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春。そして始まり。

※この作品のストーリーはフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。ですが一部の地域や建物など、実在するものも含んでいます。

「ゆうすけ」



...誰だ....?



「きみって そんなこと するんだ?」



俺.....?俺が何を....?



「ごめん もう やめようか」



おい。待って。待ってくれ。



「ゆうすけ」



俺が何をしたんだ。



「優助...」



待ってお願い、話を聴いてほしい。


お願い....、お願いだから———




母「優助ぇ〜!!!!」


優助「..........ッ!!!!」



遠くから響く大きな声に酷い起こされ方をして体に強い力が籠りながら瞬時に目を開いた。



優助「......夢...」



何度か瞬きした後、目だけを動かして少し横を見る。

カーテンの隙間から真っ直ぐ黄色い光が入って来ている。

まだ頭に霧がかかったような状況であまり考えることができない。

少し視線を逸らすと謎に何もない空間に向かって伸びている自分の腕があった。



優助「(....なんかキモっ)」



夢に釣られて動いたらしく見られていなくてもなんだか恥ずかしい。

とにかく伸ばしていた方の腕を掛け布団の中まで戻して、錘が付いたかのように重い体をゆっくりと起こす。



優助「今何時....」



近くの小さな壁掛け時計を見ると短針は6、長針は1と2の間を丁度指していた。



優助「(大学は10時から.....ちょっと早いかな)」



そう思い、もう一度身体を横にする。



優助「........」



先程までなんの夢を見たのか分からないが気分が悪いものだったのは間違いなかった。俺はもうそのまま身体をまた起こしてベッドから抜けた。



優助「(マジなんの夢やったんだか)」



目を擦りながら扉を開ける。



零助「おぉ、おはよ。今日は早起きなんやな」


優助「兄貴....」



扉を開けて早々に5歳違いの兄、零助に遭遇した。

歯磨き粉が付いた歯ブラシを片手に.... どうやら朝の歯磨き中だったようだ。



零助「お母さんに頼んで起こしてもらうとか.... どうしたん?」


優助「いやぁ...大学、始まってからまだ1週間とかで早々に遅刻したくないし...」


零助「おお、偉っ」


優助「一切思ってないやろ...」



兄貴はクスッと笑ってから洗面台へとタッタと向かっていった。



零助「あ!そのまま下行けよ〜、お兄ちゃんの部屋入ってゲームで時間潰したりするんちゃうで」


優助「....」



どんどんと兄貴の声が遠くなったことにウザさを一段と感じる。結局他愛もクソもない話が終わり、俺は頭を掻いてから部屋から一歩足を出し、手すりにかけている自分の服を取りながら階段を降りて行った。



優助「.......ふあああっ....」


母「優助、今日はちゃんと起きてくれたんやね!」



一階の扉を開けるとテレビをさっきまで見ていたであろう母が居た。



優助「あー、うん。まぁね」



答えるのも面倒な気がして少し軽く返した。

すると母は椅子から立ち上がって嬉しそうな顔でこっちに近づいて来て突然ハグされた。



優助「......?お母さん....?」


母「ううん... ただ、あんなに小さくって無邪気な少年だったあの子がもうこんな立派な大学生になったんやなぁって... 嬉しいような、寂しいような...」


優助「...あーはい」



愛おしそうな声でそう言ってくれた。僕は何処かむず痒くて今にでも離れたい気分だったため良い反応はできなかった。



優助「....お母さん、朝ごはん食べたいから離してくれない?」



そう言って母の腕を押して離れようとした。


母「あぁ、そうやね。トーストあるからしたいようにしなさい。」


優助「バターと蜂蜜は?ある?」


母「うん。あるよ」



そのままキッチンの方へ向かおうとするとまた力強くハグされた。



優助「.....!」


母「これ最後!」



今度はすぐに離して、席には戻らず二階に上がって行ってしまった。



優助「.....(お母さんからハグとか、数年ぶりか...)」



何か違和感を感じるが....

