7. 大平家にて
第7話
神津島村 ツバメの宿 周辺
宿を出て数軒先に、目的の知り合いの家はあった。
賢治がその家の玄関の扉をインターホンすら押さずに遠慮なく開き(これは田舎あるあるなんだろうが、ホントにやるんだと心底驚いた)、
「ばぁちゃーん、じぃちゃーん、居るー?」
と声を掛けると、
「はーーいー」
と女性の声が聞こえ、パタパタとスリッパの足音を滑らせながら、奥から優しい顔つきの壮年女性が出てきた。そしてそれに続くように、後から少し厳つい顔つきの壮年男性もやってきた。
「あらあら賢ちゃんいらっしゃい!吾郎さんから話は聞いてるわよぉ。」
「ハイ、これお土産のパッション!」
・・・・なんだって?情熱??
「あらあら、ありがとうねぇ」
そう言いながら中身を確認するおばさんの手に、手のひらサイズの黒褐色の楕円球型の物体が見えた。どうやら食べ物・・・・果物の類らしい。
「おや、その子が例の転校生かい?」
「そう!今日から学校始まるまで、うちの宿に泊まるんだ。」
「初めまして。風見月陽と申します。」
「あらあら、ご丁寧にどうもぉ。大平かな子と申しますぅ。」
実に典型的な大らかおばぁちゃんだ。
背後、口一文字で黙ってこっちを見ているじいさんとはまるで対照的である。
「ねぇねぇ、今日は久しぶりにアレに乗せてよ!アレ、カッコよくて好きなんだ!」
賢治がキラキラした目でおばさんに嘆願する。
アレ?カッコいい?なんだろう、スポーツカー的な奴かな。こんな島に?
頭に「?」を沢山浮かべている僕をよそに
「そう言うだろうと思って、もう準備してるわよぉ。外で待っててねぇ。」
「ヤッターー!」
と、まるでオモチャを買ってもらう小さな子供のようにはしゃぐ賢治とおばさんの話が勝手に進んでいく。じいさんもグッとサムズアップしながら奥に引っ込んだ。
言われるがままに外に出て、流石にどういう事か賢治に聞こうとした矢先、玄関からボトルと一緒に何かを持って出てきた賢治が、その何かを僕に手渡した。
ヘルメットだ。
・・・え?ヘルメット?
予想外の物を渡されて固まっている僕に向かって、自分のヘルメットを付けながら賢治はこう言い放った。
「今からじいちゃん達のバイクに乗せてもらうよ!それ着けて!」
その言葉と同じタイミングで、賢治の背後からエンジン音が2つ鳴り響き、ライトの明かりと共に、2台のバイクが姿を現した。それもいわゆる原付、スクーターみたいなタイプじゃない、赤と白、もう一つは青と白のフレームに覆われた、何やら普通じゃなさそうな流線型のバイクだ。
・・・・え、今から、これに、乗れと?
「落ちないように、しっかり腰を掴んでいてねぇ〜。」
そして僕は、心の準備もないままにフルフェイスメットを被ったおばさんの青白バイクの後部座席に乗せられ、ゴツいエンジン音と共に走り出す事になってしまった。
・・・まぁ落ち着こう、乗るのは初めてだから想像できないけどいくら見た目がアレでも制限速度とかあるからそんな怖い運転ではないやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!??
思ったよりも速く荒い容赦のない運転に、僕の心の中の金切り声が、誰にも聞こえることなく島の山道に木霊していった。
パッションフルーツの語源について
賢治が大平さんに渡した果物、パッションフルーツ。
月陽はパッションと聞いて「情熱」と脳内で訳しましたが、実際の意味としては「キリストの受難」を意味してるそうで、その実の花の形状の要素がキリストの受難を象徴していると捉えて、そんな名前にしたそうです。・・・・私もこれを書いてから初めて知りました(汗
偶然ですが、この小説のテーマに関係していて感慨深いです。




