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14.後悔の先に

 ゲーボだけでなく、ユリウスまでもが目を掛け始めた煉華がわざわざ指名してまで人を呼びつけた事に、エリファスは顔を顰め、ノルンに至っては不快である事を隠そうともしない。


 「ユリウスの顔を立てる為に赴きはしたが、瘴気被害にあっている事を見せる為だけにわざわざ呼びつけたのでしょうか?」


 「まさか。そんなくだらない事の為に時間を使うわけないでしょう」


 呆れた。と、肩を竦め、出されたばかりのお茶を口に含む。


 「まずは、私の見解を聞いていただきましょうか」


 瘴気とは、もともと大気中に漂ってい魔素の濃度が強まったものであると考えられる。体に不調は出ているが、魔力や膂力といった身体能力の向上も同時に確認されている。それは、ゲーボが完全に浄化していない瘴気の種を身に付けて1週間生活し、実証済みである。瘴気の種を浄化したが頭痛や熱は引かずに未だにくすぶっているようなけだるさが残っている。魔力も増幅している為、いずれ身体に馴染む事が出来ればけだるさは解消されるだろう。というのがゲーボの考えだった。


 魔族とは、もとは人間と同じ種族である。大気中に漂う魔素が濃すぎる地域に生まれた為、魔素体制が異常に強い個体へと適応した。魔素に耐性が強くなかったものは淘汰され、生き残った者たちを魔素の値が正常となっている地域に生きる人間と区別するために魔族。という呼称が生まれた。


 「それが単なるおとぎ話のような空想で無い事は、瘴気を体内に入れた私やゲーボ副団長の魔力向上や膂力の上昇で証明できるかと。一気に体内に取り込んでしまうとこのような症状が出る。私やゲーボ副団長は魔素体制が強い為この程度で済みますが、魔力量に乏しい人であれば命を落とす事もあるでしょう。瘴気を薄めると魔素と呼ばれる性質に変わる事も検証済み。そっちはデータが足りないんだけど」


 そのための研究所である。瘴気を浄化する以外の方法が見つかれば、魔道具や魔法士でも害の無い物に変換する事が可能かもしれない。

 魔族と人間との違いが、魔素体制と魔力量、身体能力等のみである可能性もある。それならば、共存もできるだろうと煉華は考えていた。


 煉華の話を聞きながら、ノルンは唇をぐっと噛み締める。長年瘴気被害に悩まされていながら、何も考えてこなかった事を恥じ入る様に目を伏せる。


 (彼女が私を呼んだのは、その研究に必要と判断したからなのだろう。だからこそ、エリス様を通じて断る事が出来ない様にしたのだ。だいたい、何故瘴気と魔素が同じものだ思ったのだろうか。共存など……そんなこと、考えた事も……)


 全身の血の気が引き、握りしめた手の平に爪が食い込む痛みが己の罪を暴いていくようであった。

 賢者と言われながら、聖女と共に瘴気を浄化し魔王を封印したら終わる。そう思っていたし、封印すれば終わってきたことだったのだ。これまでの歴史もそうであったのだから。だが、目の前の少女は、自身の体に瘴気をため込み、性質を研究していた。己を酷使することで、解明しようとしたのだ。これ以上繰り返さない為だけに。

 そんな彼女に、ノルンたちが行った事を考えると血の気が引いていく。

 

 数か月にも渡り冷遇し、愛想の無い傲慢な女だと吹聴し、実績すらプロパガンダだと嘲笑った。踏みにじり続けた。協力もせず、聖女たる存在ではないと態度で示す事で、煉華という存在を否定してきた。


 「……なんという事を」


 「ようやく、思い至ったようね。魔族と争わずにすむ方法があるかもしれないって」


 考えているのはそこではない。そう言おうと口を開くが言葉にならずはくはくと唇を動かすだけとなる。


 「賢者としての知を貸してくれるかしら?

 この国、世界のためにも、必要な研究。それにはこの世界の知識がたくさん必要なの」


 悔やんだりしている時間はない。そう告げて手を伸ばす煉華を見つめて、ゆっくり己の手を伸ばす。


 「……私の力が役に立つならば喜んで」


 握手を交わし、ノルンが協力を約束する姿を、エリファスは驚いてただ見つめていた。

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