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第4章:家族の日

「さあ、みんな準備はいいか?」


「うん、準備できた!」


「いいよ。」


「うんうん、パパ、準備できたよ。」


「無理しないでね、あなた。」


今日はカリーの5歳の誕生日。そして彼女の通過儀礼として、兄たちとの模擬戦が行われる日だった。カリーは支援役として参加する。


この遊びは「巫女を守れ」と呼ばれ、当然ながら、カリーがその“巫女”役を務める。


「急所に木剣で“致命打”を与えられたら勝ちだぞ!もちろんズルは禁止!」


母親は心配そうだったが、最後にはこう言った。


「大丈夫よ。手加減するってば!それに彼女はフィリップスの子よ!」


しかしそれでも、不安は拭えなかった。カリーは他の子どもたちよりも少し体が弱く、病気がちだったからだ。だから、膝や肘にはパッドを着けていた。


村の近くの草原の丘に立つ家族。カイリーは木の下で救急箱を抱えて待機していた。


「よし、じゃあ全力で来いよ——」


その瞬間、サイモンがすでに跳びかかってきた。木剣を振りかざし、父の首を狙っていた。もちろん背が低いのでジャンプするしかなかった。


「まだ話してる途中だぞ!しかもチームで戦うって言っただろ、サイ!」


フィンレイはサイモンの剣を受け止め、彼の襟をつかんで放り投げた。サイモンはイゼキアルとカリーのところまで転がった。


「連携が大事なんだ、サイ。これはチーム戦だぞ。」


「わかってるけど!でもカリーを守りたいんだ!」


フィンレイは一歩下がって、ショックを受けた様子。


「俺が娘に何かすると思ってるのか?」


「お父さんは時々、手加減しないから…」


フィンレイは肩を落とし、しょんぼりした。


「俺がカリーを傷つけるとでも…我が子に信じてもらえないなんて…」


「今だ」とイゼキアルが囁いた。


2人はフィンレイの両側から同時に駆け出した。


「!!」


フィンレイは両方の攻撃を辛うじて防ぎ、剣を横に振るった。


「…なんだ今のは?」


「作戦Aだ」とイゼキアル。


「感情操作」とサイモンが付け加える。


「俺の娘を利用するとは…読んであげた絵本の悪役よりタチが悪いな。」


「恋と戦は——うわっ!」


フィンレイの剣を避けるため、イゼキアルがサイモンの襟を引っ張った。


「助かった、兄ちゃん。」サイモンはフィンレイを睨みながら言った。


「さっき、お父さんは子供を傷つけないって言ってたよね?」


「ん? カリーにはね。女の子は繊細だからな。でも男には骨折くらいで根性が育つってもんさ。」


サイモンはごくりと唾を飲み込んだ。


「作戦Bに移行だ。」


「う、うん…」カリーは緊張しながら頷いた。


空気が静まり返る。カリーは目を閉じ、魔力を集めた。


水の球を想像し、指先に集中した。


今までほとんど魔法を使ったことはなかった。モリア先生の授業は受けていたが、実践となると話は別だ。


「あくあ…ぼーる…」と言いながら発射したが、水球はぐにゃりと歪み、地面にすぐ落ちた。


「ばーっ、失敗しちゃったぁ…」胸に手を当て、ちょっと大げさに嘆く。


「よく頑張ったね。だけど——」


フィンレイが彼女の作った小さな水たまりに足を踏み入れたその時。


イゼキアルが地面に手をつけた。


「加熱。」


魔力が流れ、泥が粘土のように重くなり、フィンレイの動きが鈍る。


「まったく…お前ら本当に俺の子か?頭良すぎだろ…」


その隙にサイモンが突撃した。


「うおおお!」


剣を振り上げて飛びかかる。


だがフィンレイは自らブーツを脱ぎ捨て、身軽に回避。


サイモンは泥に顔面から突っ込んだ。


「はい、死亡。」


木剣の先で首を軽く突く。


「ちぇっ、やっぱダメか…」イゼキアルが舌打ち。


カイリーが泥まみれのサイモンを抱き上げ、治療に向かう。


「3、2、1——行くぞ!」


再びフィンレイが襲いかかる。


イゼキアルの剣とぶつかり合う。少年の力では父に敵うはずがない。


けれど、イゼキアルは戦術では年齢以上の実力を持っていた。


「疲れてきたか、イジー?お前の父さん、まだまだ元気だぞ!」


バシィッ!と剣がぶつかる音が響く。


「……あ、それ使うんだな?なら俺も使うさ。」


剣の流派トール


手首を弾くと、衝撃波が剣の先まで伝わり、「カンッ、カンッ」と音が響いた。


「わあ、お父さんと兄ちゃんってすごいな!」サイモンはカイリーの水魔法で洗われながら感心していた。


(実質水責めだったが)


