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第6章:別れ

1


X921年 – 冬


プロスペレールの首都からの手紙は、使者によって届けられた。


それは正式なものだった。彼は騎士試験に参加することになる。


フィンレイは息子以上に興奮しており、顔を輝かせていた。


ささやかな送別会が開かれる予定だったが、彼は元々人付き合いが少ない性格なので、招待する人がほとんどいなかった。

家族は一応声をかけた。


彼は村の女の子たちの間で年々人気者になっていた。

彼が上半身裸で訓練するのを、彼女たちは裏庭の外でキャンプして眺めていたのだ。

でも、思春期のエルフ少女たちを送別会に呼ぶのは――


うん。それはちょっと違うだろう。


だから、家族だけの夕食会になった。


フィンレイは酔うと感情的になるようで、少し涙を流しながら古いフォークソングを歌っていた。

イゼキアルはあまり多くを語らなかった。彼が何を考えているのかは、誰にもわからなかった。

ついに大人になり、プロスペレールの騎士団に加わることにワクワクしていたのか?

それとも、不安だったのか?


贈り物として、フィンレイは懐中時計を彼に渡した。

豪華なものではなかったが、美しかった。


カリーは、モリアに手伝ってもらって作った赤いリボンのネクタイを彼に渡した。


「これ…お、お兄ちゃん、あの…モリア先生といっしょに作ったの。」


「ありがとう、カリー。」彼は優しく言った。


カイリーはナイフを贈った。

それには彼のイニシャルが刻まれていた。


「こんなの、もらいすぎだよ。」


「気にしないで。あなたたちそれぞれの成人祝いのために、ずっとお金を貯めてたのよ。」


「ありがとうございます、カイリーさん。」彼は頭を下げた。


「あっ…い、いえ、どういたしまして。」


「もー、ママの贈り物なんだから、素直に受け取ってよね。」サイモンが口を挟んだ。


「ふん。今年も何も用意してなかったんだろ?」イゼキアルが淡々と言った。


「するわけないだろ。どうせまた埋めるか、忘れるだけだろうし。」


その場にいた全員がサイモンとイゼキアルに視線を向け、頭にハテナが浮かんだ。


「何言ってるんだ?イジーがそんなことするわけないだろ。」父・フィンレイが言った。


「本当に?俺は見たんだぞ、カリーが作った人形をこいつが地面に埋めるのを!ずっと黙ってたけど、あいつは昔から全然変わってないんだ!もう我慢できないんだよ!」サイモンが立ち上がった。


「落ち着いて。それが本当なら、きっと彼にも何か理由があるはずよ。ね、イゼキアル?」カイリーが彼を見た。


「……」


「イジー?」フィンレイが言った。


彼はまっすぐ前を見据えた。

拳を握りしめた。


「何の話かわからないよ、サイモン。君が見間違えたんじゃないかな。僕はそんなこと一度もしてない。もらったものは全部、金庫の中にちゃんと保管してる。」


「チッ、嘘つき。」


「嘘じゃないさ。君が言ってた場所を掘ってみればいい。何も出てこないと思うよ。」


サイモンは苛立っていた。


「本当にクズになったな…」

彼は立ち上がり、裏庭へ向かった。


10分後


「なっ…ない?ここに埋めたはずなのに…?」


「ほらね。君は想像力が豊かすぎるんだよ、弟くん。」


「ふざけんな…俺はたしかに…!」

フィンレイが割って入った。


「もうやめろ、サイモン。」


「ふん。じゃあ、どこかに移したんだな。カリーがくれた大事なものを台無しにした事実は変わらないだろ。」


彼は鼻で笑い、イゼキアルの横を通り過ぎた。


サイモンは彼の態度が気に入らなかった――特にカリーに対するものが。


カリーは何も悪くないただの子どもだった。

それを他人のように扱い、血の繋がりを否定するような態度に、サイモンは怒り心頭だった。


そして、彼の怒りはもう限界だった。

2


イゼキアルの旅立ちの日がやってきた。


ここ数日、カイリーはどこか様子がおかしかった。


彼女はキッチンで同じ皿を洗いながら、疲れたようにため息をついていた。


 


