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4. 騎士団


 翌朝、宣言通りにサラフィナが朝一番に私の部屋にやってきた。

「ほらほら、メイベル早く起きて支度をして!今日からあなたは女性として、恋愛の素晴らしさを沢山学ばないといけないんだから。」

 寝起きで頭が回っていないからか、サラフィナが意気揚々と言っている事が一つも魅力的に感じなかった。


「それで、どこへ行くって?」

 サラフィナの注文どおりに、カリンにおめかしをしてもらいながら尋ねる。そもそも、化粧なんて学生のうちにする必要があるのだろうか。

 鏡を覗き込むと、自分で言うのもおかしいが私の肌は陶器のように滑らかで美しく、ブロンドの髪はいつでも洗いたてのようにきらめいているし、とても均衡のとれた整った顔立ちをしている。化粧をしたりアクセサリーを身に付けると、一層魅力的に感じるし心が躍る。

 まあ、実際化粧をしたり着飾ることは嫌いではない。というよりも好きな部類に入るだろう。

 きっと自分自身をもっと魅力的にさせる為の化粧も、社交場に出るときなどに良い殿方と出会うためとかなんとか言われ続け、反発心が生まれてしまったのかもしれない。


 しかし、改めて見るとサラフィナもカリンもとても美しい。というか、二人とも私の好みの顔のような気がする。外の国に行ったことが無いので、好みの顔だと断定してしまうのはある意味おかしな話だが。


「今日はね~、あなたに強い男性の魅力を知ってもらいたいのよ。」

「はあ・・・」

 興味がないと言ったらまた説教されそうな雰囲気だったため、あえて何も言わずについてきたが、なんだか面倒なことになりそうな予感だ。


***

 カリンが連れてきたのは、目新しい場所ではなく、騎士団の練習場だった。ここへは兄のユリウスが騎士団に所属している為、何度か来たことがある。

 今日は公開練習日であり、騎士団員だけでなく見習いの学生も練習に参加している。その中には見た事のある顔ぶれがあり、学園の生徒もチラホラいるようだ。

 これまでに騎士団の練習を見学した時に比べて今日は一段と女子の観客が多いと思ったが、練習生の中にレオノールがいるからのようだ。レオノールが剣を振りかぶる素振りをするだけで歓声が上がっている。

 彼の姿を見た途端ぞわぞわと身の毛がよだつ感じがする。

(レオノールを見るといつもこうだわ。レオノールに危害を加えられたこともないし、そもそも深く交流した事もないのに・・・。幼少期の実家での嫌な思い出と勝手にリンクしてしまっているのかしら。心の中が可視化されたら不敬罪に問われてしまうわ。)


 私はレオノールがいる事をサラフィナに伝えようと隣を見たが、彼女は既に知っていたようで目を輝かせてレオノールを見つめていた。

(私を連れ出すとかなんとか言いながら、絶対これが目当てだったでしょ。)


 サラフィナは一応貴族の負い目があるようで、私達はギャラリーから離れた人目に付きにくい場所を選んで練習を見守った。

 しばらく無心で練習を見守っていたが、ひと際高い声援が上がった。ギャラリーの目線の先を見やると、剣を交えた後に暑いのか鍛えらえた逞しい体を露わにした者がいたようだ。

 いやはやなんというか、わざと自慢の肉体を見せつけているのではないかと聞きたくなるほどだ。

 黄色い声援に浮かれる男たちもだが、女の子たちも特に用もないのに練習を見に来たというのがばれて恥ずかしくないのだろうか。

 

 確かに鍛え抜かれた体には惹かれるものがある。素人目からでも、彼らが普段から鍛錬を積んでいる事は見て取れる。

 それに、魔術や学問に並んで剣術の腕はその者を象徴する大きな武器になる。必ずしも女性だけが選ばれる存在ではない。男性もまた、選ばれる、選ぶ為に鍛錬に励んでいるのだ。


 権力があればそれだけ求められる期待も大きくなる。王子であるレオノールが背負うものはきっと計り知れないだろう。彼は学園での成績も優秀であるし、剣術にもこれだけ力を入れているとは知らなかった。彼の練習風景を見てふと、これからの彼の人生に同情してしまった。


(おっと、身勝手がすぎた。彼が求められていること、そしてこれからそうなるだろうとする未来が私にとって魅力的でないからといって彼がそれを望んでいないとは限らないのに。)


「王子って顔だけじゃなくて、剣術も得意なのかよ。なんか人生楽そうでいいな。」

 練習を見ていた冷かしの男達がレオノールに対し称賛と妬みを込めて吐き捨てるのが聞こえた。

「でも王子ってなんだか大変なんだってよ。俺の父ちゃんが言ってた。お前みたいに自由に遊んでまわる暇はないんだぞって。なんか、学問も魔術も剣術も先生がついてて、学園の後も学んでばっかりらしい。」

「そうなのか。うわー、嫌だなそれ。俺なら逃げ出すかも。」

「逃げ出しても、簡単に連れ戻されるだろ。王様お抱えの騎士団は大陸最強だし、魔術師も沢山いるんだから。」

「そっかー。でも、あんなに剣術の才能があるなら、俺ならいっぱい強くなって周りに指図させないようにするな。」

「まあ、力があれば倒すことは出来なくても、国から逃げるくらいは出来るかもな。まあ俺らには関係ない話だが。」


(そうか、強くなれば逃げ出せるのか・・・)



