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眩しさはだいぶ収まったが、変わらずに何も見えない白い空間で軽い浮遊感を感じていた。
空を飛んでいるのかまたは落下しているのか方向感覚もなく、知らないどこかをただ移動しているのは分かる。まるでタイムマシーンで時空間を移動しているかのように。
それにしてもここがどこなのか場所も空間の広さも把握できず、いったい自分に何が起こっているのかまったく理解でず、ただただ困り果てていた。
「今度はあなたの番なのね。可哀想に…」
気付くと一人の少女が自分と並行して一緒に移動していた。
「えっと」
少女と目が合うと少女は不思議そうに、または少し嬉しそうに笑った。
「あらっ、あなた私が見えるの?」
「はい」
少女の言語は聞いたことのない言語だった。しかし不思議なことに言葉を交わしていると言うより、まるで念話でもしているように少女と意思疎通ができた。
「良かった。それじゃぁきっとこれも可能ね。あなたは私みたいにならないで」
平行して移動していたはずの少女が突然体をスルッとすり抜け消える。まるで幽霊に何かされた気分だった。
すると沢山の記憶が頭の中に一気に流れ込んで来る。まるで前世を思い出した時のように。
言葉も理解できない知らない世界に突然召喚され、知らぬ間に隷属の契約をさせられ、魔力が尽きるまで毎日毎日怪我をした者たちを癒やし結界を張り続け、最後には次の召喚のための生け贄とされた少女の記憶。
その国では召喚者は膨大な魔力と特別な力を持つとされていて、その力を当てにして度々召喚が行なわれていた。
しかし召喚者が力を付けすぎるのを避け、ある程度使い潰すと次の召喚のための生け贄にする。召喚者の反撃を恐れてのことらしい。
少女の記憶には逃げ出したい帰りたいと言う思いを抱いて懸命に研鑽する姿があり、そしてその研鑽された能力と言語などの知識の記憶が確実に自分に定着するのを感じた。
「私もそんな国に召喚されるのね…」
能力は貰ったが、理不尽だらけの前世を思い出し、これからは現代日本の風習に従い強く生きようと誓ったばかりなのに、またまたまったく別の風習や考え方を持つ別の世界への転移に不安を覚えずにはいられなかった。
「ねえ、絶対に負けないで」
いつの間にかまだ幼さの残る少年がスッと隣に現れそして先程の少女のようにスーッと体をすり抜けていく。
大人に暴力を振るわれながら、同じく能力も時間も未来さえも搾取された記憶。怯えと諦めと気力を失っていく少年の気持ちがひしひしと伝わってくる。そして彼からも彼の持つ能力を授かった。
「悔しいの。悔しいの。悔しいの。絶対に復讐してよ」
次の少女は寝る時間も惜しみ、何かに取り憑かれたように秘密裏に魔法の研鑽に励み、自ら寿命を縮め生け贄にされていた。
勿論その研鑽された能力を引き継いだ。
「戻れるならアイツら全員ぶっ殺してやる!」
勇者のような少年だった。隷属違反の痛みに耐え、逆らい続けながらも復讐を誓い剣を振り続けていた。
「私の力もあげる…」
一見黙って流されていたように見える少女は人一倍知識に貪欲で、命令の穴を突いて魔法の研鑽に励んでいた。
次々次々と歴代の召喚者と思われる少年少女が現れては消えていく。
肌の色も言語も違うのに、それでもその記憶や思いはすべて伝わり、そして同じように彼らの能力を引き継ぎ自分の中に定着していくのを感じていた。
「あなたがあの世界で自由に生きられますように」
最後に現れたのは、まるで女神様のような雰囲気を纏った、年齢も性別も不詳の中性的な超絶美人さんだった。
不思議なことに美人さんが体を通過しても流れ込んで来る記憶や思いは何も無く、ただ疲れや頭痛や抱えていた苦しささえも癒やされていくようだった。
もうこれ以上誰かの記憶や思いを抱えるのはしんどいと感じ始めていたので、心からホッとしてその言葉を噛み締め、もう地球には帰れないのかとただ呆然と考えていた。
すると突然体に重力を感じ、座り込んだと同時に白かった世界が靄が晴れるように辺りの景色を写し始める。
座り込んだ床は堅く冷たく、三十畳以上ありそうな古代神殿のような石造りの部屋。壁には何かは分からない光源が等間隔に点り、部屋の中は必要以上に明るい。
そこは歴代召喚者達の記憶にあった召喚の間そのままだった。




