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「次は心臓に紋章が刻めるか試させて貰うわね」
「無礼者! こんな事をしてタダで済むと思うな!」
豪奢で派手な装飾を施した制服風の服を身に纏い、腰には同じく派手な装飾を施した剣を携えた髭の男が偉そうに怒鳴る。
しかし腰の剣は飾りなのかこちらに襲いかかってくる気配はまるで無い。
「あらっ、あなた達が散々してきたことじゃない。それにあなた達はもっとタチが悪いわ。異世界から問答無用で召喚して自分達の都合だけを押しつけるなんて、良識ある人間のする事じゃないわよね?」
もっとも自分の場合は丁度いいタイミングだったから今さら戻りたいとも思わないが、歴代の召喚者達はけしてそんなことは無かったと知っている。どんなに悲しみ絶望したか、きっとコイツらには絶対に理解できないだろう。
「我らの役に立てるのだ寧ろありがたいことだと思うがいい!!」
「それって自分達の無能さ加減を認めるってことね」
「何をっ!!」
「だって、自分達で解決できるならわざわざ召喚する必要なんてないでしょう。この世界の人達って本当にたいしたことないのね」
「言わせておけば!」
男は腰の剣に手を置くが、それより早く雷魔法のスタンで戦闘不能状態にする。護衛騎士でも無駄だったのに、何の研鑽も積んでいないおそらく地位が高いだけの男の反撃が通る筈がなく、一応剣術と体術の能力も貰っているから全然負ける気もしない。
「まったく…。無駄だって理解できないのかしら。ねっ」
まだ隷属魔法を施していない他の者に同意を得るようにニコリと微笑んでみせる。
「……」
「理解してくれて助かるわ。じゃそのまま大人しくしててね」
戦闘不能状態になった男の胸をはだけ心臓を意識し胸に手を当てて隷属魔法を施す。しかし隷属の紋章は心臓ではなく胸にくっきりと刻まれた。
「やっぱり心臓に紋章を刻むのは無理なのかぁ」
少しだけガッカリしたが、しかしなんとなく他のどの場所に施すより強く隷属魔法が掛かった手応えがあった。
「やっぱり胸の方が良いのかしらね…」
そう理解し、迷わず全員の胸に隷属魔法を施していく。一度別の場所に掛けた者も全員だ。重ね掛けができたことには驚いたが、それだけあの少女の執念を感じ何とも言えなかった。
「さあ、これで全員私の奴隷となれたのよ。喜びなさい」
「……」
戦闘不能状態の者を除く全員が、重く苦々しい表情を浮かべながら誰も何の言葉を発することなく俯いていた。
多分絶望を感じているのかも知れないが、歴代召喚者達の絶望はそんなものじゃない。もっともっと絶望を与えてやらなくてはと思う。
しかしまずその前にやらなくてはならないことがあった。
まずは召喚の紋章にさっきの隷属魔法解除の魔法を流し込む。
これはただ単に勝手な自己解釈なのだけれど、多分歴代の召喚者達は隷属魔法に掛かったままだったからこの転移の紋章に縛られているのではないかと考えたのだ。
もっともそのお陰で出会え、こうしてみんなの能力を授かることができたのだけれど、今となってはここから解き放たれ、魂だけでも自由にして欲しいと願ってしまう。
そうして歴代召喚者の解放を願い終わると次は召喚の紋章の書き換えだ。
次にこの召喚の紋章に魔力が流されたら、悪魔を召喚するかもしくは失敗して大爆発するか、実践できないので結果は定かでは無いが、ここ召喚の間に刻まれた召喚の紋章に手を加える。
そのための方法も書き換える紋章の文様もちゃんと頭の中にある。それが賢者の素質を持つ少女の願いで、そのために少女が考え抜いたのだからこればかりは実行しない訳にはいかない。
少女がこの召喚の紋章の文様を読み解いた中に座標のようなものが有り、きっとそれが地球に繋がる指針なのだろうと言うことだった。
そこを魔力を使い彫刻刀で彫るようにして慎重に慎重に書き換えていると、知らず知らず涙が溢れていた。
どんなに嘲られてもまるで反抗せずに研鑽を積む少女の記憶が浮かび、一見感情に乏しく口数も少ない少女が今までの自分に重なった気がして、十分過ぎるほど気持ちが伝わって来る。
しかし泣いている場合ではない、しっかりとやり遂げなければと手を止めることなく作業を続けた。
「さあ、これで次にどんな悪魔が召喚されるか楽しみね」
召喚の紋章を書き換え終わり、いまだに三段上の豪奢な椅子にふんぞり返る偉そうな男に笑ってみせる。
「なっ、何を…」
きっとコイツらじゃなかったとしてもコイツらの子か孫か、この国の者達は懲りずに召喚を続けるだろう。
本当は召喚の紋章やそれに関する資料を消し去れば二度と召喚なんて真似はできなくなるだろうが、それではここまで研鑽を積んだ少女の思いだけが無駄になってしまう。
きっとこれが彼女の考えた復讐なのだとしたら、それを止める権利は誰にも無い。記憶と能力を譲り受けた者としてはこの思いだけは成就さなくてはならない。
「さぁまだまだよ。あなた達への復讐はまだ終わってないから覚悟してね」
再度三段上の偉そうな男に微笑むのだった。




