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17.理由と軽い説得

 馬車は森の奥深くへと進み、小さいが品のある屋敷の前で停止した。

 緑を基調とした統一性のある色合いは森によく馴染み、違和感を覚える事無くそこにあるのだと認識させる。

 自動で開いた門をくぐり、思った以上に広い玄関ホールが広がっている事に驚いた。


 「お待ちしておりました」


 「……来る事がわかっていたかのような口ぶりね」


 フードを深く被り顔を隠している男とも女ともつかない人から掛けられた言葉に、煉華は肩を竦めユリウスは剣に手を掛けた。


 「物騒な番犬ですね。武器は持ち込めないようにしておくべきでしたね」


 次からは弾くようにしておきましょうか。と、口もとに弧を描き挑発的に笑う。

 ユリウスを手で制止ながら挑発を受け流すように一礼する。無礼を詫びるような態度を示しつつも煉華は相手を観察する。


 (この家の主が自ら出向いた。と、考えるのが妥当だけれど、それにしても若い。私と同年代くらいかしら)


 フードで姿がはっきりとは見えないが、身長と声色で同年代くらいだろうと判断する。

 若くして世捨て人のような生活を送り、他人に対する警戒心が強い。社会に馴染めないなにかがあると言わんばかりの態度だ。また、フードで顔を隠しているのは見た目になにか特徴があるのかもしれない。

 短い時間で頭をフル回転させて相手の観察を続けていく。観察されているのはお互い様だろう。相手からも同様の視線を感じながら居心地の悪さを振り払うように、先に口を開いた。


 「突然の訪問申し訳ありません。一応聖女を務めているレンカと申します。……驚かせてしまいましたか?」


 「いいえ。来るだろうと思っていたので」


 押しかけた事を詫びると、相手は特に問題は無いと返してくる。そのままついてくるよう促されるまま歩みを進めると、応接室にたどり着いた。

 暖色のあたたかな空間に置かれたソファを勧められて腰を下ろすと、どこからともなくティーカップとポットが現れ自動でお茶を淹れてくれた。役目を終えると姿をくらますポットを見て、魔法の一種であると気が付く。案内した本人は向かいに腰を下ろすと紅茶を口に含み、ゆっくりと嚥下してから口を開く。


 「自己紹介が遅れました。私はメルトと申します。貴女は好んでこの世界に来たわけではありませんよね。聖女として誤召喚されたと蔑まれ、そちらの剣聖含めた聖人達に疎まれ、信頼できる方すらいない状況。それなのに、どうして当たり前のように受け入れ戦い、この世界に尽くすのですか? 投げだそうが、放置しようが、貴女を責める事が出来る存在などこの世界にはいないでしょう?」


 早口でまくし立てながら疑問を口にしている様で、独り言のようにも聞こえる言葉。それは目の前にいる者が抱いている葛藤を表しているかのようで、煉華はそうね。と返しながら吐き出し終るのを待つ事にした。


 「この世界の人々は、貴女に何も返すことはできない。聖女なのだから国を救えとか、魔王を封印しろとか、そういった要求はするでしょう。……でも、貴女が望む事を叶えたりはしない。それなのに貴女は何故、聖女としての役目を果たそうとするのですか?」


 「投げたいときも、逃げ出したいときもあるわよ。この国に対しては不信感しかないし」


 さらりと答えて紅茶に口をつけた煉華の言葉に、反射的に顔をはっきりと上げた。虹彩が独特な煌めきを放ち、猫の様な縦に細い瞳孔から魔族と呼ばれる類の存在であるかもしれないと考える。ユリウスは息をのんだが、煉華はそれを再度制止し首を傾げた。


 「私は、どれほどここでの生活が恵まれていても、不満を抱くと思うわ。不完全な人間だし、そもそも無報酬で行うような案件では無いと思っているし。堅苦しい見張り付きの生活に浄化の日々。すべてを捨て去ってでも元の世界に帰りたいし、与えられたや聖女の役割だってなかったことにしたい」


 唖然とした顔をして煉華を見つめる瞳を真っすぐに見返すと、動きを止めるメルト。


 「思うだけにとどめて居るのは、私が和泉だからだと思うわ。和泉を背負ったら逃げる事なんてできない。今、逃げ癖をつけたくないから、やれることをやっているだけ。それに、いい方法が見つかれば、聖女をわざわざ召喚する必要はなくなるだろうし」


 逃げることは簡単だが、それを行ったときに発生する代償は何か。今回の場合は人の生命が関わってくる。何もしない事で誰かが死んでいくような寝覚めの悪い代償を支払いたいとは思わなかった。

 貴方はどうなのでしょうね。そう呟きながら喉を潤す姿に、メルトは言葉を無くし唖然とした表情を浮かべている。


 「何かを得るために支払う代償は他人の何かであってはならないと思うの。最も、成長を求める過程で誰かを犠牲にしてしまう等ざらにあることだから、私の話は単なる夢物語でしかないけれど」


 自分が耐えられないからやっているだけ。言外にそう告げた煉華はそれでもまだ納得のいかない表情を浮かべるメルトを見つめながら、想像してみて欲しいと促す。


 「もし、もし、貴方が私の探している魔族の1人で、もし、貴方が協力する事で魔族がこそこそ隠れ住まなくてもいい時代が訪れるとしたら……、貴方はどんな選択をするんでしょうね」


 飲み干したカップをソーサーに戻し、煉華はメルトの答えを待たずに席を立つ。

 また来るわ。と、友人の家でも訊ねたかのような気軽さで馬車に戻っていく煉華の後ろ姿を、引き留める事なく見送ったメルトは、フードを深くかぶり直すと何かを思案するように俯く。時計の針を刻む音がやけに大きく室内に響いたが、メルトはそれからしばらく、日が暮れるまでその体勢を変えることは無かった。

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