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王様と枢機卿となんとか大臣という貴族様三人の欠損治療は何の問題もなくできた。が、しかし他に五名の者とは少し揉めたのでそのまま部屋に戻ってきた。
治癒魔法の代金に納得がいかないそうで、言い分としては指一本分の治療費と肘まで切り落とした治療費が同じなのは不満らしい。
私にしたら一度の治癒魔法であって、使う魔力と労力にはどちらも違いがなく、話し合う気も譲る気もまったくなかったので、不満があるなら治療をしないまでだ。治したいのならば是非他の方法を探って欲しい。
もっとも指の何本かが無くて不便なのは自業自得だと思っていたが、どうやら向こうにしたらそれは私のせいらしく、責任を取れと思っているのが丸見えなのも面白くなかった。
本当に血の契約の内容もどうしてそうされたのかもまったく理解できていない人が多くて困る。どうやら理解し無傷だったのは治療費に関して話し合った男ただ一人だけのようだ。しかし寧ろ一人でも無傷の人がいることに驚くべきだろうか。
予定していたことがまったくできなかった一日となってしまったが、九百万ゴルドを手に入れられたのでこれで旅の予定も立てやすくなった。
この国に縛られる必要などないとは言え、まだ一人で旅立てるほどの知識と自信がないのが問題だろう。それに貴賓室の居心地が良すぎるのも問題だ。この部屋ごと持ち歩けたら最高なのに。
「取り敢えず問題解決のためにはやっぱり情報収集しかない!」
時間が少し遅くなってしまったが、予定したとおりに書庫へと出向きびっくり仰天。紙の書物は傷むことを危惧し触れないようになっていて、その代わりまるでipadのような魔導具がズラッと並べられていた。
もっともネット環境が無いのでipadが一冊の本の代わりでどうしてそんなことができるのかも不明だが、操作方法としてはスクロールさせると言うよりページをめくる感じに近かった。
使いづらさとしてはページにしおりを挟むような機能はあるが、目的のページを探すとなると検索機能が無いので初めからめくって自力で探さなくてはならないことだ。
しかしそれにしてもこんなに凄い魔導具を作れるこの世界の人って意外に凄いのかと思う反面、召喚に頼ったりモラルや知識的にまだ未熟さが窺えるあたりのチグハグさがなんとも不思議だ。
もっとも日本は文化文明が発達しすぎて衰退の一途を辿っていると言う説もあるから、何が正しいのかは私では判断できないが、この世界ではヒロインになると決めた以上私は私の思うままに生きて行くしかないだろう。
「取り敢えず今日はこれを借りていっても良いかしら」
別場所に積まれた紙の書物に面白そうなタイトルを見つけ貸し出しを申し出てみた。
「こちらは原本でして貸し出しはしておりません。貸し出しをご希望でしたらこちらの記録本の中からお探しください」
ipadは記録本と呼ばれているらしい。他にもっとお洒落な命名は無かったんだろうか。
「それじゃ探して貰えますか? 私じゃ到底見つけられそうもないのでお願いします」
図書館のように分類別になっている訳でもないし、タイトルが背表紙になってもいないので記録本の中から目的のものを探し出すのは時間が掛かりそうなのでお願いしてみた。
そうipadには背表紙が無いのだ。魔導具化されているのは便利だけれど、大きさも厚さも一定で、見た目だけだとどれもこれも一緒。だから一々並べられた棚から一つずつ取り出して確認しなくてはならない。
せめて陳列するように並べられていれば少しは見つけやすいのだが、そうするには場所が足りないのだろう。便利なのか不便なのか本当に訳が分からない感じだ。
「そもそもここにある本は貸し出すことを考えられてはいませんので…」
司書と覚しき男が言葉を濁す。まったくもって司書としてそれはどうかと溜息を吐きたくなった。
「もしかしてあなたもどこに何があるか把握できてないの?」
「取り敢えず記録本にされた原本は別の場所に保管してありますので、ここに原本があると言うことはまだ記録本にされていないのだと判断できます」
「もしかしてここは書庫と言うより作業場ってことかしら?」
「作業場?」
「ええ、ここで記録本にする作業がされていると言うことでしょう」
司書と覚しき男の発言からそう推察して確認してみた。
「そうですね。早急に進めてはいるのですが、何しろ記録本にできる者が少なくて思うようには行かなくて困ってます」
「ねぇ、その技術私に教えてくれないかしら。そうしたら私も手伝えるし、なんだったら書物の分類も手伝うわよ」
「えっと…、私には判断しかねます。なんと言っても技術の流出は国の損失にもなりかねませんので…」
「この技術はこの国が開発したってこと!?」
召喚に頼るような国がそんな高度な技術を有していたとは本当に驚きだった。ちゃんとした人も少なからず居ると言うことだろうか。
「いえ、他国から買い取った技術です」
「……」
この国を少しは見直した今さっきの自分を殴ってやりたかった。と言うか他国から買い取った技術をそんなに自慢気にできる目の前の男に目眩を感じた。
なんともまぁ、どこまで行っても他力本願体質が抜けないと言ったところだろうか。それとも他人のふんどしが当然だと考えているのか、本当に呆れるしかない。
「分かったわ、記録本作成の手伝いは諦めるとしてもここの分類作業はさせて貰うわよ。それなら問題ないでしょう」
「えぇ、そ、そうですね…」
そんなつもりはまったく無かったが、まるで威圧にでも怯えるような司書と覚しき男はただ適当に返事をしているようだった。
私は寧ろ自分のためにこうして書庫の整理整頓分類作業を手伝うことにしたのだった。