「どうかしたんですか、カイリーさん?」

サイモンが後ろから駆け寄った。


「ん? なんでもないわ、坊や。ただちょっと考え事をしてたの。あなたのお兄ちゃんがこれからどんなことをするのかなって、騎士としてね」

彼女は微笑んだ。


「へぇ、まあ、オレはさよならって感じだけど」


カイリーは驚いて瞬きをした。

「えっ、それは言わない方がいいわよ」


「なんで? どうせあいつがいようがいまいが、変わらないよ。家族と話さないし、何か一緒にやることもない。いない方が自然なくらいさ」

サイモンは手を頭の後ろで組みながら言った。もちろん、彼は兄を愛していたし、大切にも思っていた。でも、長年にわたるわだかまりが、少しずつ彼の中に染みついてきていた。


あのときのことが、ずっと胸に引っかかっていた――カリーが手作りした人形を、兄がまるでゴミのように捨てたことを。

言いたかったが、ずっと我慢していた。

でもイゼキアルは言葉巧みに逃げるタイプで、それをサイモンはよく知っていた。


兄は特別だった――強くて、賢くて、でも一匹狼で、家族とろくに関わろうとしない。そして今、旅立つことで、この家の空気は何も変わらないような気がして、それが逆に不気味だった。


「お兄ちゃんだって、私たちのこときっと寂しく思うわよ」

カイリーは、どこか無理やりな笑みを浮かべて言った。


「ハイハイ、きっと妹たちが恋しくて、泣きながら旅立つんだろうな」

サイモンは皮肉っぽく言った。


「サイ…」


カリーがリビングにひょっこり顔を出した。


「おにいちゃん、本当に行っちゃうの?」

彼女は小さな声で聞いた。


「うん。たぶん、それがずっと望んでたことなんだろ」


「そんなことないと思うよ、サイモン。彼、もう十七歳だし、自分の進む道を見つけたのよ。それを祝ってあげなきゃ」


サイモンは舌打ちをした。


「べ、別に怒ってなんかねーよ!むしろ清々するってやつだ。家族のこと何一つしないくせに、飯も一緒に食わないし、誕生日にも…」


彼はカリーを一瞬見た。


「どうして君たちはあいつの肩を持つんだよ。俺や父さんより、カリーと君に一番冷たいのに。むしろいなくなった方がいいに決まってる」


「――」


「それが本音かい、弟よ?」


「!!」

カイリーの視線が、裏口の方へと移る。


イゼキアルが汗だくで立っていた。


「そうだよ。お前なんてクソみたいな兄貴だ」


「へぇ? 遅くまで父さんが働いてたとき、本を読んでやったのは誰だったっけな?」


彼は木の剣を肩に担いだ。


「あれは何年も前の話だろ。それもどうせ父さんに頼まれたからやっただけだ。カリーには一文字だって読んでやってないくせに。オレとは大違いだ。お前は家族なんかどうでもいい、自分勝手なやつだ。旅立てて嬉しいんだろ?」


「やめて、二人ともケンカしないで。サイはお兄ちゃんを誇りに思うべきだし、イゼキアル、あなたも子どもの言葉を真に受けちゃダメよ。彼はまだ十二歳なんだから、誤解もするわ」

