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5. 訓練


「メイベル、本当にやるの?」

 サラフィナが藁をもすがるような表情をして尋ねる。

「うん、やるよー!え、どう?おかしくないよね??」


「一応見た目はどこからどう見ても男の子だよ。だけど、訓練に参加するっていうのは正直、、、私も反対だよ。でも、メイベルがどうしてもやりたいって言うなら・・・。とにかく無理はしないでね。」

 乗り気ではなさそうで終始不安げな表情を浮かべているルーシーが懇願するような表情で話す。

「分かった。無理はしない。でもはあなたの力がなかったら挑戦する事も出来なかったわ、ルーシー。」

「うん・・・でもさっきも説明したけど、私の魔術も完璧じゃないからもって半日だからね。それを忘れないで。」

 ルーシーは学問だけでなく魔術の成績もトップクラスだ。優秀な彼女に相談して、変身術を掛けてもらう事にしたのだが、半ば無理やりに協力をお願いしてしまった。真面目なルーシーに悪い事をしてしまった。


「確かにどっからどう見ても男の子ではあるけど、ちょっとか弱そうすぎない?もうちょっと逞しく欲張っても良かった気がするんだけど。」

 サラフィナも心配そうに変身術について更に要望した。

「ごめんね、私もまだ勉強途中で、人体を新しい何かに変化させるか、性別を変えるかのどちらかしか出来ないの・・・。今回は性別を変えさせてもらったんだけど、それも完璧じゃないから少し中性的になっちゃったのかも・・・。」

 確かに、この見た目は兄のユリウスに似てはいるが、更に小柄で中性的であり幼く見える。だが、目的は訓練に参加する事であり、要は男に見えさえすればよいのだから私には十分だ。


「大丈夫!何も一番になる必要はないんだから!私はここで強い体と剣術を身に付けるの!」

 私はこれからの訓練を想像して意気揚々と拳をかかげた。

 やる気に満ち溢れる私とは対照的に、サラフィナとルーシーは項垂れ不安げである。

 

 実は、この男子変装作戦は、ダリルにも協力して貰っている。講師を務めるのは騎士団に長く所属している者で、ダリルの師でもある。

 訓練は学園の中で行われると言っても、外部コーチの為、よっぽどのことがない限りは学籍を細かく確認する事は無いだろうが、突然の参加でもあるし変に疑いを持たれても困る。

 そこでダリルに直接、師範に口添えをしてもらい、紹介という形を取った。

 そして、訓練にはルーシーの魔術で男児に変身しての参加だ。我ながらなんと力技だろうか。あとは、鍛錬を積むだけである。


***


「君が今日から参加する子だね。まずは自己紹介してくれるかな。」

 剣術の稽古をつけてくれるハメスは白髪の初老の男性だ。見た目から、現役は退いている事が想像されるが、ゆったりとした衣類の下から存在感のある筋肉が主張しており、その肉体は鍛え抜かれている事が一目で分かる。

「はい。”メイルズ”です。よろしくお願いします。」

 心臓が破裂しそうだったが、訓練生たちは学年が同じで見知った顔も多いが、まだ誰も私だとは感づいていないようだ。さすがルーシーの魔術は素晴らしい。


「よし、まずは準備運動からだ。腕立て~始め!」

 ハメスの号令と共に皆が腕立てを始める。私もそれに合わせて何とか真似をするが、腕がプルプルと震え、3回が限度だ。ルーシーの魔法は姿を男のように見せているが筋力が増えるようなものでは無い為、私自身の肉体は非常にひ弱で情けないものだ。


「メイルズ、何をやっているんだ。君が30回連続して出来るまで連帯責任だよ。はい、全員で1からやり直し。」

 (噓でしょ・・・。)

 周りからの非難の視線を痛いほどに感じる。

「もう一度。腕立て~始め!」

「やり直し。」

 身体のきつさもだが、周囲からは不満の声も上がっており、申し訳なさが募る。しかし、ハメスは私の気持ちを他所に号令をかけ続けた。

「始め!」

「やり直し。」




 休憩の指示があった直後、私は自分の基礎体力の無さに打ちひしがれ、そのまま地面に背をつき空を仰いだ。皆各々休憩の為に離れて行ったが私は歩く気力もない。息が上がったままで、荒い呼吸に胸が上下する。

(こんなんじゃ剣術を学ぶ以前の問題だわ。全身から水分が出て、鍛えるより先に干からびて死んでしまうんじゃ・・・。)