とにかく思考を変えて食パンの袋から一枚取り出してトースターに入れた。


今日の朝食は焼いたトーストにバターを薄く塗ってスプーン一杯分の蜂蜜を満遍なく塗り広げたもの。

作るのはPBJくらい簡単なものだ。


少し行儀が悪いがもう作ったそこで食べる事にした。



ザクッ

優助「........ぅまいなぁ..」


零助「...座って食べへんの?」



突然の兄貴の声にびっくりして一瞬片膝の力が抜けた。



零助「そんなびっくりか?」


優助「っ...兄貴....今日仕事ないやんか...まだ寝てて良いんちゃうん....?」


零助「え?あー.... いや、お前の学校行く姿見たいしさ」


優助「...なんか今日みんなおかしいやろ...お母さんもそうだし。俺なんかした?」



兄貴は少し目を開いた後フハッと笑ってきた。



零助「そりゃあ、お前が頑張ってる姿見たら誰だって何かやってやろうってなるやろ〜」


優助「...あっそ」



呆れて視線をパンに戻して黙々と食べ続けた。



零助「....大学では、問題起こさんといてや」



先ほどとは打って変わって兄貴の声が一段と低く、シリアスに変わった。



優助「......んだよ、まだそれ言うやん」


零助「当たり前やろアンタ。あの小学校の頃の事あったら今も不安感じるし注意くらいするわ」


優助「はぁ...?もう10年以上前だって」


零助「お兄ちゃんはまだ心配や。アンタがまたあんな——」



バンッッ



優助「っ.....もう食べ終わった。....うん。ごめん。もう心配かけないよう気をつけるよ」


零助「......」



先程強く打ちつけたプラスチックの皿を隣の流しに置いてキッチンを後にした。

途中兄貴の横を通るため肩がぶつかったが顔に目線をやらなかったためその時兄貴がどんな顔をしていたのかは分からなかった。


兄貴は何も言わずに俺が通り過ぎた後同じくキッチンに向かって行った。




「心配や」




その言葉が今日見た夢の内容を思い出させてきて気分が悪くなる。


少しため息を吐いてから自分の席に座って母が見ていたであろうつけっぱなしの番組を特に意味も意義も無く無心で見た。



[大阪は今日は晴天の予定です!みなさん、いい1日をお過ごしくださいね!]



天気予報を見ても特に何も感じなかった。テーブルに置いてあった間食用の小さいポテトの袋を手に取って少し食べた。


ガサっ ポリポリ....

お菓子も無心に食べていた。



[次のニュースは、最近発生した〇〇小学校でのいじめによる自殺の事件について....]


優助「っ.....」



“いじめ”というその言葉に手が止まる。動きも思考も止まって、ただ聴覚だけがそっちに引っ張られた。


ニュースでは加害者、被害者の情報が少し詳細に語られていた。



[『ウチの息子がこんな事になって... まだ現実が受け止められなくって....っ』]



被害者遺族の言葉、声質、声の緩急、その全てを聴き逃さないくらいに静かに聴いていた。自分の意思とは関係なく....。



[『いじめをする奴は絶対悪だ!だから——』]

ブチっ



優助「......!」


零助「....気分悪くなるもん静かに聴いてんじゃないよ。俺も聴いてて気ぃ悪い」



どうやら兄貴が消してくれたようだ。

自分の身体が完全に固まってしまっていて、何も言うことを効かない放題だった。その分先程の瞬間は兄に救われた。



零助「...気分悪い状態で行きたくないだろ、大学」


優助「....まぁね」



テレビを消された事によってやる事が無くなってしまった。

目線が落ち着かず机の木目を意味もなくあちこちと見ていた。



零助「さっき掘り返した俺が言うのもおかしいかもしれないけどさ、あんまり引きずんなよ」


優助「うん」



そう言って兄貴は俺の向かい側に座った。

どうやら兄貴はチョコシリアルを食べるようだ。

........いつまで経っても甘党だな...