カイリーは二人をなだめようとした。


「お前は母さんにそっくりだな。結局、あいつみたいに出ていくだけさ」

サイモンは歯を食いしばり、拳を握った。


「ガキの癇癪はもう終わりか?」

イゼキアルは顎を少し上げた。


「もう我慢できねぇ。勝負だよ兄貴。送別代わりにぶっ飛ばしてやる」


「お兄ちゃん!おにいちゃん!ケンカしないで、ママの言うとおりだよ、仲良くしようよ、いくまえに!」


だがサイモンは、もう引き返すつもりはなかった。

長年積もった兄への苛立ちは、今まさに爆発寸前だった。


「いいぜ。ただし、ハンデをやるよ。魔法は使わない。傷つけたくないからな」


「好きにしなよ、兄貴」


こうして――


兄弟の最後の決闘が始まった。

「お願い、やめて…もうやりすぎよ」

カイリーが懇願した。


二人の兄弟は裏庭で向き合って、木剣を構えていた。


カリーが息を切らして戻ってきた。


「ママ! 村長は忙しいって――町にスーツや鎧を着た大人たちがたくさん来てるの。軍の人たちみたい…」


「またあいつら? なんでうちばかり…しかもこんな時に…フィンレイも町にいるのに…」


「ハンデがあっても、勝てっこないぞ、サイ」


「うるさい!オレには未来が見えるんだ!

お前が土下座して許しを請う姿が見える!」

彼は剣を兄に向けた。


「ふむ、許しを請う姿ね…じゃあ、その未来が本当に来るか見せてみろ」


風が彼らの髪をそっとなびかせた。


二人はじっと見つめ合った。


兄弟それぞれに戦う理由があった――

一人は妹への愛と苛立ちから。

もう一人は弟に“立場”を教えるため。


最初に動いたのはサイモンだった。

地を蹴って突進し、芝を巻き上げた。


彼はまるで野生動物のようだった。

胸に溜まった感情が一気に噴き出す。


イゼキアルはその攻撃を受け流し、サイモンはよろけた。


「ぐっ…くそ!」


再び突進する。


彼の動きにはリズムも戦術もない。

ただ、兄を打ち負かしたい一心だった。


「本気で来てないだろ、お前」


もう一度振りかぶる。


「子どもの癇癪に本気になる理由なんてあるか?」


バシッ!


イゼキアルの剣がサイモンの背中を打った。

手加減していても、地獄のような痛みだった。


「うっあああ!」


サイモンは手で背中をさすった。


「…クソが…」


まるで鞭で打たれたような感覚だった。


「お前、トール流を学ぶ機会なかっただろ。

行く前に少し教えてやるよ、兄からの最後のレッスンってやつだ」


「おいおい兄貴、こんな長く喋ったの何年ぶりだよ」

サイモンは苦笑した。


「―――」


「…ほら、また黙る」


サイモンは木剣を杖にして立ち上がり、再び構えた。


(もっと集中しろ…隙はどこかにあるはずだ…)


彼はイゼキアルの手元に目を向けた。


「…そこだ」

彼は呟く。


もう一度突進した。


「…」

イゼキアルは手首を緩め、トール流の構えで受け流す準備をする。


「!!」


だがサイモンは、あえて身体ではなく手首を狙った――

その結果、イゼキアルの剣は宙へと舞った。


兄の剣術の弱点を見抜いたのだ。


そして、空いた隙に首を狙って振り下ろした。


「もらった!」


イゼキアルは本能的に反応した。


「ぐあっ!」


サイモンの腹に膝蹴りが炸裂。


さらに、襟元を掴まれ、そのまま一回転して――

庭の鉢の中に放り投げられた。


意識があるかどうか、自分でも分からなかった。


息ができない。完全に呼吸が止まった。


ようやく意識を取り戻す前に、イゼキアルが駆け寄ってきた。

だが心配して来たわけではない――


彼の喉元に木剣を突きつけるためだった。


「降参するか?」


呼吸は荒く、苦しかった。


だが何よりも――

苦しかったのは、呼吸ではなく――


誇りだった。


「はぁ…はぁ…」


サイモンは剣を払いのけた。


そして組みつこうとしたが、十二歳の少年が十六歳の兄に勝てるはずもない。


イゼキアルは冷静に剣の柄を振り上げ――


ゴッ!


――サイモンの後頭部に打ち下ろした。


彼はそのまま気を失った。


目を覚ました時には、

イゼキアルはすでにプロスペレールへと旅立っていた。


兄弟の別れは――

険悪なままだった。

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