「ご、ごめんね!」


パキッ、パキッ…


イゼキアルの剣がひび割れ始める。


「くそっ…」距離を取ろうとするが間に合わない。


バキンッ!


剣が折れた。


ドスンッ!


フィンレイの一撃が首に入り、気絶。


「ふぅ…ちょっと焦ったわ。」


ガシャンッ!


自分の剣も同時に壊れる。


「さて…姫様を捕まえに行くか。」


「ひゃっ!」


フィンレイが指をわきわき動かしてカリーに近づく。悪役のような顔だ。


カリーは剣も使えず、魔法もまだ未熟。


だが、イゼキアルに教えてもらったことを思い出した。


身体の中心から水の柱を放つイメージをし、力を集中する。


目が血のように赤く光った。


「ピラ・アクアエ!!」


「パパがつかまえちゃうぞ〜!パパが…ごぼっ!ごぼごぼ!」


ものすごい勢いの水柱がフィンレイを吹き飛ばす。


「すごいぞカリー!やったな!」サイモンが叫ぶ。


——だが、すぐに凍りつく。


カリーが、動かない。


「か…カリー?」


空を見上げたまま、立ち尽くしていた。


その目から——鼻から——口から——


血が溢れ出す。


「カリー!!」カイリーが悲鳴を上げ、走り寄る。


「お願い、しっかりして!こっち向いて、カリー!」


「ママ…あたま…いたいよぉ…」小さな声で呟いた。


「フィンレイ!助けて!」


「な、何が起こってるんだ?!」


「言ったでしょ…無理させないでって!」


フィンレイは彼女の顔を拭った。


「大丈夫だよ…カリーベア…きっと大丈夫だからな…」


サイモンは、妹のその姿に、


胃がきゅうっと締めつけられた。


吐き気がした。


自分の妹が…あんなに血を流している。


怖かった。


恐ろしくてたまらなかった。


フィンレイが彼女を抱きかかえ、家族で村へ走って帰った。


こうして、家族の日は——早く終わってしまった。



「今は落ち着いてるよ。ただ、しばらくはあまり動かさないほうがいい」


村の家庭医(開業医)がそう言った。


「かなりの出血があった。注意深く見て、頭への血流が保たれるよう、寝かせたまま足を少し高くしておきなさい」


「彼女には、牛乳やお粥などの流動食と、レバーや緑黄色野菜のような鉄分の多い食べ物が必要です」


医師はそう説明した。情報の対象ではなかったサイモンも、その言葉をしっかり受け止めた。


「そうすりゃすぐ元気になるよ」


医師は彼女の頭を優しく撫でた。


「これ、どうしてこんなことになったんでしょう?」とフィンレイが尋ねた。


「――詳しい話は外でしましょうか」


フィンレイは頷き、廊下へと連れて行った。


サイモンはこっそり彼女の部屋に戻った。


「…起きている?」


「うん」


「少しは良くなった?」


「うん」


「……」


「よかった。お兄ちゃん、一瞬すごくびっくりしたから」


彼が見下ろすと、彼女はいつもより荒く息をしていて、額には布がかけられていた。


「ママは大丈夫?」とか細い声で聞いた。


「うん。ただ休ませてるだけ。ちょっと疲れただけだ」


彼はベッドの脇に腰を下ろした。


「……」


「今日、本当によく頑張ったね。あんな攻撃、父さんは全く予想してなかったよ」


「うん、そうかな…」


「お医者さんが、あの魔法はもう使えないかもしれないって…」


その言葉は、彼女の声から弱さの影が垣間見えた。


「きっと方法を見つけようよ。君には魔法の才能があるじゃないか。僕は全然使えないけど」

彼は微笑んだ。


彼は彼女の手を握り返した。


「だけど、もし魔法を使えなくなっても、お兄ちゃんは他の方法で君を守るからね!」


「ありがとう、お兄ちゃん。いつも安心させてくれる」 そう言うと、彼女の目が閉じた。


「大丈夫だよ。いつも一緒だからね、カリー」


