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 目を開けると、そこは俺の部屋だった。

 リーネは…俺にしがみついている。


「あ、戻って来た?」

「みたいだな」

「えへー」


 俺にスリスリしてくるリーネを引きはがして、カレンダーやスマホを確認。

 どうやら、俺たちが向こうの世界に飛ばされた時間から一分ほどしか進んでいないようだ。元々俺たちは部屋で駄弁っていただけなので、家族に不信に思われることすらないだろう。


 この一分の間に誰か来ていたら分からないが…言うて一分だけの不在。普通に生活していても起こりうる事象なので、まさか異世界に飛ばされていたなんて思いつくことすらできないだろう。


「むー……トーヤ、ヘタレ」

「何がだよ」

「むー……」


 なぜか不貞腐れているリーネ。俺が一体何をしたというのだろうか。


 そんなリーネを後目に、俺はキッチンに向かって、お菓子を持ってきた。久しぶりの、味がついている食べ物だ。


「ほら、食べるか?」

「食べるっ」


 お菓子をあげたら元気になった。一体なんだったのか。


 そういえば、あっちの世界で戦うために装備していたものはなくなっている。元々俺たちが着ていた服に戻っており、解れすらないので多分状態が戻っている。


「まあ、許可も貰えたし、リーネはこっちで生活ってことでいいな?」

「うんっ!」


 さて、ならば問題が一つある。というのも、両親への説明のときにリーネは一時的に日本に来ている外国人であると紹介したのだ。

 もうあっちの世界に戻る方法がない以上、こっちに永住すると考えていいだろう。


 娘が一人増えるようなものだと思えるだろうか…いや、だがうちは別に裕福な家計というわけではないので、厳しいだろう。

 学校に通ったりなんだりしなくてもいいのはいいが…やはり、個人情報とか出自とか存在しないものが多すぎる。


 やはりあっちの世界にいた方がリーネは幸せに…


「どーん!」

「うわっ」


 突然リーネが突撃してきた。勇者スペックのおかげで倒れることはないが、反応が遅れたので少々痛い。リーネは意外と筋力があるのだ。


「今悪いこと考えたでしょ」

「悪いこと?」

「私は、トーヤと…こっちの世界で生活してる今のほうが楽しいよ!」


 リーネは楽しいかもしれないけれど、悩むところも多いのだ。


 まあリーネが楽しいのであれば、それはそれでいいことだ。処理しなければいけないことについては…最悪魔法を使うことになるかもしれないな。


「そういえばリーネ、新しい魔法を覚えれたのか?」

「うん、魔物が使う禁術も覚えてきた!」

「それは忘れなさい」


 魔物が使う魔法ってあれだろ、人心掌握とかアンデット使役とか悪魔召喚だろ。勇者時代にそれらの魔法を使って軍団を作ってた魔法使いに会ったことがあるぞ。

 国への侵攻を予定していたので、魔王討伐とは少し関係ないことではあるけれど、勇者パーティで蹴散らしたものだ。


「ん?でも、私の個人情報ってやつを作るには必要じゃない?」

「いや、まずいだろ…」


 魔王の娘が人心掌握って…それこそ闇落ちまっしぐらにしか見えない。もし禁術にリーネが魅せられてしまったら…俺が勇者として討伐しないといけないかもしれない。


「大丈夫だよ!」

「こえーよ」

「だって……何かあったら、トーヤが止めてくれるでしょ?」


 現在のパワーバランスで言えば、まだ俺の方が強い。聖剣も装備すれば、リーネの魔法を斬るくらいならできる。

 だが、これがもし魔王のようになったらどうなるだろう。こっちの世界には勇者パーティはいないし、俺一人で戦うことになるだろう。その時、俺はリーネに勝てるのだろうか。


「リーネ、くれぐれも日本征服とか考えるなよ」

「考えないよ!……私は、トーヤたちがいれば十分だもん」


 まあ、それを抜きにしてもあまり魔法を使うような機会を作らないようにしないといけない。少なくとも、警察に取り調べを受けるようなことになれば不法滞在外国人扱いされる可能性があるので、犯罪だけはしないように注意しなければ。


「まあいいか。しばらくはこのままで」


 取り敢えず親には改めて何かしら説明しなければいけないだろう。今のうちに内容を考えておこう。


「トーヤってさ、耳いいんだよね?」

「え?いいけど」

「私の言葉、全部聞き取れてる?」

「ああ、しっかりな」


 たとえ声が小さくても、俺の耳なら聞き取ることができる。大体、百メートル圏内の音なら耳をすませば全部拾うことができるはずだ。


「…何も思わないの?」

「何が?」

「……もう知らない!」


 それだけ言うとまたもや不貞腐れてリーネは部屋を出て行った。お菓子を全部持って行ってしまったので、俺は手持無沙汰だ。



 いや、まあ、意識していないわけではないけれど、まだリーネはそういう年齢じゃないだろう?


……


「スズ聞いてよ!トーヤ、本当に鈍感!」

「あははっ、あれはね、多分無視してるだけだよ」

「むー…やっぱり直接言わないとだめかな」

「うーん、なんでか知らないけど、いつの間にかメンタルが強くなってるから何も思わないかも。それこそ、キスとかしよ」

「ふえぇ」

「こんなかわいい彼女ができるなんて、我が弟ながら羨ましい」


……


「トーヤ、行ってくるね!」

「ああ、俺も行くよ」

「バイト、頑張るぞー!」

「魔法使うなよー」


……


「今日いつ帰る?」

「多分七時には」

「ならごはん作って待ってるからね。早く帰ってきてね、あなた」

「恥ずかしいならその呼び方しなければいいのに、リーネ」


……


「なんか妙に長生きだよな俺たち」

「まあ私は人間じゃないし、統也も勇者だから」

「いつになるかな」

「別れの話なんかしないでよ」


……


「体は若いのに…きついんだ…」

「うん、分かってる」

「リーネ…また会おう…」

「うん、うん、また、私のあの城から連れ出して!」


……


 魔王の娘の血筋というのは伊達じゃないらしい。夫が死んでも、私はまだまだ元気だ。

 正直、もう私のことを知っている人は誰もいない。だから、死んでしまおうとも思った。でも、この命はあの人が助けてくれた命だから…私は生きるよ。


 だから、またね、トーヤ。

完結です。今までありがとうございました。もしかしたら、気が向いたら後日談を投稿するかもしれません

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