道中
ある程度魔王城から離れると、魔物が現れるようになった。魔王城の近くにはいなかったにせよ、魔王の領域の中なので魔物がどれも軒並み強いのが問題だ。
「oa.;po2.:;vs1&e'!~^」
「せいっ!」
リーネの魔法に合わせて俺が前に出て、魔物を一刀両断する。
聖剣にはないにせよ、魔王城に置いてあった装備だからか、ここらへんの魔物に対しても結構攻撃が通る武器なのは幸いだ。
それに、リーネの魔法も相当な威力を持っていて、魔物にも十分な効果を与えることができている。皮が厚いタイプの魔物にも炎魔法でダメージを与えていたのは驚いた。
「やっぱり腕輪がないと違うね!」
「…そうだな」
実は、この旅に際して、リーネがずっとつけていた魔力を抑える腕輪を外したのだ。その影響でリーネからは存分に魔力が放出されていて、結構近くにいるだけでビリビリする。所謂、魔王の威圧的なやつだ。
こっちの世界で初めてリーネに会ったときは、ここまでの魔力を感じなかったし普通の女の子って感じだったのだけど、いつの間にやら魔女すらも凌駕するような魔力となっていた。
魔法使いさんの魔力量を計ったことはないけれど、多分あの魔法使いさんの魔力量すらも超えているような気がする。
もしかして、日本の山奥で魔法の練習をさせたからだろうか。魔力の制御がいつまで経ってもできなかったのは、毎日魔力が育っていたからなのだろうか。魔力制御の能力よりも、魔力が成長する速度の方が早くて追いついていなかった可能性がある。
「リーネの魔力、この世界だと迫害されるかもな…」
「はくがいって?」
「いじめられるってことだよ」
魔王の魔力は、存在するだけで人間に対して害を与える。一般人であれば、魔王の近くに立つだけで呪い殺されてしまうだろう。そういう存在なのだ。
リーネが現状魔力を抑えることができていないので、今のままでは一般人に対して大災害を発生させてしまう可能性すらある。
「リーネ、魔力を抑える練習、頑張ろうな」
「うんっ!」
元気に返事をしながら氷の魔法で魔物を氷漬けにするリーネ。魔王の魔力は圧倒的なので、こうして戦いの場だと役に立つのだけど…
魔力を抑える腕輪にも限界があるので、リーネ自身で魔力を外に放出する量を制御できるようにならないといけないだろう。そのための練習はずっと続けているのだけど…もしかしたら、こっちの世界で魔法使いさんか誰かに方法をきちんと教えてもらった方がいいかもしれないな。
やはり修行をするという場面では、師はいた方がいいだろう。俺は詠唱魔法は使えないし、魔力量もそこまで多くないので、リーネに効果的に教えることができないのだ。
「リーネ、一番近い村に着いたら、念のために村には入らない方がいいかもしれないな」
「そっかー…そうだね、怖がらせちゃうもんね」
この世界の人たちは、魔王の影響で魔力に敏感になっている。
それに、リーネは魔王の娘でもあるので、魔王の領域に一番近い村だとリーネが襲われる可能性もある。勿論、例の村残っているという前提の話ではあるけれど。
「むっ、また魔物だ!」
「行くぞ!」
雑談をしていたら、森の中から魔物が飛び出してきた。牛みたいな図体をしている魔物で、俺たちの三倍くらいの大きさだ。
リーネの詠唱はすぐに終わるけれど、その短い時間を稼ぐために俺が突撃する。魔物の足を斬り落として動けなくする。
ついでに角を斬り落として相手の攻撃力も下げてしまって、リーネの安全を確保する。リーネは現在装甲がとても薄いので、物理攻撃をリーネに通してはいけないのだ。
「リーネ!」
「;a@pesas-0we2#%&/!」
リーネの雷魔法が魔物に直撃する。リーネの雷が牛モドキの体を焦げつかせて、魔物は動かなくなる。どうやら一撃必殺だったらしい。
牛モドキの物理攻撃は勇者時代にも出会ったことがあり、防御力は低いけど物理攻撃力がとてつもなく高いタイプの魔物なのだ。一度突進攻撃を受けたことがあるが…勇者スペックだというのに、一瞬気絶するほどだった。
あの攻撃がリーネに当たれば…リーネは悲惨なことになってしまうだろう。
「リーネは魔力を抑える練習をしつつ、先に進もうか」
「はーい!」
……
かつて勇者たちを送り出したとされる国の中に、一人の男がいた。
「まあ、じゃあこの魔力は気にしなくていいんですね?」
「そうだ。お前たちが会うことはないだろうが…少なくとも気にしなくていいぞ」
男は教会の中にいた聖女に対して何やら説明をしていた。
「それにしても…私、神様のお姿を見るのは初めてなのですが…意外と…」
「俺はちょっと特殊だから気にするな。でもまあ、大抵の神は威光があるだけの人みたいなもんだ」
それだけ言うと、男は教会を出て行った。
教会の中に残った聖女は呟く。
「トーヤ様、リーネちゃん…どうか神の御加護があらんことを…」
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