10. 暴露
怪異
―――それは、神同様「土地に根ざしたもの」であり、古来から世間では「妖怪」「魑魅魍魎」等と言われるものである。
怪異は神と同様に個々の意思を持ち、居着いている土地からの信仰力のみで「具現化」し、現実世界に影響を及ぼすことができる。土地の信仰力のみだと力が弱く、大したことはできないが、幽霊同様人に取り付くことで、より強い力を発揮する事も可能になる。時に、神に匹敵する力を持つことも―――
その女性型のヘビ人間の怪異は、獲物と見定めた2人・・・・先ずは月陽の方に手を出すべく擦り寄ってくる。
これは、僕達の手に負える存在じゃない。逃げて助けを呼ばなければ。
そう考え、金縛りを解こうとするが、先程よりも強固でうまくいかない。
賢治の方をみやると、彼はヘビ人間を直視しながら、恐怖で顔を歪ませ、口を痙攣させながら数歩下がってへたり込んでしまった。あぁ、賢治も駄目か!
「「さぁーーてぇ、改めて頂こうか。何処にしようかのー?」」
と、僕の身体を冷たい鱗の手でベタベタ触りながら彼女は吟味する。齧る所でも品定めしているのか、冗談じゃない!
「「・・・・ンー?ンーーーー??」」
と、彼女は何故か触っていた手を止め、軽く思考すると
「「おぬし、もしや、もしや・・・・?」」
そう口にすると
あろうことか
動けない僕の身体から、上と下の服を半分程ひん剥いた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!?!?」
上は胸から、下は局部まで露わにされてしまった僕は、声にならない悲鳴を上げる。
こ・・・・・コイツ、何っっって事してくれてんのーーー!?
「「おおぉ、やはりそうか!おぬし、小僧じゃなくて小娘じゃったか!!男にしては妙に身体の形が変じゃと思ったのよ。」」
自身の疑問に答が出て満足げな彼女が、そう言いながらケタケタと笑う。
「「しかし、随分と胸が貧相じゃから、思わず男と見間違うたわ!ケヒャヒャ!」」
アッ、こいつ僕が一番気にしていることを!コノヤロウ!!
先ほどの羞恥心が少し消え、代わりに怒りがこみ上げてきた矢先、大事なことに気が付いた。
そうだ、後ろには賢治がっ・・・・!
屈辱と羞恥、そして怒りで半分涙目になっている眼で賢治の方を見ると
そこには、恐怖心と驚きと高揚感をグチャグチャにかき混ぜ、眼をまん丸に見開いた宇宙猫のような表情で、頬を赤くして固まっている賢治の姿があった。
そして、プシュー、という効果音とともに、その表情のまま後ろに倒れて気絶してしまった。
どうやら、恐怖、煩悩その他諸々の情報をいっぺんに脳にぶち込まれたせいで、思考回路がオーバーヒートしたらしい。
それを見て、さらに爆笑するヘビ人間。
・・・・ゴメン賢治。色々と。
「「ケヒャヒャヒャ!!はあーぁ、実に面白きものを見せてもらった・・・・が、私は女子を喰う趣向は無い。おぬしはそこで大人しくしておれ。」」
服をいくらか戻し、変わらず動けない僕の両腕両足に、髪の毛から変化した細長い紐のような蛇を縛り付けた。
そして、彼女は気絶した賢治の方に顔を向ける。
「「あやつも、実に美味そうだしのぉ」」
そう言って舌舐めずりをしながら、その爬虫類特有の瞳孔を煌びかせ、彼の下に歩み寄っていった。
いけない!!このままだと賢治が喰われる!!
「賢治!!目を覚まして!!逃げて!!!」
手足に絡み付いたヘビをどうにか解こうとしながら、僕は賢治に向かって精一杯叫ぶ。
僕の声が届いたのか、我に返って意識を取り戻した賢治は、目の前に迫りくるヘビ人間を見て状況を認識。
すぐさま立ち上がり、港の方へ駆けて逃れようとしたのだが・・・・
「「逃がさぬ」」
僕にかけたのと同じ金縛りを賢治にもかけたらしく、敢え無く賢治も走り出したモーションのまま動けなくなってしまった。
「「そんなに怖がらなくとも良いぞ?喰い殺すつもりはないのでな。ちょっとばかし男の血で精をつけたいだけじゃ♡」」
そうわざと可愛げに言いながら、彼女はユラリと賢治に近づき、後ろ向きで固まった賢治の首筋を狙って、一際大きな一対の牙が光る口を開いた。
「「な~に、直ぐに済む。」」
後ろ向きでよく状況が分からないまま、ヘビ人間に喰い付かれることを覚悟した賢治は、予想した感覚を裏切る衝撃を背中に受けて、砂浜に顔面から倒れ込む。何が起きたのかと、口に入った砂に噎せ返りながら振り返ると
自分を庇い、腕をヘビ人間に喰い付かれて血をポタポタと流している、月陽の姿があった。




