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司書の助言もあり、一から魔方陣を作らなくても良いと分かってからは作業の進みが格段に上がり、やはり人に聞くと言うのも時には大事なのだと実感していた。
多分聞かずにいたらまだまだ作業は進まず、もしかしたらもの凄い偉業を成し遂げたかも知れないけれどそれは何年後の話かってことになっていたか、もしかしたら途中で諦めることになったか、なんにしても司書と話ができたことは悪いことばかりではなかった。
それでもなんとなくあの司書と同じ空間に居るのはちょっと気分が良くないので、用事がない限りは書庫には出向かずに最近はずっと貴賓室に籠もり魔方陣の書き換え作業をしていた。
するとなんと驚いたことに今度は来客の多さに辟易することとなった。
今までは貴賓室専属の使用人が留守と返事をして追い返していたらしいが、私が居るのに留守と返事をする訳にはいかないらしく、一々どうするか聞かれるので必然的に作業を中断することになるのが本当に面倒だった。
そしてその中の一人にあのお茶会の招待状をくれたご令嬢もいて、お茶会を断ったというのにまだ何か私に用があるらしく本当に厄介な人に目を付けられてしまったようだった。
そもそも王子の婚約破棄の噂以前は召喚をしたという話は隠されていたので、私を知るのはあの召喚の間に居た者達とその身内くらいの者だった。
だからこの部屋を訪れる者のその理由には予測できるものがあったからこちらもなんとなく準備もできたが、ご令嬢がにどんな理由があって私に固執するのか見当もつかない。まったくもって大人しく部屋で伏せっていろよだ。
「この私がわざわざ出向いて参りましたのよ。ここで帰すような真似はいたしませんわよね?」
とうとうドアの前で騒ぎ出したご令嬢に私も痺れを切らした。私だってこれ以上付き纏われたくはない。ホントストーカーかって感じだ。
「どこのどちら様か存じませんが、良識のあるご令嬢なら相手の予定を聞いてから尋ねて来るんじゃないんですか」
私が小説で読んだ常識をたてにドアを開けるなりに応酬すると、ご令嬢は一瞬怯み顔に困惑の色を浮かべる。
「あ、あなた…。この私を誰だと思って」
「だからあなたがどこの誰かなど存じません。知らない人とは親しくするなと祖父母に厳しく言われてますからどうぞお引き取りください」
顔の認識もできなかった私にとって全員が知らない人だったけれど、特に親しげに声を掛けてくる人には注意しろと良く言われていた。
だいたい自分の事を知っていて当然と思い込んでいる態度自体がなんとも我慢できない。使用人が教えてくれなければ本当にどこの誰だかも分からなかったというのに、どうしてそこまで態度が大きくなれるのだろう。まるでどこかの王か王子のようだ。
「ぁ、あ、あなたのその無礼な態度、常識知らずの異世界人として今回は大目に見て差し上げますが次はありませんことよ」
私が召喚によって呼び出された異世界人だというのは知っているらしい。が、またしてもここで常識知らず呼ばわりのこの反応はマジ許すまじだ。
「どうしてあなたの方が常識があると思っているのです? 私からしたらあなたの方がずいぶんな常識知らずなのですが、その常識知らずの異世界人にいったいどんな用があるというのか是非に伺ってみたいものですね」
身長差が少々不利になっているが、おもいっきり背筋を伸ばし背伸びをし睨むようにしてご令嬢の顔を見上げた。
「あなたは貴重な魔法や変わった魔法を使えると王子が言っておりましたので、この私の専属として召し抱えて差し上げますわ。今回は召喚されたとは言え特別に何か役目を与えられてはいらっしゃらないのでしょう。ならばせめて私の役に立つくらいはなさい。それが召喚された者の勤めです」
「はぁ?」
多分王も王子も隷属させられたとは話せなかったのだろうけれど、まるで私が役立たずで役目を与えられないとでも思っている様子に心底呆れるしかなかった。
そんな役立たずに何故貴賓室を与えているのか疑問に思わないのだろうか。と言うかこのご令嬢は今までの召喚者達がどんな待遇で使い潰されたかを知らないのだろうか。そもそもこの国が何故召喚をしていたのかも知らないんじゃないだろうか。
考えれば考えるほど呆れ果てて言葉も出ない。このご令嬢の脳内はいったいどうなっているのだろう。
「王子の女癖の悪さを戒めてくださいましたのは結構ですが、それ以外にいったいあなたは何をなさってますの? 父上も何かお隠しのようですが、あなたのような少女にはきちんとした躾も必要でしょう。私がきっちりと礼儀作法を教えて差し上げますからご安心なさい」
なんだろう自分だけが正しいと思い込んで自分の正義を振りかざすこの態度、多分こういうヤツは私が何を言っても聞かないし、たとえ聞いたとしても自分の都合の良いようにしか解釈しないだろう。本気で付き合いたくない人種の筆頭と言っても過言じゃない。
私の経験上寧ろまだ悪意を直接ぶつけて来る頭の悪いヤツらの方が多少はマシで、こういう自分は賢いと思い込んでいる人種は恩着せがましく優位に立とうとするから本当に気分が悪い。ただ単にいい人ぶりたいだけだろうがと言ってやりたくなる。
「私の職務内容は極秘事項ですのであなたがお聞きになっていなくても仕方ありませんが、私はけして暇ではありませんの。もし私に何かご用時がおありでしたらこのように直接尋ねて来るのではなくこれからはセイランに取り次いでください」
「あ、あなた宰相様を呼び捨てになさって、なんという無礼な。本当にこれだから」
「王もその宰相様も私の下僕でしかないですよ。何でしたらあなたも私の下僕にしてあげましょうか」
私はご令嬢の言葉を最後まで聞くまでもなく遮り事実を教えてあげた。
「えっ、ま、まさか…」
「試してみます?」
威圧を含んだ笑みを浮かべ迫ると漸くご令嬢も何かを感じたのか察したのか大人しくなった。
「次はありませんよ。私をちょっとでも煩わせたらその時は覚悟してくださいね」
さっきのご令嬢の言葉をそのまま返してみた。
仏の顔も三度までと言うが、お茶会を断ったというのにこのしつこさ、三度も我慢していられない。忠告をした以上次は遠慮なく隷属させて貰おう。これでも手当たり次第に隷属させるほど外道ではないからね。
「あ、あなた、この私を脅すだなんて本当に呆れた方ね。時期王妃となる私にそのような態度は許されませんわよ」
「婚約破棄したんじゃないんですか」
「お父様が勝手にそのように騒いでいるだけですわ。お父様に何かお考えがあってのことでしょうが、私以外誰が王妃になれると思いますの?」
「そんなこと私に聞かれても…」
「まぁいいわ。今回のことお父様にも報告させていただきますから」
誰に何を報告する気なのかは知らないが、ご令嬢はそれ以上は何も言わず大人しく去って行く。
私はその背中を見送りながら本当に次が無いことを祈るのだった。