「おい、大丈夫か~?」

 真上から覗き込むように突如私の頭上に人の顔が現れた。

「わあ。」

 驚いて上体を起こし、話しかけてきた人物を見る。

 長身で穏やかそうな男の子が腰をかがめて私の様子を伺っていたようだ。友人と思われる男子二人が長身の子の背後におり。同様にこちらを気にかけている。

「俺、あそこまで運動できない奴初めて見たぞ~。」

 長身の男の子の後ろにいたそばかすのある男の子がはははと楽しそうに笑いながら話しかけてきた。

「ユア、やめなよ。この子は今日入ったばっかりなんだから。君、メイルズと言ったかな。僕はジュード、こっちはユアとナイル。はい、しっかりお水を飲んで。」

 長身の子ジュードはそう言いながら飲み物を手渡してくれた。見ず知らずの私を気遣ってくれるなんてなんと優しい人だろう。その様子をユアはと呼ばれた子は幼い子供が観察するように、ナイルは不審げに見ている。3人は性格がそれぞれ違っているようだが、友人同士の様だ。

「ありがとう、ジュード。あな、、君は天使だ。」

「そんな大げさな。」

「ごめんな、でもあんまりにも鈍くさいから面白くって。」

 ユアはお調子者といった雰囲気だが、ジュードの友達というだけあって優しい人の様だ。ナイルは先ほどから表情を変える事無く口も開かずにこちらを見ている。

「冷かしなら帰れよボンボン・・・。」

「え・・・」

 ナイルは口を開いたかと思えば、冷たくそう吐き捨てた。友好的なユアとジュードとは対照的にナイルはクールで知的だが、私に対して良く思っていないようだ。

(まあ、私のせいであれだけ筋トレさせられたら嫌気も差すよね。ほんとにごめん。)

「こら、ナイル。言い過ぎだよ。」

 ジュードがまたもや諫めてくれる。まるでこの二人の長男のようだ。

「そそ、ナイル~、お前も最初は体力無くて泣いてただろ。」

「はっ?!誰が泣いてなんか。お前こそフィジカルに頼ってばかりのばかの癖して!」

 ユアがナイルを揶揄うと、先ほどは声が小さくて聞き取るのがやっとだったが、色白の彼の頬を真っ赤に染め、大きく声を荒げていた。


「えっと、わた、、、僕のせいで迷惑かけてごめんね。」

「ううん、気にしないで。みんな思ったよりもきつかったって言ってすぐ辞めちゃうんだ。僕たちは騎士の家系だったりで続けざるを得ないんだけど。でも、一緒に学ぶ仲間は多い方がいいからね。」

「ありがとう。」

「まあ、早くましになってくれないと俺たちの腹筋がバキバキになっちまいそうだけどね~。」

「うう、ごめんんん・・・」

 ユアがまたしても茶々を入れる。だが、正論過ぎて言い返す言葉もない。ナイルは、、、、相変わらず私が気に入らないようで私たちの会話を冷たい目で見ている。


「でも、ナイルが言ったように君はきっと良い家柄の出身だろう?手がきれいだし話し方や所作でなんとなく分かったよ。」

 確かに、彼らの手は訓練のせいか傷が多いし、ところどころにタコができていたり逆むけして荒れているようだ。

「いや、そんなことはないよ。僕はみんなと違って訓練に参加するのが遅かったからそう見えるのかも。」

 詳しく家柄の事を聞かれたら怪しまれてしまうと焦ったが、努めて冷静に返答した。

 しかし、言われてみれば騎士団の訓練に参加しているのは大多数が庶民から下級貴族の出の者が多いように思う。一部、レオノールや上流貴族の者がいるが、騎士団の幹部として活躍する事を期待されているようなものに限っているだろう。

 男子も卒業後の就職先を見つける為、自分の意志とは裏腹に訓練に参加せざるを得なかったものもいるのかもしれない。


「そろそろ再開するぞ。次は木刀を使っての稽古だ。まずは素振りからだ!」

「よし、訓練再会だね。頑張ろう。」

「うん!」


(漸く木刀を持っての訓練だ。自分の身は自分で守れるようになってみせるんだ!)

 少し休憩して体力が戻ったからかそう意気込んだは良いものの、筋トレもまともに出来ない人間がが突然剣術の才に恵まれるという事もなく、私の素振りはみすぼらしいものだった。

 木刀を掲げて目線でピタッと止める事も難しく、間違いなく数日間は筋肉を酷使した事による苦痛が伴うだろうと覚悟した。しかし、木刀でこれ程に重いのならば大きな真剣を振り回す騎士たちの実力はすごい者だろう。

(大陸一の騎士団というのも伊達ではないわね。)


「それでは、実技訓練を行う。名前を呼ばれた者は出てきなさい。」

「王子だけは嫌だよな~。」

 レオノールはやはり実力があるようで皆手合わせしたくないようだ。

「それではジュード、レオノール。」

 早速レオノールが呼ばれたと思ったが、ジュードの実力も見る事ができそうだ。


「レオノール王子よろしくお願いします。」

「そんな改まらないで。こちらこそよろしくね。」

 気品あふれるレオノールと穏やかなジュードの対戦はどのようなものか楽しみだ。

 二人は向き合って立ち、静かに剣を構え合図を待った。

「それでは、始め!」

 号令がかかったと同時に二人が距離を詰め、木刀を振り下ろす。

 カンッと鈍い音が鳴る。

(すごい力だ。木刀とは言え、あれがあったたら痛いんじゃないのかしら。)

