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10.会議と要求

 体の奥が燃えているようだ。

 熱を孕んだままの身体を起こし、朝食代わりのスープを飲んでゆっくりと体を伸ばしていく。倦怠感で動きの鈍い体を誤魔化すように、回復薬と呼ばれる栄養剤のようなものを流し込んだところで、エリスから今日は人が会いに来ると言われていたことを思い出した。


 この世界に来てから煉華と積極的に関わりをもつのはエリスか、魔法を教えてくれるゲーボだけであった。特に支障はないが、聖人達をどうするか訊かれたときには、必ず現状維持を求めることにしている。どうでもいい。と、思っているからでもあったが、理由としてはもうひとつ。先代の聖女を再召喚する前に自身の身体がもたなかったことを想定しての事だ。

 瘴気を自身の体内に吸収して浄化の代わりとしているが、3回目以降、傷の治りが遅くなり痛みと熱さで眠る事が出来ない日々となっている。それが瘴気によるものだろうと推測はたてていたが、どうしたらいいか。までは考えが及ばず、また、瘴気を祓う。という魔法の構築や研究も上手く行かず行き詰っている状態だ。その状態となってすぐに、煉華は自身に万が一の事がある。と、想定して記録をつけ、聖人をそのままに。と、言い続けることに決めた。保険は大事。最悪の想定も大事。それが煉華の生きるうえで重要視している事柄だった。


 「おはようございます。煉華様。ユリウスが応接室に来ていますが、もう少し待たせておきましょうか?」


 食べ終わるころを見計らってエリスが部屋を訪ねてきた。煉華は、自身の身だしなみをさっと確認すると、直ぐに行くと返事を返す。


 「何の用事か知ってる?」


 「追い返しましょうか?」


 剣聖ユリウス。

 聖人のひとりが面会を求めている。そう聞かされてから疑問に思っていたことを伝えると、エリスはいい笑顔で追い返す事を提案してくる。それはちょっと。と、宥めながら応接室へ向かうと、そこにはゲーボと見知らぬ壮年の男性。それと、剣を携えた青年が俯いた状態で立っていた。


 「ゲーボ副団長。おはよう。あと……?」


 「ソーンと申します。ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。この国の宰相を務めております。これは、ユリウス。畏れ多くも、聖女様にとっては剣聖として肩を並べているはずの者です」


 数か月放置して今更挨拶もなにもないだろう。と、煉華は口に出すことはないが一瞥して挨拶を聞き流す。

 扱いに困っているのだろうとは思ったが、エリスとゲーボに押し付けてそのまま放置していた事実には変わりないだろうと判断する。

 たとえそれがエリスから聖女がこの国を信用していない。と、聞かされ信用する者が出来るまで待ったほうが良いかもしれない。という発言を受けてのものであったとしても、対応が後手なのは変わりない。煉華がこの国に対して抱いている感情はいいものであるはずがなかった。


 「……今更とは思いますが、挨拶に来てくださったことには感謝します」


 挨拶は返さず、ソファに腰を下ろした煉華は、足を組み肘掛けに肘を立て、斜めに見下ろす不遜な態度にゲーボが目を見開く。

 初めてみた態度の悪さに驚いた事もあるが、それ以上に煉華が腰を下ろした瞬間にフェイと対峙しているかのような圧を感じたからでもあった。


 「どうぞ。座って。それで、私に一体何の用事かしら?」


 隣に控えていたエリスも同じように目を丸くしている。ゲーボと目を見合わせていると、再度促されてソファに腰を下ろす。

 運ばれてきたお茶を口に含んだ煉華は、ひとつ、息を吐くとソーンを一瞥する。ユリウスにいたっては、挨拶をする暇すら与えない。目にも留めていないと態度で示されてしまったユリウスは、俯いたままソファに座る事無く立ち続けていた。


 「改めて、自己紹介を。和泉煉華。この国では領主に近い立場を担っていました。私が召喚されてしまったのは、事故のようなものとは理解しています。無視してしまえばよかったのでしょうけれど、私の経営する学園都市で子供が泣いている状態を放置するわけにもいかず声をかけました。が、それは失敗でしたね。

 私がいなくなった事で、和泉の後継が私の妹になりそうなのですが、それは私の功績が無になるということです。このままだったら、来年にはあの狸を引きずり降ろして、私が継ぐ予定でした。それをすべて無にしてくださった補償はどのようにしてくださるのかしら?

