に滞在させていただきます。その間欠損治療も引き受けますよ。当然有料ですが。それと他に私にどうしてもと言う依頼があればそれも内容によってはやはり有料で引き受けます」
お城の書庫には貴重な書物があるらしい。賢者候補の少女は何度か忍び込んでいたみたいだが、私は堂々と利用させて貰おう。いずれはこの世界を旅したいとは思っているが、なんと言ってもこの世界の事をもっと色々知らなくてはならない。
「それじゃ、私の滞在する部屋を用意してください。勿論来賓待遇の食事付きでお願いしますね」
歴代召喚者達は食事も粗末で牢獄に繋がれるようにして扱われていた。そんなの絶対に許せない。
いまだに豪奢な椅子に座ったままの偉そうな男に命令すると、偉そうな男は漸く席から立ったのだった。




