弱点
リーネがこっちの世界に来て…何日目だろうな。あと数日で一か月が経つ。
俺が学校に行っている間に、即日採用系のバイトをリーネがしてきたらしい。即日採用、日雇いバイト…なんだか怪しい感じだけど、街中のちゃんとしたバイトらしい。内容はよく知らないけど、雑用だったって。
「トーヤ、お金もらった!」
「そりゃよかったな。それはリーネのお金だから自由に使っていいぞ」
最低賃金レベルの雑用仕事を何時間もして、普通の人であれば途中でうんざりして面倒になるものだが、リーネは終始楽しかったらしい。
この世界で仕事をするという行為自体が楽しいらしく、面倒な雑用を嫌がることなくしたみたいだ。尚、面倒そうな仕事というのはリーネから聞いた仕事内容について俺が思ったことだ。
「このお金、半分はお母さんにあげる!」
一応リーネを家に置いてくれる対価、らしい。リーネが稼いでくる額では到底足りていないのだけど、リーネが頑張るということを母は大切にしているらしい。
あと、俺もなんかしろって言われた。リーネを置いているのは俺が言ったからだと。まだ学生だしうちの市は高校生はバイト禁止だろ。
リーネはニコニコしながら封筒の中のお金の半分を抜いて、残りをポケットに入れた。スカートってそんなところにもポケットあるのか。
「うーん、でも、スズにも渡したほうがいいかなぁ」
今着ている服を摘まみながらそう言うリーネ。今リーネが着ている服は、言わずもがな姉が買った服である。
多分母以上に姉のほうがリーネにお金を使ってるんじゃないかってレベルで、リーネは姉に服を買ってもらっているのだ。姉も同じく高校生なので、月のお小遣いからお金を出していて…最近の姉は常に金欠気味だ。
だからといって、リーネからお金を貰うかと言われれば…貰わないだろうなぁ。
「多分受け取らないからリーネの自由に使いな」
「そう?トーヤが言うならそうする!」
そもそも姉は見返りとかが嫌いなタイプだ。
本人は自由に好きなことをやっているのに、そこで見返りだとかお礼があるのが気持ち悪いんだと。俺にはあまりよく分からない感覚なんだけど、そういうもんかね。
勇者時代はやること為すこと人のためであり、人々から感謝と返礼品をよく貰ったものだが…あまりこの感覚に慣れたらいけないのだろうか。
「うーん、何に使おう…」
「食べたいものとか、欲しいものとか」
母からの言葉で始めたバイトではあるものの、働いているのはリーネなので、残りのお金は何に使っても文句は言われない。危ないこととか違法なことのために使ったら俺が怒るけどな。
「欲しいもの…魔法書!」
「こっちにはないよ」
いやまあ探せば稀に黒魔術の本とかネットに流れてることもあるが…あれはリーネの求めている魔法とかじゃなくて、どちらかと言えば魔王の呪いとかそっちの方面だからな。
そもそも、リーネの母国語の本がこちらの世界には存在しない。なんせ、この世界でリーネの母国語を書けるのは俺とリーネの二人だけだからな。
「うーん…」
リーネは何かと目を輝かせて物を見るが、実際に欲しがることは少ない。多分元々あまり求めるものを貰えなかった生活をしていたからだろう。
まあ初めてのバイトだし、折角だから何か買いたいところだが…
「そうだ。リーネ、財布はどうだ?」
「財布?」
「そのお金を入れるやつだ。今後もバイトをするなら必要だろ?」
すべてのお金をそのままポケットに入れるわけにもいくまい。やはり早いところ財布は持っておいたほうがいいだろう。
「財布…財布…かっこいい!大人!」
「まあどんな見た目にするのかは自由だけども」
最近ではキャラクターな財布とか、かわいらしい財布とか色々あるからな。リーネはきっとシックな財布よりもかわいい財布のほうが惹かれるだろう。
「じゃあ次の土曜日に…」
「楽しみ!」
次の土曜日まではリーネはきっちりバイトして、土曜日に財布を買って…
そして、日曜日はリーネがこっちにきてちょうど一か月になる。
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