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初級魔法

 リーネがこっちの世界に来てから一週間。未だに女神様からの連絡はない。


 もしかして、女神様はリーネがこっちにいることを把握していないのだろうか。女神の仕事がどんなものなのか知らないけれど、どれだけ忙しくても連絡くらいはできると思うのだけど…

 女神様の力がどれくらいのものなのか分からないけど、魔王を倒すために俺を召喚する必要があったから、そこまで強くはないのかもしれない。となれば、リーネをあっちに帰すのは難しいという結論に至る。


「どうしたの?」

「いや、なんでも」


 リーネの日本語はどんどん上達している。挨拶はもう一通りできるし、喋れずとも理解できる単語が増えた。

 今のリーネの苦手分野は、日本語の読みだ。漢字、難しいよな、わかる。


「ん?リーネ、魔力が増えた?」

「まりょく?『魔力』のこと?」

「そうそれ」


 勇者としての素質なのか、それとも異世界に転移したからなのか分からないけど、他人の魔力量を感じられるようになったのだ。リーネの魔力が、日本に来た一週間前よりも増えているように思える。

 リーネが腕につけている腕輪は、リーネの魔力を抑えてくれるような代物であるのだが、あまりにも魔力が大きいと腕輪が耐えられなくて破壊されてしまうのだ。


 まだ腕輪が破壊されるほどではないけど、早めにリーネに魔法の制御ができるようになってもらわないといけないかもな。


「リーネ、魔法の練習するか?」

「する!」


 異世界でも同じペースで魔力が成長していたけど、まさか日本でも同じペースで成長するとは…


 普通の人間が魔力を伸ばすときは、日々魔力を使って魔力強度と呼ばれるものを高めるしかない。だが、リーネは魔王の娘だからか何もしてなくても成長するのだ。

 もしかしたら、大人になったときに魔王になれる素質を自動的に持つようになってるのかもしれない。魔王の生態は未だに不明だ。


「どこでするの?」

「そうだなぁ…近くの森の中にでも行くか」


 俺は発音の関係でまともに魔法は使えないけど、いくつか存在する無詠唱で使える魔法なら使える。その中に魔力を持たない人を払う魔法があるので、それを使えば森の中でも練習できるはずだ。


「動きやすい服に着替えてくれ」

「はーい」


 今のリーネはスカートなので、ズボンに履き替えてもらう。俺も体を動かしやすい服装に着替えて…聖剣、どうしようかなぁ…必要かなぁ…

 でも聖剣を持っていくとしても、どうやって持っていこう。人払い使いながら歩くしかないかもしれないけど、それだと流石に周囲に迷惑がかかりすぎるなぁ…


「うーん…」

「どうしたのトーヤ?」

「魔法で何かあったときのために聖剣があった方がいいかもしれないけど、どうやって持っていこうかなって」

『私ある程度の隠蔽魔法使えるよ!』


 ならそれをかけてもらうか。隠蔽魔法は無詠唱じゃ無理なので俺には使えない。


 俺たちは準備を終わらせて外に出る。日本の暑さって異世界よりも過酷なんだが、これバグだろ。


「暑いね~」

「だな」


 リーネに隠蔽魔法をかけてもらって、俺たちはさっさと移動した。森の中は影が多いので、きっと涼しいだろうという判断のもとだ。

 近くの森に入ったら人払いの魔法を広範囲にかける。確かこの森は近くの爺さんのものであり、ここに立ち入ることは全くないので人目はこれで大丈夫だろう。


「れんしゅうって何するの?」

「まずその腕輪を外す影響を見たい」


 腕輪を外さないといけない状況というのは存在する。それに、今後魔力が高まりすぎて腕輪が破壊されたときに対応できなければいけない。

 腕輪がなくなってもリーネ自身で魔力を制御できるようにならないといけないのだ。魔王の魔力というのは、それだけで周囲の人間に影響を及ぼすからな。


 まあ俺は勇者スペックなので魔力に当たっても問題ないけど。


「外すぞ」

「う、うん」


 リーネの腕輪は普通の腕輪と少し違っていて、リーネ自身では外せないようになっている。腕輪自体は異世界の魔法使いが使う普通のものだけど、ロック魔法を聖女さんがかけているのである。

 それは一定の権限を有するものであれば外せる。俺は勿論、その条件をクリアしている。


「っ!!!」


 腕輪を外した瞬間、リーネの体がビクンと動き、魔力が放出され始めた。この魔力量ならまだ人間に影響はないとは思うけど、もしかしたら不快感を与えるくらいはあるかもしれない。


「びっくりしたぁ。なんだか水があふれたときみたい」

「リーネ、その魔力を抑えられるか?」

「やってみる!」


 リーネがムムムと力み始めるが…なんだか魔力が高まっているような気がする。それこそ、魔王が魔法を使うのと同じ感覚が…


「むむむむ…」

「リーネ!」

「むー…」


 だめだ、聞いてない。どんどん魔力が高まっているし、このままだと周囲の植物にも影響があるかもしれない。

 こういうときは、聖剣の出番だ。聖剣の平たい面、腹とも呼べるその部分でリーネの頭を軽く叩く。それだけで、リーネの魔力は霧散して、リーネはその場でへたり込んでしまった。


「トーヤ、何するのー?」

「抑えるどころか高まってたからだよ」

「んー?」


 あれ、理解できない日本語なのか。えーっと…


「抑えられてない」

「えー!?」


 〇〇どころか○○という表現はまだ理解できないのかも。あまり難しい構文は使ったらだめだな。


『私の中では魔力をしっかり抑えて制御できてたんだよー?』

「俺からすると今から魔法使うのかって感じだったけどな」

「むー…」


 俺の言葉を聞いてリーネはしょんぼりしてしまった。

 

 魔法の予備動作というのは分かりやすい。なんせ、魔力の高まりをそのまま感じることができるからだ。対魔法使いの戦いにおいては、基本的にパリィと回避を繰り返して勝つようなものだった。

 魔法使いの熟練度によっては魔法を撃つまでが早すぎて回避できないこともあるが、魔力の高まりがあるのは同じなので不可避というわけでもない。


『トーヤが一回お手本を見せてよ!』

「もうやってるぞ」

「…え」


 俺にも魔力がある。魔法使いのように頻繁に魔法を使うわけではないから魔力が多いわけではないけれど、勇者として魔力くらい持っている。

 例え少ない魔力であっても、魔力を探知する者も存在するので、魔力を抑える訓練というのは日頃からやっているのだ。魔力を抑えなければ不意打ちを食らうこともあるからな。


「ただ自分の魔力を抑えるだけだ」

「おさえる…」


 体の中に風船があって、それを割れないように潰していく感覚だろうか。リーネには筆談で、そういうふうに伝えるけれど、あまりよく分からないみたいだ。


「むー!」


 しばらく練習していたら、リーネの魔法が暴発した。

 ので、俺はそれを聖剣で霧散させる。


 それを何度も繰り返したものの、リーネは終ぞ魔力を抑えることができなかったのであった。


「しばらく腕輪だねー」

「ちゃんとできるようになれよ?」

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