 二人はすぐに間合いを取り、何度も木刀を交えている。素人目からも二人の戦い方の違いが分かる。

 ジュードは身長の高さの分利があると思ったが、レオノールは引いていない。それに、レオノールの剣筋はとても美しい。やはり、幼い頃から教師がついていることだけある。

 ジュードは身体的ポテンシャルを活かして、強い打撃を繰り出しているが、レオノールには隙が無いようで、すべて受け流されている。

 攻撃に徹していたジュードの体力が段々と失われ、一瞬気が緩んだところをレオノールは見逃さずに、瞬時に間合いを詰め、ジュードの木刀を強く振り払った。

「うあっ。」

 ジュードが弾かれた腕を戻そうとする間もなく、スッとレオノールの木刀がジュードの額の前に突き付けられた。

「そこまで。」

 ハメスが終了の号令をかけ勝敗が付いた。

「さすがレオノール王子。まいりました。」

「レオノールでいいよ。君の太刀筋もなかなかだったよ。」

「ありがとう。それじゃ、レオノール。」

 二人は握手を交わしていた。

 一見してレオノールは爽やかで穏やかそうではあるが、剣術をしているときは内に秘めたメラメラとした感情が垣間見えるようだった。彼が普段過ごしている姿は、なんだか機械的で人の血が通っていないように感じていたのだが。

 幼い頃からレオノールを知っているが、彼が何を考えているのか、どんな人なのかさっぱり分からない。

 それに私の本能的なところで彼を拒絶するような感情が沸いているのも事実だ。男の体になっている間も彼との接触は避けるに越したことはないだろう。


「ジュード凄かったね!」

「負けちゃったけどね。でも、やっぱりレオノールは強いな。いい経験になったよ。」

 訓練が終わりジュードに今日の実技についての感想を伝える。

「勝ち負けだけが全てじゃないよ。あんなに重たい木刀をすごい力で何度も振りかぶっていてかっこよかったよ。僕も早く実技が出来るようになりたいな。」

「そんなに褒められると照れるなあ。でもありがとう。」

 しかしながら、ジュードを褒めているのにも関わらずユアだけでなくクールなナイルでさえも何故だか得意げである。

「本当に仲が良いんだね。」

「そうだぞ~、お前がどうしてもって言ったら俺達3兄弟の仲間にしてやってもいいけどな。」

「俺は兄弟とは思っていないが、こんな雑魚が入るのはごめんだ。」

 ユアが調子よく仲間になるように誘ってくれるも、ナイルに一蹴されてしまった。

「ナイル、足を引っ張ってごめんね。僕もっと練習してみんなに追いつけるように頑張るよ。」

「ふんっ。」

 ナイルは面倒そうに鼻をならした。

「ナイルあんまり意地悪するなよな~。そのうちメイルズに”特性”が現れてすぐに追い越されちゃうかもだぞ~。」

「特性って、そんなの僕には難しいよ。もしかして君たちは特性を持っているの?!」

「ははは、特性なんてそんな王族や物語の主人公でもないんだから、持ってるわけないだろ。」

 ジュードが特性という言葉を使ったのでもしやと思ったが、ユアは真っ向から否定し笑いに変えたが、特性とは夢物語のようなものだ。

 ”特性”と呼ばれるいわば特殊能力のような才は数千人に一人程の確立で人に宿る。発現条件も解明されておらず、発現は10代がほとんど多いが、特性の内容は人によって異なり、魔術の才だったり読唇術といった特殊なものから単に足が飛躍的に早いといったものまで千差万別だ。その為、発現に気が付かない場合もあるそうだ。

 王族や上流階級の者の方が発現率が高いと言われているが、同じ家系で発現することも多く、それゆえに現在の身分が確立されたとも言われている。

 私の家系も既に他界した祖母が特性を持っていたそうだが、それ以降発現者はいない。

 確率的には同じ学園に数人はいるはずであるが、能力を利用されない為に隠す者もおり、同学年ではまだ発現したという噂は耳にしていない。


(”特性”そんなものが私にもあれば、自由を手に入れられるかもしれないな。でもまあ、優秀な兄でさえ発現していないのだから私ごときに発現するなんてあるわけがないか。)

「まあ、凡人の俺たちはまじめに努力するしかないな。」

 ジュードが私達に覆いかぶさるように後ろから肩を抱いた。

 普段は淑女として男性との距離感について弁えているからドギマギしてしまうが、私は今男、男、男だと心に念じて平静を装った。

 ジュードの言うとおり、早くみんなに追いつけるように努力しなければいけない。


 ふと遠くから視線を感じ、視線の方を見るとレオノールが木刀などの手入れをして帰る様子だった。しかし、彼はこっちを見ておらず、単にこっちを見ているように見えただけだったようだ。

 直ぐに、取り巻きが彼を囲み颯爽と去っていくレオノールの後姿を見つめた。


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