そのとき、ふと胸の中に奇妙な感覚がほどけた。嫌な感情だと思っていたのに、実はその一部――たぶん、それどころか半分くらい――胸の奥で、密かな幸福が芽生えた。


何も持たず、祝福もなく、ただ空に無視されているように感じていた自分が、誰かに必要とされる。自分を頼り、尊敬し、期待してくれる存在ができる。自己中心的かもしれないが、それこそ“男として通るべき成長の証”なのだと、サイモンは自分を責めながらも、どこか嬉しかった。



その後の数日間、サイモンは彼女の世話を誓った。


食事が必要なときは、彼が食べさせた。


拭き替えが必要なときは、彼が手伝った。


夜眠れないときは、本を読み聞かせた。


彼の献身ぶりは、カイリーを少し心配させた。


「ねえシィ、たまには休んでもいいんだよ?彼女もあなたの助けには感謝してるでしょうから、残りの育児は他の人にも任せてもいいんだからね?」


彼は腰に下げた水桶を直しながら答えた。


「大丈夫です、ミス・カイリー。手伝うのは苦じゃないし、妹だから頑張らなきゃなって思うんです」


そしてまた、彼は世界一の“泥団子”作りを手伝いに戻っていった。


カイリーはカリーの心配より、サイモン自身を心配していたのかもしれない。サイモンが妹に優しくする姿、愛していることは分かる。けれど母として、いつかその献身が“執着”に変わるんじゃないかと不安でもあった。


そのきっかけが訪れたのは、ある日、父と練習をしていたときだった。その瞬間、2人は凍りつく。


「お兄ちゃんと結婚するの!」


フィンレイの木剣が、勢いよく手から滑り落ち、それがサイモンの額を直撃した。


「うわっ、何言ってんだよ!投げちゃだめだろ!」


彼は額を抑えた。そこにはくっきり跡が残った。


「カリー、今なんて言ったの?」とフィンレイは息子を完全に無視して聞いた。


「大きくなったらお兄ちゃんと結婚するの!」彼女は胸を張って言った。


フィンレイはカリーと同じ目線までしゃがみ、高い声で真似て言った。


「大きくなったら“パパと結婚する”って言うんだよ?」


「うーん、パパはモジャモジャすぎだもん!」


「それが理由!?」


「お兄ちゃんはかっこいいし、いつも私のこと守ってくれるから!しかも超イケメンだし!」


「え、パパがかっこよくないって?」


「……」


「沈黙は一番こわい!」フィンレイは剣を握り直し、サイモンに向かって言った。


「さあ、本気のトレーニングの時間だ」


サイモンはびくりと飛びのき、反論した。


「えっ、待ってよ、父さん!そんな本気で叩かないで!」


フィンレイはセカンドボーイ(次男)に怒りをぶつけるように振りかぶった。


約七分、兄は父の攻撃をしのぐのに必死で、最後には背中から倒れ、胸を激しく上下させた。


「今、死ぬかと思った…」


「大丈夫だったよ、お兄ちゃん!」


「うん…でも、まったく助けにならなかったよ…あの小さな冗談が父さんを暴走させたんだ」


カリーが首をかしげて尋ねた。「ジョークって?」


「えっと、“結婚”の話のことだよ…」


「それって冗談じゃないよ、お兄ちゃん!本気で思ってる!大きくなったら結婚したい!」


彼の耳が赤くなった。


「や、やめてよ、そんな簡単に言うなよ!」


「なんで?」


小さな耳がぴくぴく揺れた。


「だって…ああ、もういいや」彼は首をかいた。


急にスポットライトを浴びたように感じた。


「いや、そうじゃなくて…本当に…?」


その顔が──可愛すぎて、頭が痛くなるくらいだった。


「……あ、うん。」


「もっといい人が見つかったらどうするの?それなら私にしとけば…」


彼女は彼の腕に飛び込んできた。


「お兄ちゃんよりいい人なんていないよ」そう笑った。


その笑顔に、彼も笑った。


だが、その幸せな時間は、すぐに終わりを迎えることになる──。

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