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「あ、悪魔!」
「あらっ、この世界にも悪魔が居るのね」
怯えながら後退ろうとする男がこちらを見据え呟いた。もうそれ以上後退れないというのに無駄な抵抗をするものだ。
私はそんな男に構わずに隷属魔法を施そうとして手を止める。
「そうね、この際実験させて貰いましょうか」
復讐のために隷属魔法を極め尽くした少女が懸念していた問題を解決しようと思いつき、男の脛に隷属魔法を施し紋章を刻む。
「ねえ、あなた。隷属魔法の解除はできるのよね。これ解除してみせて」
鑑定し隷属魔法を施そうとしていた男に命令をする。一番始めに隷属魔法を施したローブの男だ。
「隷属魔法の解除はかけた本人でなければできません」
「もし解除できたらあなたのその隷属魔法を解除してあげてもいいわよ。この紋章を削り取るとか足を切り落とすとかしても絶対に無理かしらね?」
「そ、そんな、試したことも…」
ローブの男は口籠もり何かを思案するような素振りを見せる。
「傷は回復魔法で治せるのでしょう?」
「し、しかし欠損を治すとほどの魔法を使える者はここにはおりません」
(知ってる)
聖魔法を極めさせられた少女にしか使えなかった魔法だ。だがしかし、ダンジョンから希に見つかる最上級ポーションでも可能な筈だ。きっとコイツ程度にはそんな貴重な物は使えないということだろうか。
それにそんな重要な能力を持つ少女を使い潰し、生け贄にしたコイツらの考えがまったく理解できない。
それほどの能力を持つ少女を生け贄にすれば、さらに凄い能力を持つ者を召喚できると信じていたらしいけど馬鹿じゃないのかと思う。
それにしても命令したと言うのに躊躇して実行に移さないということは、隷属魔法の力が弱いのか実は完成されていなかったのか、それとも解除が無理だから実行できないのかと疑問に思う。
(命令の仕方を変えてみようか)
もしかしたら命令の仕方が悪かったのかと思い直し、さっそく別の事を命令してみようと考えるが、何しろ誰かを隷属させ何かを命令するなんて初めてなのでちょっと勝手が掴めない。
それに命令しておいてなんだけど、目の前で紋章を抉ったり足を切り落としたりなんてグロテスクな状況に耐えられる気がしなかった。
かと言ってすぐに結果が分かりそうな命令はなかなか思いつかず、結局他の人が施した隷属魔法を解除できるかの検証をすることにした。
「あの人に隷属魔法を使って」
団子状態で震える者達の中から一人を選びローブの男に命令する。
「分かりました」
今度は素直に従ったところを見ると隷属魔法は成功しているようだ。きっと命令の仕方が悪かったのだろう。
「や、やめろ! おまえ、私が誰だか分かってるだろうが!!」
やたらと豪華な服を着た男が抵抗しているが、ローブの男は構わずに隷属の紋章を腕に刻んだ。
「はい、ご苦労様」
ローブの男にそこを退けとばかりに体を押し入れ屈むと、今さっき施されたばかりの隷属の紋章に手をかざし解除を念じてみる。するとパリンと小さな音を立て隷属の紋章はあっさりと消えた。
多分だが、聖属性魔法の浄化か状態異常解除の魔法も仕事をしたのだと思う。相乗効果ってやつだろう。どう考えても自分が貰った能力はチート過ぎると驚くより呆れていた。
「なっ、そんな…」
ローブの男が呆気にとられる様子を見てニンマリとしてしまう。
他人が施した隷属の魔法を自分は解除できると知って、これで隷属された誰かを救い出すこともできるのだと思うとちょっと嬉しくなった。しかしふと新たな疑問が湧く。
もしローブの男が言うように隷属魔法を解除できるのがかけた本人だけだとしたら、かけた本人が亡くなった後に隷属魔法を解きたくなった場合どうするのかと。
その場合は自然解除になるようにはなっていない。別の人はどうか分からないが、あの少女が研鑽を積んだこの隷属魔法はそんな柔な魔法では無い。
「ねえ、本当に他の解除方法は無いの?」
「えっと…」
ローブの男に詰め寄ると途端に目が泳いだ。それを見てきっと何かあるのだと察した。
(通りで余裕があったのね)
ローブの男も偉そうな男も隷属させられたというのに、まったく慌てる風ではないことに漸く合点がいった。
「解除方法を教えなさい!」
厳しい口調で命令するとローブの男は冷や汗を流し抵抗する様子を見せながら答える。
「ほ、宝物庫に、ひ、秘蔵の、か、解除の」
「黙れ! やめろ! それ以上言うな!!」
(やっぱりね…)
きっとかなり貴重な魔導具か何か隠し持っているのだろう。それがあるから大丈夫だと高を括っていたのは理解した。
それにしても危なかった。もし他に解除できる方法があることに気付かなかったなら、この場でこれからすることがすべて無駄に終わるところだったと胸を撫で下ろす。
そして隷属させられていた歴代の召喚者達の知識だけではまだまだ足りないことがるのだと改めて思い知るのだった。