零助「なんか他の話しよっか... せや、大学どう?変わらず楽しい?」


優助「変わらずって、まだ1週間やで.... 今はまだ慣れるのに必死な時期や」


零助「あははー、そっか〜」


優助「なんやねん...」



ちょっとしたツッコミで兄貴はガハハと大袈裟に笑う。



零助「どう?友達できた?」


優助「....友達、って言える友達はまだ居ない」


零助「ふーん。まぁアンタならすぐできるよ」



そう言って俺の頭をわしゃわしゃと撫でてくる。

もう大人なのに子供のように扱ってくるから気がおかしくなる。



優助「.....もういいってば」


零助「ふはは、まだガキんちょやなぁ〜」


優助「....兄貴がそう思ってるだけやろ」


零助「...かもな」



そう言ってから兄貴は何処か緩んだ表情の後何か思いついた感じで俺の頭からスッと手を離した。

寝癖と相待って髪の毛がぐちゃぐちゃだ。



優助「......どした?」


零助「優助ってさ、国際交流とか興味ある?」


優助「海外...?何?また行くん?」


零助「いや、お兄ちゃんが行ってた大学の国際交流のやつ。逆に来るんだって」



兄貴は大学で国際学科だった。それで一年ほど留学に行っていた事がある。

その時、俺は高校生だったから日々学業に取り組んでいてあまり興味は無かった。なんなら今もだ。



優助「...いや、興味ないよ」


零助「えっマジ?」



度肝を抜かれたのかさっきの明るい表情から一気に分かりやすく驚愕している顔に変わってしまった。

そこまでだろうか.....


