9. 邂逅
先日参加した「コミケ106」にて頒布した自作小説です。
神津島と、私の大好きな黒曜石
これらをPRするために書き始めたものです。
折角なので、この場を借りて定期的に投稿していこうと思います。
遅筆になるかとは思いますが、楽しんでいただければ幸いです。
んーーーーーー。 良いの、ないなぁ。
本格的に砂浜のビーチコーミングを始めていくらか経った辺りで、僕はそう心の中で思い始めていた。
シーグラスかと思ったらプラスチックの破片だったり、キラリと光った物を嬉々として手に取ったらただの金属片、終いには魅力的なグラデーションの青い半透明の袋に手を出そうとして「それクラゲ!触っちゃ駄目!!」と賢治に慌てて止められる始末。
かたや賢治の方は、色褪せた野球ボールや真っ白でキレイな楕円球型の石、手に馴染みそうなサイズ感の流木、といったものを集めてホッコリしていた。ぐぬぬ、お宝のハードルが低い奴め・・・・。
僕も何かしら納得のいくものを見つけないと、なんか負けた気分になる!
そう変な対抗意識をにじませながら、少し奥まった砂浜に足を踏み入れたとき、視線の先の波打ち際に、ふと黒い物体があるのに気がついた。お、あれはもしかして・・・・?
少し期待を膨らませて近づいて見てみると、どうやら手のひらサイズの石の様だ。波に濡れて漆黒のような黒みと艶を帯びている。しかも、何やら虹色の模様が中心部に入っているように見える。
こ れ は ! もしや賢治が言っていた黒曜石かな?
膨らませていた期待を更に高めながら、それを手に取ろうと近づいた、瞬間だった。
ゾワッとした感覚が背筋を突き抜け、同時に、その石と置き換わるように――いや、そこだけ別の空間が現れたような形で――いきなり、砂浜にうつ伏せで横たわった人間が現れた。
その感覚と突然の出来事に、僕は伸ばしかけた手を瞬時に引っ込めて少し後退した。
いけない、この感覚は・・・・信仰体だ!!
それも、かなり強烈な奴!
頭の中でアラートが引っ切り無しに鳴って退避を促しているのに、何故か湧き上がる好奇心から、その人間から目を離すことができない。
その人間は、ボロい薄茶色の服のようなものを纏い、ボサボサの長い髪をしていて、小刻みにザワザワ動いている。腕や足の見える範囲の肌は、黒い。さっき見つけた石のような漆黒と艶をしている。背格好からして、細身の女性・・・・?
そんな悠長な分析を無意識にしていると、その人間はゆっくりと浮き上がるように立ち上がり、それでも長い黒髪のせいで見えない顔をこちらに向け、言葉を発した。
「「私を起こしたのは、おぬしか?」」
・・・・・体が 思うように 動かない。
顔が見えてないのに、向こうからこちらを睨みつけているのがはっきりと分かる。コレは、悪霊か?だとすれば、近づかれるのはマズイ。取り憑かれて身体に入られたら、面倒な事に・・・・。
そんな事を考えながら必死に身体を動かそうとする僕に、無慈悲にもその女性は近づいて、何か呟きながら手を伸ばしてくる。
「「久しぶりに意識が戻ったわ・・・・。どれ、早速起きがけに、一口頂こうかのぅ?実に旨そうな臭いじゃゴォ゙バッ!!?」」
女性が喋っている最中に、僕の左後方から、さっき湧き水を汲まれた蓋の開いたボトルが飛んできて、女性の顔面にクリーンヒットした!
ゴンッと鈍い音を立てて倒れた女性に、宙に浮いたボトルが落下し追い討ちをかけ、水がダバダバと女性に注がれる。
うわぁ、痛そう。
「月陽!大丈夫!!?」
後から賢治が僕の肩を掴んで揺さぶってくる。今の攻撃で金縛り的な何かは解けた様だ。
「う、うん、ありがとう賢治!助かったよ。アレ、賢治にも視えてるんだね。」
「うん、俺にも視える!でも良かった!取り憑かれては無さそうだね!ここの湧き水は幽霊にも効果があるって話だから、これでいくらか大人しくなるはず!」
「そう、それならよかっ・・・・、ちょっと待って。」
僕は安心しかけて、ふと強烈な違和感を感じる。
いや、僕も幽霊だと思っていたのだが、おかしい。
「え?そうだけど?」
「だとしたら・・・・今投げたボトル、なんで当たったんだ?」
その疑問に対する答えが頭の中で浮かんだ瞬間、
僕はさっきと同じ金縛りを受けた。
「っっっ!!??」
「月陽!?」
強張った身体を圧して、どうにか視線をさっきの女性の方に向けると、そこには、立直り濡れて服が透け、長髪がいくらか纏って顔が露わになった女性がこちらを見据えていた。
・・・・いや、それはもはや「女性の顔」ではなかった。
その女の顔は、蛇のような顔つきで口に鋭い大きな牙を携え、その眼は明らかに爬虫類の瞳孔をしていた。そして蠢いていた髪は、紐のような細さの蛇の集合体だった。透けた服の下からは、漆黒の艶のある鱗肌と、体の芯部分の真っ白な肌が垣間見えた。
その姿を見て、僕は先程脳裏によぎった、信仰体の、幽霊や神とは別の、ある形態を再想起する。
それは、妖怪や魑魅魍魎などと称される「怪異」。
「「ウ~厶、中々に良い一撃をくれるではないか小僧。実に活きの良い獲物で何よりじゃ。これならより味も期待できるというモノ。ケ、ヒ、ヒ!」」
そう艶かしく笑いながら、「ヘビ人間」とも言うべき容姿のその女性は、2人を見ながら二股に別れた長い舌を、シュルリと鳴らしたのだった。




