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廃村

 魔王の領域の中での戦闘にも慣れてきた。しばらく剣を振っていなかったものの、魔物が次から次に現れるこの環境では、勇者時代の技量を強制的に呼び戻すしかなかったのだ。

 勇者として召喚されたあと、王国で剣の修練を何度も何度もやらされたが…その時の教えや動きを脳内で反復し、この身になじませる。平和な日本では使わない剣術を身体に慣れさせる。


「せいっ!」


 蛇の魔物を一刀両断。首を一撃で斬り落とす。リーネの魔法を使うまでもない。


 流石魔王城の中にあった武器だな。例え勇者スペックを取り戻したとしても、折れたりなんかしない。ただ、少しずつ刃こぼれしてきているのでどこかで整えたいところ。

 勇者スペックによる腕力があるので、最悪ただの頑丈な棒でさえあれば叩き潰して敵を殺すこともできるのだけど、やはり致命を与えるならば斬った方がいい。


「すごーい!」

「元々の能力だ」


 聖剣さえあればもっと身軽に、もっと綺麗に斬れるのだけど、魔物の剣じゃここまでだな。


 それに、そろそろ戦闘をする必要もなくなるだろう。そんな予感がするのだ。


「今日はここまでだな。リーネ、火をつけてくれ」

「はーい。.4[:wepwlr*&2^aT1.?」


 いつも通り俺が発音できない詠唱で、集めておいた小枝の束に火をつける。


 尚、魔物が火を恐れることはなく、明かりに関しても光魔法で照らせるので、この火はただの料理用だ。ここに来る途中で拾ったキノコとかを食べるのに使うのだ。

 旅をするうえで食用とそうでないものの区別は魔法使いさんや聖女さんがやっていたが、それをずっと見ていた影響で俺もなんとなく分かるようになっていた。


 因みに、勇者スペックのおかげか、そこらへんで自生している毒キノコくらいならちょっと腹が痛くなるくらいで済む。例えそれが致死率百パーセントの毒キノコであってもだ。

 なので、一応俺が先に毒味をする。そして、大丈夫そうだったらリーネに食べてもらうというのをやっている。

 今のところ、この旅の中で毒キノコに当たったことはないが、油断したときが一番危険だと知っているので、日本に帰れるまでは慎重だ。この世界には、日本のような高度な医療技術はないからな。


「私だって毒キノコくらい大丈夫だよ!」

「リーネの生態は分かってないからだめ」


……


 道の先に、何やら建物らしきものが見えた。普通の人間ならよく分からない距離だろうが、俺の視力ならば判別できる。

 あれは村だ。体感的にも魔王城から最寄りの村はこれくらいの距離だったはずなので、あれが俺たちの探していた村で間違いないだろう。


「リーネ、目的地だ」

「わーい!」


 リーネが喜んで走りだろうとする。それを俺は腕を捕まえて引き留める。


「約束だろ。まずは俺が先に行って状況確認をするって」

「うぅ…はーい」


 魔王が討伐されても、魔物は未だに世界を跋扈している。俺が勇者をやっていた当時から、村は街は知らない人物に対しての警戒がすごいのだ。

 特に、見た目が人間とよく似ている魔物が存在すると巷で噂になった頃、多くの村では旅人の滞在すら許さなかった。俺たち勇者パーティも、そういった理由で村とは離れたところで野宿せざるをえないこともあったのだ。


「リーネは歩いてきてくれ。先に行ってる」

「はーい」


 不貞腐れたリーネがとぼとぼ歩くのを後目に、勇者スペックを使って高速で村まで移動する。

 この村には勇者の頃にお世話になったことがあるし、勇者パーティの知名度が上がっていたおかげで、この村の人には勇者として覚えられているはずだ。

 リーネがたどり着く前には交渉も終わるだろう。


「…と、思っていたが……」


 村が近づくにつれて、村の現状が見えてくる。


 破れた扉、壊れた屋根、崩れた石垣…井戸の穴は塞がれて、畑には雑草が生い茂っていた。

 ここに人の気配はなく、魔物の気配すらもない。当時の光景はなく、死んだ村となっていた。


「…まあ、リーネからすれば都合がいいか」


 勇者として何も思わないはずはない。

 ここの村の人々は魔王の領域の近くだというのに、活気を忘れず生活していた。日々襲いくる魔物を撃退できるほど強い衛兵が多く駐在し、子供は笑っていた。

 魔王の領域を目前にして、こんなに安心して眠れることがあるのかと思ったくらいだ。実際、俺たちがこの村に滞在している間に、俺たちを狙った魔物がやって来たが、この村の衛兵と共に被害者ゼロで撃退したものだ。


 回顧するのもそこそこに、まだ使えそうな家を探す。村の人々のことは心配だが、今はリーネのほうが大切だ。

 俺はこの世界の勇者をやめたのだから。


「ここにするか」


 衛兵の宿舎。村の一番外側にあるが、その代わりに石造りの堅牢な建物は、今もあの時の姿を保ったまま居座っていた。


 俺はリーネのところまで戻り、リーネを抱えて村まで戻ってくる。魔物と戦闘になったときのために体力を温存していたが、安全の確保ができるならばダッシュで移動する。


「リーネ、お疲れ様。到着だ」


 俺たちはやっと村までやってきた。あとは、ここで神の使いとやらを待てばいいらしい。

 さて、あとどれくらいでつくかな。


……


 魔王の領域…内。

 魔王城の前に一人の男が建っていた。


「やっぱファンタジー世界に来たならここ見るべきっしょ」

「大体今日くらいに対象は村につくはずだし」


 男は魔王城を観光していた。いつの間に統也たちとすれ違ったのか。それを知るものはこの世界にいない。

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