零助「え...楽しいよ?英語喋るのさ...」


優助「てか俺、日本文学専攻だし....」


零助「でも他文化とかその国の言語楽しめると思うけどなぁ〜?...あ、外国の友達!作れるぞ〜」


優助「いい。大学の友達だけで大丈夫」



あまりこのことを周りに言うことはないが、正直友達を多く作りたくないのが本音だ。

すると兄はムスッとなって



零助「じゃあ今友達は?居るのかよ」


直球にそう言ってきた

そんな問いに思わず少し顔を顰めた。

確かにそうだが指摘されるのは流石にイラッとくる。



優助「うるさいよ兄貴。まだできてないだけだってば、みんなそう」


零助「.....お前、見栄っ張りなとこあるからお兄ちゃんとしては心配なのは変わりないって」



また心配。一番自分に向けて言われたくない言葉だ。

言われる度に思わず身体に意味なく力が入ってしまう。



優助「....いいって.....」


零助「....そっか、分かった」



やっと話が終わってしまった。

すると机の振動を感じた。



優助「....?兄貴の携帯?」


零助「え?ああ、ほんとだ。タイミング良すぎ...」



そのまま兄貴はもぐもぐした状態で椅子を立ち、携帯を持って廊下に向かって行った。



零助「ん.... Oh, hi Will! What’s wrong?」



そのまま廊下の扉を閉めて行ってしまった。

声が遠くなっても扉越しに楽しそうな会話が聞こえる。



優助「(兄貴はすごいなぁ....)」



俺は英語が分からない。喋ることはもちろん、書くこともできない。

まぁ日本で生きているのだから正直英語も必要ないだろうと思っている。

世界はグローバル化が進んでいるかもしれないが、俺は逆に海外に行くことに興味はないしこれから先海外の人と話すこともないと思う。

だから俺には関係ない。



優助「(まぁ、このままで満足か...)」



そんな事を数分1人考えていると兄貴が戻って来た。

まだ楽しく話している様子だったがそろそろ終わりらしい。


零助「Okay! I’m looking forward to seeing him~……ぅしっ」



電話が終わってすぐこっちをみてニヤリとして来た。



優助「....留学の時の友達?何処行ったんだっけ?」


零助「そう、アメリカ行った時にできたアメリカ人の友達」


優助「その人が来るん?」


零助「ん?ああ、いや、同じ大学行ってるそいつの弟が留学に来るんだよ」


優助「ふーん」



申し訳ないが全くと言って良いほど興味はそそられなかった。



零助「それで——」


優助「ごめん。ちょっと持ち物とか確認してくるわ」



そう言って席を立って自分の部屋に向かった。

兄貴が何か言いたげだったが聞く気にはなれなかった、だから無視をした。

多分変わらず自分の自慢話や武勇伝を続けられるんだろうなと思った。

兄貴はそんなとこがある。



父「ぉおっ」


優助「お、おぅ...おはよお父さん」



階段を上がっている途中父と鉢合わせた。

さっきまで普通の顔だった父が何故か俺の顔を見てふふっと笑顔になった。

.....やっぱりみんな変じゃねぇか



父「どうする?今日は大学まで車で送ってやろうか?」


優助「え、今日お父さん仕事ちゃうん?」


父「うん。仕事やけど通勤路でアンタの大学通るし、明日日曜やし楽やろ?ついでや」


優助「...お、おう...」



父が自分から送ってくれると言ってくれるのは何気に初な気がする。

いつもは少し暗めで寡黙な父だ。



父「何時に出るん?」


優助「え、ああ....8:30くらいだったら丁度良いけど... ほんまどうしたん...?」


父「ん?いや、普通やで」


優助「いや言うけど普通ちゃうでそれ」



そうツッコむと父は笑ってそのままネクタイを締めながら階段を下がって行った。



優助「(みんな本当にどうしたんだか...)」



完全にお笑いみたいな状況だ。

とにかくいつもの肩下げバッグを自分の部屋から取った。

時間を確認すると意外にも時間を潰せていたようで時計は短針はそろそろ8を指すところだった。

よし、と思ってまた階段を降りて行く。



母「優助〜!今日は食堂で食べてね〜!」


優助「はーい」



階段を降りている途中、母の部屋からそう大声で言われた。

そのあとバッグの中から財布を探してしっかりと昼飯代があるのか確認した。



優助「3000円....か....全然あるな...」



そう呟いて財布を閉じてバッグにまた入れた。



優助「(大体500円だと考えて... 数千円で帰りバーガーでも買おうかな...)」



そんな事を考えながらリビングルームにある服にたったと着替えた。

いつもの灰緑色のパーカーと、真っ白の長袖カッターシャツだ。



零助「はい、水筒。ここ置いてるからな」


優助「ん、ありがと」


父「優助〜、そろそろ出る準備終わらしてや〜。先に車ん中居るで〜」


優助「はーい」



用意された水筒をしっかりと取ってバッグに入れた後、すぐに外に出た。



零助「お前本当にその黒いスニーカー好きだよな」


優助「まぁね.... できるなら白でも良いんだけど汚れ目立つの嫌いだから」


零助「今度新しいの買ってやろうか?白であまり汚れつかないやつ」


優助「いい、別に。」


零助「はいはいそーですかっ。....んじゃ、安全運転で行ってくるようにな」


優助「ん」



また兄の顔を確認せずそのまま鍵を開けて扉を閉めた。



零助「んじゃ、気をつけていってらっしゃい」


優助「.......ん」



扉をバタンと閉めて、前を見る。

特に変わりもない家前の光景に一度肺を外の空気で満たし、ゆっくり全て吐き出した。



父「優助〜!もう準備大丈夫か〜?お父さん遅刻しちゃうよ〜!」


優助「うん。行くよ、そっち」



足早に車に向かって乗った。



父「ぅい、大体ここから10分で着くからな〜」


優助「うん」



外を眺めて何も考えない事にする。

車が動き出している間、見慣れた街並みを眺めながら今日の夢のこと、ニュースのことを思い浮かべてしまった。



「そんなことするんだ?」

「いじめをする奴は悪だ!」

「いじめによる自殺」