「ね、来てよかったでしょ!」

 サラフィナは楽しそうに、そして少し悪い笑みを浮かべながら尋ねてきた。

「うん!」

 私が応えると彼女は一層嬉しそうに表情を輝かせる。

「良かった、あなたもようやく・・・」

「私も剣術を学ぶわ!」

 サラフィナが言い終わる前に勢いづいてしまった。

「え、そこまで?そんな事しなくても練習はいつでも見に来れるわよ。」

「ううん、練習はもう見に来なくていいの。考えたんだけれど、私運動に全く力をいれてこなかったから、あんなに走ったりも出来ないしょう。体力をつけるためにも、これから剣術を学ぶのも遅くはないわよね?」

「・・・」

 先ほどまで元気に話していたのにサラフィナからは返事がない?

「兄さんのつてを借りるのが手っ取り早いとは思うけど、多分反対されるだろうし。出来たら学園で習う事は出来ないかな?私も訓練生に混じるしかないのかしら、ねえ、サラフィナ?」

 もう一度問いかけながら、石のように固まっている彼女の顔を覗き込みながら訪ねると、彼女は心から呆れたという表情をして固まっていた。聞こえないふりよりも、聞いたことを理解したくないとでも言いたげだ。

「どうやったらそんな思考回路になるのかしら・・・。私には本当にあなたが分からないわ。」

 サラフィナは私の発言に酷く混乱しているようだ。


「お、メイベルじゃないか。」

 丁度私たちの会話を遮るように、がっしりとしたガタイの良い男性が話しかけてきた。

「あら、ダリルじゃない!久しぶり。あなたがいるってことは兄さまも?」

「ダリル!」

 ダリルは兄の友人で一緒に騎士団に所属している。小さい頃は訓練の見学をしに行ってた際にも交流がある。サラフィナも私の家に来ていたから親交がある。逞しく優しい人だったが、相変わらずのようだ。

「サラフィナも一緒だったのか。いや、俺は若手の訓練を見るように頼まれてきたから今日はユリウスはいないよ。」

 ほっと胸をなでおろす。こんなところで兄に会いたくない。用もないのに練習を見に来たなんて知られたらなんて言われるだろうか。

「君たちが訓練を見学に来るなんて珍しいな。気になっている人でもいるのか?」

 ダリルはお兄さん風を吹かせてニヤニヤしながら茶化してくる。

 いや、これはチャンスではないか?彼なら力になってくれるかもしれない!

「ダリル、実は相談があるの。」

「ん?まさかメイベルの方がか!何々、言ってごらん。誰が気になるんだい?」

「実は、、、私も訓練生の練習に参加できないかなって・・・」

「ん、、、なんだって?!」

 ダリルもサラフィナと同様、私の言っている事が理解できないと言いたげな様子だ。サラフィナは呆れてダリルに助けを求めるような顔を向けている。

「改めて訓練を見て分かったの。私も剣術を磨いてみたいって。だって、みんなあんなに逞しい肉体を持っているわ。剣術というのは何も戦闘するだけじゃないんでしょう。鍛錬を積んで精神と身体共に鍛えられるはずだわ。ダリルだってその肉体があるのも厳しい訓練の賜物でしょう?」

 そう力説しながらダリルの衣服を突き破らんとする程逞しい肉体を凝視する。ダリルはそんな私の失礼な視線に恥じらう素振りを見せたが、すぐにお兄さんらしい表情を取り戻した。

「えっと、、まず、メイベルが言っている事は分かったけれど、僕には君にそれが必要とは思えないんだけど。女の子はただ可愛くいたらそれだけでいいんだよ。だって、君らのような無垢な人を守るためにも騎士団はあるんだから。それより、メイベル。それをユリウスに言ったりしてないよね?そんなこと聞いたらユリウスがなんて言うか・・・」

「もちろんお兄様には口が裂けても言えないわ。だからダリルに相談しているんじゃない。それに、確かにこの国では女性の剣士は珍しいけど、外の国では女性も男性と同じように志望者が騎士団に入れると聞いたことがあるわ。護衛のための力はあっても損はないでしょう?」

 持ち前の猫かぶりスキルを活かして、両手の指を絡めて純粋無垢ないたいけな願いを演出する。

「うーーーん。男子であれば、学園内の訓練に簡単に参加する事はできるけど女子は聞いたことがないなあ。学園の先生は僕の師匠でもあるから、僕が直接お願いしたら、、、、いやでも、やっぱり君は家柄の事もあるから悪い評判が出回るかもしれない。」

 男子だったら、、、。また自分の性別に縛られるのか。

 いや、、、、どうせ何もしなかったらあと数年の自由なのだから、今足掻かずにいつ足掻くのか。

(何かいい案はないか。考えろ...)

「ねえ、男の子だったら志願者はいつでも訓練に参加できるのよね?」

「そうだけど、性別を変える事なんて出来ないよ。」

「ううん!私男の子になる!!」

「「はあ????」」

 静かにやり取りを聞いていたサラフィナももう黙っていられなかったようだ。二人はおんなじ表情を浮かべている。

「私にいい考えがあるの。だけど、ダリルあなたの力も必要だわ。どうか、お願い!」


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