中級魔法
リーネの保護から十日ほどが経過した。女神様からの連絡は一切ない。
もう女神様を頼らない方がいいのかもしれない。時空を超えるような魔法が存在するのか分からないけど、女神様を頼らない帰還方法を考える頃合いな気がする。
「トーヤ!練習!」
「はいはい」
最近のリーネは魔法の練習に打ち込んでいる。最初練習したときに、魔力を抑えることができなかったのがとても悔しかったらしい。
未だにリーネの魔力を抑えることはできていないけれど、リーネの魔力操作の技術は少しずつ上達しているような気がする。暴走しそうになるたびに聖剣で叩いているので、まだ被害は出ていない。
「魔法使えるようになる!」
「頑張ろうな」
いつもの山へと歩いてくる。一応俺も隠蔽魔法とか使えないかと頑張っているのだけど、やっぱり発音ができない。
リーネは日本語の発音ができるのに、俺は異世界語ができないんだ。情けない話ではあるんだけど…異世界語に日本語にはない発音が多すぎるのが悪い。
リーネはまず魔法の調整をするためにまずは軽い魔法を撃つようにしている。魔力を強く感じられるようになっている方が制御もしやすいので理にはかなっている。
「a-^i*@<d/"%!」
俺には聞き取れない言語によって紡がれた魔法詠唱によって、リーネの手から魔法が発動する。
リーネが小さい火の玉を連射するので、俺はそれをひたすら聖剣で切り刻んでいく。
火の玉の速度は原付くらいの速度なので、簡単に斬れる。とはいえ、斬り損ねたらここ一帯が火の海になることを考えれば、緊張せざるをえない。
リーネは追加で水や雷も放つので、それらも全部聖剣で斬る。
因みに、この魔法を剣で斬る技術は、異世界の騎士クラスなら基本的に皆できる。そうでもしなければ、魔法の戦争は勝ち残れないのである。魔法を斬るときに剣がだめになってしまうので、聖剣みたいな絶対に壊れない剣でもないと多用はできないけどな。
「ありがとうトーヤ!」
「はいよ」
一通り魔法を使って満足したリーネは、魔法の制御訓練を始めた。
ただ、何度やっても俺の目からは魔力が高まっているようにしか見えないんだよな。本人は抑え込んでいると思っているらしいのだけど、俺からは攻撃態勢にしか見えず、勇者として戦いに慣れてきた影響で警戒態勢になってしまう。
「リーネ、また魔力が高まってるぞ」
「ふしゅぅ…なんでぇ」
空気の抜けた風船のように魔力が抜けるリーネ。
なんだろうな…魔王は魔力を抑える必要がないから、抑えるという行動自体をとても苦手としているのかもしれない。魔王は常に魔力を高めて恐怖政治をするから、魔力を高める素質だけなのかもな。
リーネは今のところ恐怖政治どころか、魔王になるつもりもないみたいだからその素質は欲しいものとは素質は邪魔なものだな。
「トーヤ、お手本!」
「お手本って言われてもなぁ…」
俺は基本的にずっと魔力を抑えている。今の俺を見てやり方が分からないのだとすれば、俺が教えられることは何もないのだ。
魔力を抑えるコツとかも全部伝えてしまったし、あとはリーネがどこまでできるのかにかかっている。
なので、俺が言えるアドバイスは一つだけ。
「頑張れ」
「え~」
リーネは不満そうに、また魔力を高め始めた。こりゃ先は長そうだな。
リーネが魔力を抑える練習を頑張っている間に、俺は俺で練習をすることがある。詠唱ありの魔法を使えるようになりたいのだ。俺がしているのは、発音の練習だけどな。
無詠唱で使える魔法は、どれも魔力を高めるだけで副次的に発動するものを魔法と呼んでいるだけだ。魔力を高めれば他人を寄せ付けないし、索敵みたいなのもできる。魔力を高めるだけでは起こらない事象を、魔法として詠唱するのである。
「ダラヲハガンバ」
「発音が違うよ~」
分からん!発音分からん!くぁwせdrftgyふじこlpみたいな発音が人間にできるわけないだろ!
俺が頭を抱えていると、リーネが正しい詠唱文を教えてくれた。
「d?@!9\}S&"_<+:だよ~」
「くっ…」
リスニングはできるのに発音できない。発音できる気がしない。
聖剣を持ち出す必要があるので、毎回リーネに頼んで隠蔽魔法を使ってもらっているが、自分で使えるようになりたいというのが切実な気持ちなのだ。ずっとリーネに頼っているわけにもいかない。
俺もリーネも、それぞれの課題に直面し、四苦八苦しながら練習を続けた。
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