「小学生のいじめ」


優助「.....っ!」



思わず身体を丸めて蹲ってしまった。



父「....どうした?なんかあったか?」


優助「.....いやっ....ちょっと腹痛がしただけ...っ」


父「近くのコンビニ寄るか?」



父の不安そうな声に思わずもっと気が悪くなる。



優助「ううん。.....今さっき治った」


父「そうか.... なら良いけど....」



いつもの違和感のない愛想笑いでなんとかやり過ごす。

最近は中々に上手くなったと思う。


....もう嫌な事を思い出すのはやめよう

そう思って車内に流れるラジオを大学に着くまで集中して聴き続けた。





父「忘れ物はないか?」


優助「うん。全部バッグの中だし」


父「オッケー... んじゃ、お父さん頑張ってくるよ。優助も頑張ってな」


優助「うん」


父「お前はできる子なんだから!」



そう言って父は車の窓を閉めた。


あの瞬間、父がどんな顔をしているのかは見えていたし見ていた。だが一瞬で思い出せなくなった。



優助「......できる子」



自分から笑顔が消え失せるのが分かった。

....もう考えるのをやめよう。

そう思って振り向いて歩き出した。

俺は他に何も見ず自分の足の進み具合を見ながらただ講義の教室に向かった。

飛び交う声に振り向いたりせず、ただ道と足を見て歩いた。


少し顔を上げると目の端でグループでキャッキャと楽しんでいる女性達、教授らしき人と話をする人、ふざけ合っている男性達。

俺が見る限り、この場で1人歩いているのは確実に俺だけだった。


意外にも気分は悪く無かった。確かに家族みんなが思う通り寂しいけど、兄貴が言ったような問題を起こすくらいなら1人静かに過ごしたい方だった。



結局その日の大学はほぼ誰にも話しかけられず、話しかけず終わってしまった。

教授の話を聞いて、教室を移動して、1人でご飯を食べて。

今もベンチで1人だ。みんな座る様子も無くただ朝来たであろう道を引き返している。


俺は父の迎えを待つために座って時々スマホで連絡を取っていた。



『あとどれくらい?』


『正確には分からないけど数分で車に乗るよ』



いつもの可愛い犬のスタンプと共に送られた。その犬がグーっという感じでこっちに向かってグッドサインをしているだけのスタンプだ。

思わずフッと鼻から息が溢れて少し口角が上がってしまう。


大体時間が分かると暇になってしまい一度学校を探索してみる。

そういえば1限目の教室のある棟に綺麗な花壇があったはずだ。

そう思って朝来た教室の棟前まで行く。

そこにはやはり、色とりどりの牡丹百合と立派な桜の木があった。


少し風に吹かれ、頭が揺れる姿とひらりと降りてくる白桃色の花弁に何故か強く魅入ってしまう。

赤色、黄色、桃色、白色....

綺麗にきちんと色ごとに花壇で分けられた色達は混じらない、だが揺られ降りてくる桜の花弁が混じる事を知らない色達に被さっていく。


花壇の近くまで行き、土を見ようとしたが白桃色に埋め尽くされかけていた。


それを見て目を細めた後、しゃがみ込もうとした瞬間携帯が鳴った。その拍子にしゃがむのを失敗し、後ろに尻餅をついてしまった。



優助「いっ.....、ん.....?」



尻餅をついたついでにサイドポケットから飛び出たスマホに目をやると「お父さん」という文字と共に父の顔アイコンが見えた。

父から電話だ。



優助「......っはーい?」


父「おお、優助。今日下ろしたとこで待ってるからな」


優助「うん。すぐ行くわ」



そう答えてすぐに切った。

ヨイショと立ち上がって手でお尻に付いた砂をはらって、また来た道を振り返らず戻っていく。

大学での楽しみが少し出来た気がする。

人気の無い道を抜けると車が見えた。



優助「お父さん...」


零助「よっ!」



零助が助手席から顔を出してきた。



優助「兄貴も迎えに来たん?」


父「いや、零も別の用事で送り迎えや」


零助「ぴーす」


優助「今日用事ないんじゃ無かったん?」


零助「ああ、結局お兄ちゃんの大学に用事あってさ。まぁ乗りぃや」



そう言われて後部座席に乗った。



零助「シートベルトしぃや〜」


優助「分かっとるよ〜....」


父「突然外したらあかんで〜」


優助「はーいはいするわけないよ...」



2人は和ませようとしているのか、はたまたただ明るいだけなのか... 何か楽しそうにしている。

その間にしっかりとシートベルトを閉め、それを確認した父が車を走らせ始めた。

自分はまた朝と同じく車窓から外を眺めながら到着まで暇を潰すつもりだったが兄貴が話しかけてきた。



零助「ああ、そうそう。今日お兄ちゃん、お兄ちゃんの大学行ってきたんよ」


優助「ん?ああ、なんでやったん?」


零助「朝、お兄ちゃんが話してた事覚えてる?」


優助「ん?」


零助「国際交流のやつ」


優助「ああ...」



確かに今日の朝にそんな話をしていたなぁと思った。

完全に頭の中から消えていた。



零助「もっかい聞くけどさ、ほんまに興味ないん?」


優助「無い」



朝の時のような曖昧な回答や逃避行動を避け、今度はキッパリと答えた。



零助「なんで?」


優助「俺が問題起こすかもしれないから」


零助「.....」


優助「兄貴朝からずっと言ってたやん。大学でも、大学だけじゃなくどんな場所でも問題は起こすなって。俺がまた“いじめ”を()()()()()()心配なんやろ?」



今までこの言葉を使うのは好きじゃなかったから回りくどく言っていたがもう思い切って言ってやった。

頭の中で思い浮かべるのも、見るのも嫌いだ。

それでもなお使ったのは本当に断りたいからだった。



零助「.....そっか」


優助「うん。だから——」


零助「んじゃ明日留学生の為の“仮観光案内ガイドさん“としてもう約束しちゃったからごめんやけど頑張って」


優助「........は?」



この日、そうこの日だ。

何気ない日に何気ない事で何気なくないことが始まる。

今までの俺の人生が大きな音を立てて変わっていくのであった。


続く

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