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第3章:生産性の最適化

第3章:生産性の最適化


ギルドホールを包む嘲笑の渦を、レオンは背中で受け流した。彼にとって、他者の評価は市場の「ノイズ」に過ぎない。重要なのは、これから実行するオペレーションの「効率性」だけだ。


彼が最初に向かったのは、ギルドが指定した「野生スライム討伐区域」――街の城壁の外れにある、湿った窪地だった。腐葉土とカビの匂いが鼻をつく。


「キュルル…」

背嚢から顔を出した手持ちのスライムが、同族の気配を察知して小さく鳴いた。


(スライム討伐。市場価格、銅貨10枚。だが、これは『討伐』依頼であり、『テイム』を禁ずるものではない。契約書の文面は常に精査すべきだ)


レオンは窪地に足を踏み入れた。野生のスライムが数匹、泥水の中で跳ねている。冒険者にとっては銅貨数枚の「害獣」だが、レオンにとっては「無償で手に入る労働力リソース」だ。


彼は魔力を練り、ビーストテイマーとしての権能スキルを発動する。

契約コントラクト


彼の魔力は、Sランクパーティの勇者や魔術師のように爆発的なものではない。それは細く、粘り強く、相手の意識の隙間に染み込んでいくような、地味な力だ。野生のスライムたちは一瞬抵抗を見せたが、すぐにその動きを止め、レオンの足元に集まってきた。


(よし。スライム、5匹追加。初期投資、ゼロ。順調だ)


次に向かったのは、街の反対側にある「ゴブリンの巣」――放棄された古い砦だ。

石材に染み付いた獣の匂いと、彼らの排泄物のアンモニア臭が混じり合い、強烈な悪臭を放っている。


「ギャア! ギャア!」

見張りのゴブリンが、錆びた剣を振り回して威嚇してきた。知能は低いが、凶暴性だけは一人前だ。


(ゴブリン討伐。テイムの許可は取得済み。報酬は放棄)


レオンは隠れない。ただ、堂々と巣の入り口に立った。そして、先ほどテイムしたスライムたちを前面に押し出す。


「ギャ?」(なんだ、こいつら?)

ゴブリンたちが、獲物でも敵でもないスライムの群れに戸惑い、一瞬動きを止めた。


その隙を見逃さない。

契約コントラクト


レオンの魔力が、混乱するゴブリンたちの精神を捕らえる。

Sランクパーティでは、彼のテイムは常に補助だった。強大な敵をテイムするには、まず仲間が相手を半殺しにし、抵抗力を奪う必要があったからだ。


(だが、相手がFランクなら話は別だ)


ゴブリンたちは数秒間暴れたが、やがてその場に膝をつき、レオンの前にこうべを垂れた。

こうしてレオンは、金貨一枚(と噂された)の初期投資で、スライム10匹、ゴブリン5匹からなる、彼自身の「労働力」を手に入れた。


その日の午後。

街外れの訓練場を借り切ったレオンの行動は、暇を持て余した冒険者たちの格好の「見世物」となっていた。


「おい、見ろよ! あの元Sランク様、ゴブリンに草むしりさせてるぜ!」


その言葉通り、レオンはテイムしたゴブリンたちを訓練場の隅にある雑草地帯に一列に並ばせていた。


(第一段階:オペレーションの標準化)

レオンは腕を組み、ゴブリンたちの作業を冷徹に観察する。


「ギャウ!」

一匹のゴブリンが、薬草コモンウィードとよく似た毒草を引っこ抜いた。


「違う」


レオンが短く告げると、彼はそのゴブリンの昼食用の干し肉(報酬)を没収した。

「ギギィ!?」

ゴブリンは抗議の声を上げたが、テイム契約の力には逆らえない。


(インセンティブの設計。正しい行動(薬草の採取)には報酬(餌)を。誤った行動(毒草の採取)には罰(報酬の没収)を。これを反復し、条件反射(パブロフの犬)レベルまで練度を高める)


彼はゴブリンたちに、コモンウィードの匂いを嗅がせ、葉の形を覚えさせ、そして「根を傷つけずに」引き抜く動作だけを徹底的に反復させた。


「あいつ、マジで何がしたいんだ?」

「戦闘訓練ゼロかよ。ウケる」


嘲笑が飛ぶが、レオンは意に介さない。

(彼らには、これが『特殊化(分業)』による『生産性』の飛躍的向上につながるプロセスだとは理解できまい)


次に、彼はスライムたちを下水道に連れ込んだ。

ヘドロと汚物の強烈な匂いが立ち込める暗闇の中、レオンはスライムたちに命じる。


「あの壁の『粘菌』だけを食え。それ以外は食うな」


スライムたちは、本能的に目の前の汚泥を食おうとする。

「違う」

レオンは魔力でスライムの動きを制止し、目標物(粘菌)だけを指し示す。


(スライム清掃の依頼は、ただスライムを放つだけでは効率が悪い。彼らは満腹になれば動かなくなる。だが、特定の『資源』だけを狙って吸収させれば、作業効率は数倍に跳ね上がる)


これは戦闘ではない。「労働」だ。

そしてレオンは、このFランクモンスターたちを、この街で最も効率的に「労働」できる、最強の「専門家集団スペシャリスト」に鍛え上げようとしていた。


その地味で、奇妙で、狂気じみた「訓練」は、日没まで淡々と続けられた。

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