 金額だけで言えば、国家予算が動く話なんですの。和泉といえば、世界的にも有名な企業でしたから」


 初めて聞く情報に、ゲーボの表情が硬くなり、ソーンは言葉を無くす。

 穏やかに、しかし温度の無い言葉を一気に吐き出した煉華は、そのまま追撃する様に言葉を紡いだ。


 「あなた方の都合だけで、私の人生を踏みにじり、あげく望んでいた者ではなかったからと拒絶しておきながら救うために働けと言う。

 随分、自由な国家なのですね。この国は」


 「それは……!」


 「まぁ、見捨てるのも私の立場上難しい為協力はしますが、やり方は一任して頂いたはず。それで? 歓迎していなかった私に何か御用でも?」


 ここまで追撃されて、エリスは煉華の奥深くには怒りがあったのだとはじめて理解する。

 常に冷静ですぐに状況を受け入れたようにみえた煉華だったが、ずっと、ずっと、怒っていたのだ。エリス達には穏やかに接してくれていたのは、ただ単にエリス達に怒っても仕方が無いと思っていたにすぎない。

 上の立場の者が来たなら話は別だと、存分に怒りをぶつけようと決めている煉華を見て泣きたくなるような痛みを感じていた。


 煉華にとっては最初から疑問だったのだ。瘴気とはなにか。それは本当に聖女が必要なものなのか?


 魔法の仕組みは知っているが、瘴気の仕組みはわからない。そもそも何故、人体に影響があるのか。焼けるような熱は、ある種の力を煉華に与えている。魔法の発動は早くなっているのだ。それはエリス達には伝えていなかったが、そこから煉華はある仮説を導き出していた。


 瘴気とは、魔法を使う為に必要な魔素という成分の濃度を濃くしたものである。と。


 その仮説を証明するためには、瘴気の種を研究するための施設が必要だろうと考えている。

 同時に、自身の体内で起きている事を調べるためにも聖人の力は欲しいところではあった。

 聖女により力を引き出され、瘴気を消し去る事が出来る聖人の能力に関して気になる事があったのだ。

 どうせなら魔法に長けた者を連れて来てほしかったが、剣聖でも対話が出来るなら構わない。

 ここぞとばかりに怒りを前面に出し、不遜な態度をとっているのには理由がある。


 (このくらいでいいかな)


 顔色が悪くなり、険しい表情のまま口を噤むソーンを観察しながら、煉華は言葉を区切りお茶を飲む。

 そうして、緊張を解くように組んでいた足をといて座り直し、お茶菓子を口に運ぶ。食が細くなった煉華の為に作られた菓子は、甘く栄養価の高い木の実が練り込まれていて香ばしい。さくさくした食感を楽しみながら味わっていると、ソーンが頭を下げた。


 「謝罪で済むとは思っておりません。我が国が出来うる限りの事を致したく……」


 「そう。それなら、幾つかお願いするわ。まず、瘴気の種を研究するための場所を提供してくれるかしら? それから、研究に協力してくれる魔法士の派遣。後は、私の身体を診てくれる癒術士の派遣。後、そうね。エリスとゲーボにはとてもお世話になっているの。別途でお礼を渡してちょうだい。最後に、私自身が自由に使える金銭が欲しいから多少融通してくれると嬉しいわ。欲しい物を手に入れるための煩雑な手続きを省きたいの」


 出来る範囲だろうと圧をかけつつ、話は終わった。と、大きく息を吐く。肺が新鮮な空気を拒絶しているかのように痛む。

 全て叶える為に手配をすぐにでも行う。という言質を取ってから、ようやくその瞳にユリウスと紹介された青年を映した。全身の痛みを堪えながら真っすぐに見据えた青年は、爪が食い込んでいる事に気が付いていないのだろう。握りしめた指の間から僅かに血を滲ませている。十分すぎるほど悔いている姿に、煉華は少し意地悪い態度だったかと眉を下げた。


 「ユリウス。と言ったかしら? あなたも座って、要件を……」

 

 そこまで言葉を発しはしたが、煉華の身体は大きく傾き、焦ったようなエリスの叫びが鼓膜に響き、薄れる視界が床を捉えたところで意識を完全に失った。

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