6. ツバメのお宿
神津島村 村落の外れ辺り
「・・・・ヨシ、着いたよ!ようこそ!民宿『ツバメのお宿』へ!」
物忌奈命様と別れてからしばらく歩くと、外見が小洒落た庭のある建物に辿り着いた。入り口には、ツバメを模った木製の看板が掛けられている。
賢治の仰々しい案内に導かれつつ中に入ると、木造だがあまり古さを感じさせない玄関と、そこに並ぶ様々な小物や水槽の金魚に出迎えられた。へー、面白い雰囲気。流石民宿って感じ。置いてあるものは、なんだか昭和を感じさせるような、レトロな雰囲気の物ばかりだ。好きな人はめちゃくちゃ好きそう。
「おお、いらっしゃい!君の部屋は、2階に上がって左手一番奥だ!とりあえず荷物を確認してゆっくりしていくといい!」
奥から出てきた吾郎が、齷齪と動きながら月陽にデカい声を掛ける。どうやら食事の準備をしているようだ。
軋む階段を上がって、言われた部屋を覗いてみると、見覚えのある荷物が置かれた6畳ほどの畳部屋があった。TVや勉強机、エアコン、衣装棚等、少し小さいが、一通りの家具は揃っているようだ。おまけに角部屋。窓から雲が高い空と村落、そして碧い海が見えた。これがオーシャンビューって奴か。
しばらく窓の外を眺めていると、開けっ放しにしていた部屋のドアから賢治がヒョコッと顔を覗かせた。
「どう?部屋、気に入ってくれたかな?」
「ウン、いい眺めだね。僕都会っ子で、こういう景色が見える部屋、少し憧れだったから嬉しい。」
「そっか、良かった!東京だとこういう景色見る機会、あまりなさそうだもんね!俺もここからの景色、好きなんだ!鳥もちょくちょく遊びに来てくれるしね!」
「そういえば、さっきもそうだったけど、賢治は鳥とお話ができるの?」
「ん~~、話すって言うよりも、お互いなんとなく考えが通じるって感じだねぇ。俺の信仰力の性質由来なんだってさ。ソコソコ珍しいらしいね。」
TVか何かで聞いたことがある。ある特定の種類の生き物と心を通わせられる信仰力を持つ人がいるらしい。彼もその1人なんだな。
「よく鳥を操れるかって聞かれるけど、そう都合の良いものじゃないよ。相手の気持が分かるだけで、その気持を操れるわけじゃないからね。まぁどうして欲しいかは向こうから伝えてくれるから、仲良くなりやすくはあるけど。」
「ふ~ん、いつから鳥の気持ちが分かるようになったの?」
「それは、5歳ぐらいの時で・・・」
そう言った途端、賢治の顔が少し曇り、あれだけ忙しなかった口の動きが止まった。
ん?とその動きに疑問を持った瞬間、下の階からメガホンクラスの大声が床を突き抜けて飛んできた。
「オーーーーイ賢治ィィィィィ!!!ちょっといいかぁーーー!!??」
ビックリしすぎて座ってた腰が少し床から浮いた。あの声には慣れないなぁ。
「ハーーイ! ん~~?なんだろう?ゴメンね、ちょっと行ってくる!」
そう言うと、先程一瞬見えた曇り顔は消え、朗らかな顔に戻った賢治は部屋を出て下に降りていった。
・・・・暇だし、気になるから僕も行ってみるか。
好奇心から賢治を追いかけて下に降りると、台所で2人が話をしていた。
どうやら、料理に使う水が足りなくなったらしく、賢治に汲みに行ってほしいらしい。何やらキャンプで使うような大きなボトルを2つ持たせられていた。
そう言えば、この島は離島では珍しく、湧き水が豊富に湧く島で有名って、パンフにも書いてあったな。
「あ、そうだ!折角だし月陽も一緒に行く?」
「もしかして、湧き水?」
「そう!多幸湾の湧き水、一緒に汲みに行こうよ!ついでに少し遊んでこう!」
「オゥ、あまり無理はさせるなよ!その子はまだ病み上がりなんだからよ!」
「いえ、大丈夫です。ちょっと興味もあるので行ってきます。」
「そうか!なら良いがよ、2人でどう行くつもりだ?賢治1人ならチャリでどうにかなるだろうが、2人乗りで多幸湾は流石に辛いぞ!バスもしばらく無いしな!」
その問いに、賢治がンンンン、としばらく考えた後、閃いた顔で
「大平のじいちゃん達に連れてってもらう!」
と言いだした。どうやら知り合いに車かなにかを出してもらうつもりの様だ。
「おぉ、分かった!じゃあついでだ、かな子さんにこの差し入れ渡してくれ!こっちから連絡は入れておく!頼んだ!!」
「アイアイサー!じゃあ、行ってきます!」
吾郎から何かの入ったビニール袋を渡されながら、賢治は元気よく飛び出していった。
なんとも行動が疾い。この親にしてこの子ありってやつなのかもしれない。
なんて事を考えながら、僕も慌てて賢治の後を追いかける。
その2人の姿を見送りながら、吾郎はしみじみと、此処には居ない誰かに向かって語りかける。
「節子ぉ、あんなに人見知りだった賢治が、今や同年代の子を自分から遊びに誘えるようになったぞ。やっぱ、この島に来て、良かったわ。」
そう慈愛の表情を浮かべながら、ふと吾郎は訝しむ。
「それにしてもアイツ、風見君相手に、珍しく挙動不審にならなかったな。・・・・あ〜〜、もしかして、気付いていない、のか?
まぁ、風見君のあの感じ、何も言わなかったら気付かないわな!しょうがないか。
・・・ククク、こりゃあ良い、気付いた時のアイツの反応が楽しみだ!」
そう呟きながら、吾郎は包丁を片手に、悪ガキのような顔でほくそ笑んだ。




