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19.浄化の方法

 翌日。メルトから会いたいと連絡があり、煉華はすぐにユリウスを伴い指示された森の奥へと向かった。

 地図には無かった集落がつくられているその場所では、入り口でメルトが不安そうな顔をして待っているのが見える。軽く手を振り、近づいた煉華に、メルトは着いてくるようにと伝え集落の中へと入っていく。


 集落の中心に位置する広場には、とある画家が描いた夜空を模したような絵が描かれた祭壇のようなものがあり、それを取り囲むように地面には小さな石碑と、小ぶりの可愛らしい白い花が咲いている。石碑の1つ1つに名前のような文字が刻まれている事に気が付き、煉華はそっと手を合わせて黙祷を捧げた。花と共に建てられた石碑が墓の代わりである事に気が付いたからだった。

 その様子を遠巻きに見ている人々の視線に気が付き顔を上げると、メルトが静かな声で煉華を紹介し、それに合わせてぺこりと頭を下げる。彼らが魔族と呼ばれる者達だとしたら、先に敵意が無い事を伝えておきたかった。


 「煉華嬢は、今代の聖女である。が、私たちと敵対するつもりはなく、共存を探っているとの事だ」


 メルトの言葉に苦々しい顔でそんな甘言に騙されない。と、憤る人々を眺めながら、煉華は目を丸くした。この世界に来て、正しい発音で自身の名を呼ぶ者に出会った事がなかったからである。


 「……確かに、信じられないのは分かるわ。都合のいい話だと思う気持ちも分かるし、その言葉を聞くと以前人に騙された事があるかのようにも聞こえるから……嫌悪感が先に来るのは分からなくもないわ」

 

 私もこの国は信じていないし。と、言いかけた言葉は飲み込んだ。ここでその言葉を口にしたら、後ろで控えているユリウスの自己嫌悪が増すだけだとわかっている。恨み言を表立って言わないのは、エリスやゲーボのように自身に良くしてくれている者達を気遣っている事もあるが、ユリウスの様に苛まれる人がいることに気が付いたからでもあった。

 最初の浄化で恨み言を呟いてしまった後から、聞こえていた護衛達が瘴気に耐性をつけようと無理をしたことがあったのだ。そういった罪のない者に背負わせることはあまり好きではない。だからこそ飲み込んだ言葉だったが、僅かに竦めた肩とため息で十分に伝わってしまったらしい。

 メルトが「彼女は先代と違い歓迎されていなかった」と続けると、悪意に満ちた視線が同情を含んだものに変わる。魔族というのは、案外情に厚い種族なのかもしれない。


 「私は、瘴気の研究を始めました。瘴気とは魔力使用に必要な大気中の魔素を濃くしたもの。瘴気の種と呼ばれるものは、その魔素の濃度を高め、一定の濃度になったら放出する魔道具のようなものなのでは?」


 首を傾げて訊ねる煉華に、数名が驚いた。と声を発する。


 「その高濃度の魔素が満ちた地域で生活出来ているであろうあなた方が、こうして魔素が薄まっている地域に暮らしている。対してメリットもないだろうにどうしてか。と、考えたのだけれど、あなた方の大切な方は魔素耐性が低く、高濃度の魔素には耐えられないから。その為安住の地を探している。違いますか?」


 問いかけてはいるが断定的な言葉に、その場にいる誰もが顔を見合わせた。この場で最年少となる聖女を名乗る少女に、すっかり場の空気を支配されている。メルトから変わった聖女だとは聞いていたが、ここまで頭が回るとは思ってもいなかった。

 どうしてもあってくれと懇願し、一晩中頭を下げたメルトの顔を立てるつもりで了承した集落の者達は、煉華の推測が全てあたっている事に驚き、恐怖する。まるで見てきたかのような発言に、昔の嫌な記憶がよみがえってくるようだった。


 「……で、信頼を得たいわけではないのだけど、私としては敵対するつもりが無い事を証明したいとも思うから、今中毒状態にあって生きている人の瘴気を取り払おうと思います」


 どう考えても、煉華にはメリットが無い。ここで信じることも得策とは思えない。

 自分たちの現状が行き詰っている事はどこかでわかっているが、信じるかと言うと話は変わってくる。これまでの経緯を考えれば、この提案に乗ってもいいことはない。そんな気がしてしまうのだ。


 もしもまた騙されたとなった場合、今度こそメルトは仲間のもとにも戻れなくなる。大切なものを何度も踏み躙られるような事だけには、どうしてもしたくないと警戒する人々にを見て、煉華は「決めるのはあなた達です」と、待つ姿勢を見せた。

 その姿を見て、輪の中から中年に見える女性が飛び出し、煉華の側に駆け寄ってくる。硬い表情で睨みつけるように煉華を見つめる瞳には暗い殺意と葛藤が籠められており、その唇から僅かに滲む血を見た煉華は、何も言わずにただ頷いた。その堂々たる姿に、意を決したように女性が口を開く。


 「私の娘が魔素に弱くこの地であっても苦しんでいます」


 その言葉に場が静まり、空気がピリッと張りつめていく。その緊張感にユリウスが心配そうに煉華を見つめるが、煉華からは何があっても剣を抜くなと言われている為、ただ耐えるしかない。そんなユリウスを横目で確認し、剣を抜かない事にほっと息を吐いた煉華は、安心させるように女性の肩に手を置いた。


 「早く連れて来なさい。まだ、魔素を薄めるような魔道具は開発されていないわ。浄化しても一時しのぎにしかならないかもしれないけれど、今たまっている魔素を抜けばしばらくはもつでしょう?」


 はっきりとした言葉に、女性は首を縦に振ると勢いよく走り去っていく。その様子から一刻を争うのだろうと理解した煉華はメルトに誰か手伝いにいかせるように伝え、他の者達にはここで横たわっても問題ないように清潔な布を持ってくるように指示を出す。

