ダンジョン
このショッピングセンターは、近所の建物の中でも相当大きな部類だ。勿論、それでもショッピングセンターの中では小規模の方だとは思うのだけど、リーネの目にはとてつもなく大きく見えていることだろう。
「トーヤ!すごい!」
「そうだな」
大きな建物を見てテンションが上がりまくっているリーネ。
そんなリーネをショッピングセンターの中に連れて行くのは、リーネが迷子になりそうで怖いのだけど…最悪こっそりと勇者スペックで全力の気配探知を使えば見つけられるだろう。
例え百人の中から特定の一人を見つける状況でも、一瞬で見つけることができる。それが勇者スペックというものだ。
『色んなのが置いてあるねー』
「大型複合商業施設って異世界語で何て言えばいいんだろう…【市場みたいなものだよ】って感じでいいかな」
『なるほど!』
どうやら伝わったみたいだ。異世界に複合施設なんてなかったからな…
文章構造も単語構造も全然違うので、こっちにしか存在しない単語を説明するときは異世界にもある単語や既にリーネが知ってる単語を使って説明しないといけないから大変だ。
別の言語の練習をもっときちんとしておけばよかった。そうすれば、もう少しリーネへの説明をスムーズにできると思うんだけどなぁ…
「服!」
「ああ、服な」
リーネが近くにあった服屋に引き寄せられていったので、俺もついていく。女性服の店だけれど、彼女に連れられてきたであろう男性が僅かにいるのでなんとか気にせずに入れる。
これで店に女性しかいなかったら、リーネが見える位置の外で待ってようと思っていた。
『スズが持ってた服とは違うねー』
【姉の好きなタイプじゃない】
リーネが興味を示したのは、姉が持っていないような、ロック風な服。姉はかわいい服が好きなので、こういうかっこいい路線の服はあまり持っていないのだ。
最近ずっと姉の着せ替え人形になっていたリーネからすると、姉が持っていない服は奇怪に見えるのだろう。興味津々で眺めている。
「これ着るー」
「ああ待て。試着室に行かないと」
試着室の説明は後でするとして、リーネにいくつか服を持たせて試着室に誘導する。
試着室についてから、服を試着する場所であると教える。リーネは首を縦にブンブン振った後に、試着室に入った。そして服を脱いで…
「カーテンを閉めろ!」
俺はバッとカーテンを閉じる。あぶねえ、リーネの下着を見たら姉に殺される未来が見える。
姉は気に入った相手を守ることに関しては過激になるからな。姉にとってリーネは相当上位に入っていると思うので、リーネに何かしたら俺が社会的に死ぬことになるだろう。
肉体的なものならトラックの衝突でも死なないんだけど…現代社会の怖さを知ることになる。
「どう?」
しばらくして、リーネが試着室のカーテンを開いた。
黒を基調に、服を真ん中には雷が書かれており、正直あまりおしゃれだとは思わない。それに、リーネには似合わない。
「似合わん」
『だよねー。私もそう思う。着替える!』
リーネ的にもこの服は違うと思ったのか微妙な顔だ。やはり、リーネには清楚系の服の方が似合うな。やはり、姉のファッションセンスを指標にするのがいいのだろう。
リーネはくるりと翻して、服を脱ぎ…
「だからカーテンを閉めろ!」
『ごめんなさーい!』
まったく…
……
『なんだかあそこの服は違うなぁ』
「ほかにも店はあるよ」
『そっちに期待だね』
あの店は、あまりリーネに似合う服はなかったので、何も買わずに外に出た。
リーネは姉に言われた通り、服を買って帰る気満々のようだ。リーネも姉のセンスを受け継いでいるのか、自分に似合わないものは買わないので、きっといい買い物ができるだろう。
それにしても、視線を感じるな。街の中を歩いているときは周囲にも人が多かったのでよかったのだけど、ショッピングセンターは人口密度が下がるせいで視線を感じる回数が増えているように思う。
リーネの見た目を見ている人が八割、英語以外の言語が気になっている人が一割、残りは変態。聖剣で叩き斬るぞ。
『どうしたのトーヤ?』
「なんでもない」
少し殺気を出せば、変態どもは立ち去って行った。聖剣って変態という悪にも効果あるかな。
リーネを連れて、リーネの好きそうな服を売っていそうな店を探して歩いていたら、リーネが途中で足を止めた。
『あれって何の店ー?』
「あれは…なんだろうなぁ…」
リーネが見つけた店は、ヴィレッジヴァ〇ガード。あれって何の店って言うんだろうか。
店先の雰囲気が、明らかに他の店とは違うので気になったのだろう。確かに、初めてこの店を見たのなら、気になってしまうのもわかる。
『入るー!』
リーネの突撃。
この店、店内も迷路みたいになっているので、見失うと見つけるのに時間を要してしまう。そのため、見失わないように気を付けないといけない。
なんだかよく分からないものばかり売っているので、リーネが首をかしげている。俺の方にそんな目を向けても、俺も説明できないよ。
リーネは近くにあった、謎のおもちゃを手に取って振ってみるが、遊び方が分からない。日本語の説明だと…シェイクシェイク!…振っても何も起きなかったが?
「ちょっと貸して」
気持ちの悪い触感。不快感を募らせながら振ってみると、やはり何も起きない。
いや、なんとなくこのおもちゃの中に固いものが入っていて、振るとそれが手に当たるのだけど…まさかそれだけか?それだけで、おもちゃとして機能していると思うのか?
俺もリーネも揃って首をかしげて、そのまま店を出た。魔王の娘をして、よくわからない店だったらしい。
『変な店』
結構な人が思ってるよ、それ。
寄り道をしたものの、ブティックにたどり着いた。こちらには、先ほどとは違ってかわいい系やクール系の服が多く置いてある。
それに伴い、先ほどよりも男性が少ない気がする。なるほど、さっき男性が多かったのは、ロック系の服を多く売っていたからだったか。
リーエは近くにある服を物色し始めたので、俺はそこらへんで立ってリーネを見守る。金銭に関しての知識は与えたけど、ちゃんと加減よく買えるか。
『これ試着ー』
リーネは、今度はちゃんとカーテンを閉めて試着をした。
そして出てきたのは、白のブラウスと水色のスカートを履いたリーネ。姉の趣味なのかワンピースが多かったので、とても新鮮な気持ちになる。
「どうかな」
「かわいいぞ。似合ってる」
「えへー」
その後も色々と着替えてみて、最終的に、一番最初に選んだ服を買うことにしたようだ。
『明日はこの服を着ることにしたの。楽しみー』
「期待してるよ」
リーネがスキップもどきをしているのを眺める俺。どうやらリーネは街を十分楽しんでくれたみたいだ。
問題も起きなかったし、これならリーネをもっと外に連れ出しても大丈夫だな。
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