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「ねえセイラン。あのお嬢様が私を召し抱えてやるって来たんだけど、次に来たら隷属させるからね」
「いったいなんの報告ですか」
お嬢様がお父様に報告すると言った別れ際の言葉がどういう訳か脳裏に焼き付きモヤモヤしていた。
そのモヤモヤと鬱憤を晴らすべくセイランの執務室に突撃訪問して、忙しそうにするセイランに構わずに話しかけていた。
お嬢様には相手の都合を考えて訪問しろと言っておきながら、自分はセイランの予定など構わずに訪問して話し相手になって貰うのはいつものことだった。
貴賓室の使用人はまったく全然話し相手にはなってくれない。と言うか、どこか信用しきれないところがあって迂闊な話もできないでいる。
その点セイランなら隷属魔法を掛けてあるので言いたいこともはっきり言えて少しは安心できる。それに万が一不都合があったら命令してなんとでもできると言う思いもあった。
「お嬢様には警告したからって報告よ。なんのつもりか知らないけどこれ以上付き纏われたくないんだよ。それに彼女王子と婚約破棄してないって言ってたわ。噂なんて本当にあてにはならないものね」
「あぁ、あの方の家系は少々複雑な事情があるのですよ」
セイランは聞いてもいないのにお嬢様のお家の事情を話してくれたが、まったく興味もなかったので殆ど聞き流していた。
それでも掻い摘まんで要約すると、王子とお嬢様を婚姻させ生まれてくる子をいずれは王にすることを宿願としていたが、今回王子がその役目を果たせないと知り父親が婚約破棄と騒いでいるそうだ。
しかし生まれた時から王子の婚約者と決定され、幼い頃から王妃教育を受けているお嬢様としては、今さらその座を誰かに譲るなど考えてもいないらしく反発しているのだとか。
もっともその父親は生まれてくる孫を王にできないのなら自分の手で政権を交代させてやると息巻いていて、現王はそれに対抗するだけの余力がなく近い将来本当に政権交代が起こりうる可能性もあるそうだ。
そうなったら王妃様どころの騒ぎではないのだが、お嬢様はそこまでの事情は理解していないらしい。
「ってことはその父親はあの召喚の現場には居なかったんだね」
お嬢様の父親が召喚に参加したくてもできなかったのか、それとも召喚に関しては反対意見で参加しなかったのかによって話が変わってくる。主に私の感情的にだが。そして最も重要なのは歴代召喚者達の扱いを知っていたかどうかだ。
「彼は王とは派閥が違いますし、召喚に関与できるのは限られた極一部の者だけですので今となっては彼は幸運だったと言うべきでしょうか」
「それじゃ今まで召喚に関与してくてもできなかったってこと? それって歴代の召喚者達の扱いに関して知りながら参加を考えてたと思っていいのよね」
「そうなりますね」
だとしたらその父親も直接召喚に関わってなかったとは言え有罪だ。あの場に居なかったってだけであそこに居たヤツらと同じと考えて良いだろう。
もし私の目の前に現れて何か言ってくるようなら迷わずに隷属させてやる。それにあのお嬢様にももう本当に遠慮することはないかも知れない。
「それであのお嬢様は私が異世界からの召喚者だと知っていて、役目を果たせとかなんとか言ってたのか」
「彼女が知っていたのなら、王子がなにか自分に都合よく話したのではないですか。身内とは言え彼がそこまで家族にに話をしているとは思えません。一応召喚は禁忌とされていますからね」
王子は歴代の召喚者に手を出していたなんてはっきりとは言えないだろうからきっとそうなのだろう。
それにしてもやはり召喚は禁忌とさてていたのだ。それなのにこの国はその禁忌に手を出していた。それも何度も何度も。やっぱり許せない。
「それっていい迷惑なんだけどどうにかしてくれない」
復讐ってどこまで果たせば終わるのだろうか。少しでも関わった人達すべてにどうやったら思い知らせることができるのだろうか。セイランだって召喚に加担していたのにこんなに慣れ親しんでいて良いのだろうか。
誰の何が迷惑なのか自分でも良く分からずに言葉にしていた。
召喚されてすぐは怒りに満ちた感情のまま行動していたが、今はそこまで復讐に拘っていない自分の気持ちに気付いている。折角歴代召喚者達から受け継いだ力を復讐ではなくもっと何か別の事に使えないかと。
その方が歴代召喚者達も報われるのではないかと思おうとしている自分と、あんなに悔しがっていた歴代召喚者達の思いを果たすべきだと思う自分のどちらが正解か分からない。
結局この国から出られないのは、復讐に囚われ過ぎているせいもあるのだと認めざるを得ないだろう。
それにきっとこのままではセイランに思うように使われてしまう不安も実はある。あの司書が魔導具製作は国の利益になると言っていたけど、それって間違いなく手柄は国に取り上げられるってことだ。
あれこれと実に手際良く準備してくれるのもきっとそんな腹づもりがあるからだと分かっているのに、懲りずにセイランの所へ来てしまうのは、心から信じられる人が誰も居ないせいで、はっきり言って他に話ができる人が居ないのが問題だ。
「彼女に忠告はしてみますが、彼女は自分のしたいようにする方ですから私でどうにかなるか分かりませんよ」
セイランの言葉にハッとした。
そうだ、自分のしたいようにすると決めたじゃないか。
それに召喚される時、この世界で自由に生きれれますようにと最後の女神様のような人が言ってくれていた。
なのにいまだに自分以外の人を気にして動けないでいたなんて、自由にしていたように思っていただけで全然自由じゃなかった。
「そうね。私も彼女を見習ってやりたいようにやることにするわ」
次はないとか外道じゃないとか日本での倫理観を自分にまで適応させていたけれど、この世界の法律はそこまで厳しくもなければ細かくもなく、強い者が正義。生き残った者勝ちなんだから、これからは私もそうしよう。
いつまでも歴代召喚者達に縛られ復讐に取り憑かれていては自分の人生を楽しめない。歴代の召喚者様達には申し訳ないけれど、復讐はここで諦めて貰い私はもっと自由にできる国へ行こう。お金なら十分に稼がせて貰った。
ここから先隷属魔法が解かれる事があろうが、王が命を落とそうが私にはもう何も関係ない。成人してなくたって働いている子供は沢山いる。
ならば自分が何者か誰も知らない国へ行って、もっと本当の意味で自由に生きて行こうと決めたのだった。