 個別に訪問するのもいいが、パフォーマンスを兼ねている為、広場で行う方がいい。煉華は気合を入れるように頬を叩くと、ユリウスに水を用意しておいてほしいと頼みその場から離れるように指示を出す。自身の体調をよく理解しているユリウスだから、あまり側においておきたくはない。途中で止められても困るし。と、あえて持参していない物を頼んだのだ。水が無い事に気が付いたユリウスが慌てて馬を走らせてその場を離れるのを見送り、残っている者達に何か冷たい飲み物はあるか。と訊ねる。


 「浄化をすると喉が渇くの。彼は過保護だから、慣れない土地の水を飲もうとしたら止めそうだし、追い払っちゃった」


 そう言って舌を出す煉華に驚きながらも、輪の中から煉華に声を掛けた女を良く知る者がすぐに冷たい水を用意して手渡した。

 礼を言って一気に水を飲み干した煉華の前に、全身が赤黒い痣のようなもので覆われ、顔立ちすら定かではない少女が運ばれてくる。全身に火傷を負ったかのような姿に一瞬眉根を寄せるが、息を吸い周囲によく声が通る様に腹から声を出す。


 「浄化は聖女と聖人の専売特許ではないわ。私には聖人はいない。魔力操作を教えてくれた師のおかげで浄化ににた事ができるようになっただけ。魔素に対する耐性が強い者なら、基礎の応用で簡単に出来るようになるわ。今から教えるから、魔法が使える者たちは良く見ていなさい!」


 困惑しながらも数名、煉華に近づくように一歩前に出る。魔力の流れを良く見ておくように伝えてから、煉華は少女の手に触れてゆっくりと体内を廻る濃すぎる魔素を、吸いだしていく。

 ぐらぐらと煮えたぎる油を体内に流し込んでいるかのような痛み。そして、臓器が焼けるような熱。血管が溶けてしまったのではないかと錯覚するほどにへばりつく熱が体内を満たしていく。脂汗が浮かび、呼吸が荒くなる。泣きそうになる目を見開き、必死に呼吸を整えると口を開いた。


 「瘴気と呼ばれるほどに濃くなった魔素が、体内にたまると、魔力の流れを狂わせ、体中に焼けるような痛みがはしる」


 そう切り出し、息を吐き出した煉華の腕に黒い斑点が浮かんでいる事にメルトは気が付き、目を見開いた。

 他の者達は気が付いていないのか、煉華の話に耳を傾け集中している。メルトは、止めたほうがいいのかわからず少し悩んだが、やはり話を聞く事とした。


 「魔力の操作で、イメージが大事だと、師から教わったわ。あなたたちも、同じかしら?」


 煉華は、息が上がりそうになるのを押しとどめ、ゲーボから教わった事を思い出しながらゆっくりと話し続ける。


 「何か、吸いだす、吸う。そういった物は、身近にある? 私は、私のいた世界では、人を治療する機械で、似たようなものが、あるの。まず、魔力を流す。相手の、身体に、巡らせる。そうすると、壁のように、ぶつかって、止まる場所が、ある。そこを、細かく、砕くイメージで、砕いたものを吸い上げる。それを、繰り返していくの」


 何度もやっていく中で、煉華はその作業を、スキャナー、アイスピック、バキューム。という3つのイメージで行う様になっていた。だが、この世界に存在しない物を説明する事が難しく、なんとか分かる様にと伝えていく。短く区切りながら話す姿に、煉華も同じ痛みを感じているのだろうと思ったメルトは、どうしていいかわからずそわそわと動く自身を宥めるように腕をさするくらいしかできない。

 見ているだけの歯がゆさに、ユリウスを遠ざけた理由が分かったような気がした。


 「どろっとした、熱湯のような、ものが、瘴気と呼ばれている、濃度の、濃い魔素よ。耐性が、ある、場合……」


 「話さなくていい!」


 思わず声を荒げて話を遮ったメルトに、煉華は首を横に振る。ゆっくりとだが、はっきりとした仕草に、止めないでくれ。と言っている様に感じられ、メルトは口を噤んだ。


 「耐性が、ある、場合、どこまで、耐えられるか、は、わからない。あなたたち、以上に、耐性が、ある人に、であってないから」


 だから、実践したら教えて欲しい。と、煉華は努めて明るい口調で話す。


 「で、吸いだすものから、嫌な熱を感じなくなって表面の痣みたいなものが消えたら終了」


 手を離し、少女が良く見えるように距離を取った煉華は汗をぬぐい、新しく差し出された水をほんの少しだけ口に含む。


 「残念ながら、吸い取った瘴気を外に出す方法が今のところないのよ。それを可能にする魔道具が作れたなら、きっとこのやり方も不要になるでしょうけど」


 平然と告げる煉華の腕は、手の甲近くまで赤黒い斑点が浮かんでいる。明らかに毒されている姿に、その場にいた者達が息を呑んだ。


 「そういった研究に協力して欲しいのは本心だけれど、聖女召喚なんていう他力本願で身勝手なやり方に腹が立っているのもあるの」


 肩を竦め、他力本願だからなにも対策が浮かばないんだと呆れたように続ける煉華の言葉は、この場にいる者達すべてに鋭く突き刺さる。


 「未来を約束する事は出来ないけれど」


 俯く者たちをぐるりと見渡してから煉華は言葉を続ける。


 「こそこそ隠れて住む事無く、重宝されるようになったら愉快だと思わない?」


 悪戯を思いついた子供の様に目を輝かせて問いかけてくる煉華は、聖女と言うよりも口の達者な商人のようだ。メルトはそう思ったが、口には出さず、賛同する様に大きく頷いた。

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