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新天地

 夏休み最終日。リーネがこの世界に来てから二十五日。

 世界を超える魔法を作り出したいけど、魔法の原理を俺もリーネも知らないので、結局女神様に頼るしかないと諦めた。


「学校ってどんなとこ?」

「向こうの世界で…【学校】…これのことだな」

「なるほどー」


 向こうの世界にも学校はあったので、そっちの言語に訳して説明する。日本語にそれなりに堪能となった今でも、あっちの世界にも似たようなものが存在する場合は、あっちの言語で説明したほうがリーネは理解度が高い。


「魔物のとこにも学校とかあるのか?」

「ないよ。だって、学ばなくてもいいもん」


 魔物は生まれたときから生存競争が始まっており、学ぶなんて高尚なことはできない(リーネ談)らしい。

 もし魔物が勉強をして知略などを身に着けていたら、俺は帰還がもっと遅くなっていただろう。


「そもそも魔物の方に先生が務まるような人はいないか…」

「偉い人は頭がよかったよ。トーヤが斬ったみたいだけど」

「作戦を立てられることが一番面倒だからな」


 幹部の中で、知略派っぽいやつは最初に倒した。俺の戦い方を見て対策をしてきたら非常に面倒なことになるので、対幹部の初戦で襲いに行ったのだ。

 そもそも前線に出るタイプじゃないので、会いにいくことが一番大変だったが、魔法使いさんの隠蔽魔法や隠密魔法を全力で使いながら敵陣のど真ん中を突っ切ったものだ。まだそこまで旅に慣れていたわけではないので、こっそり移動中に聖女さんがビクビクしていたのがかわいかった。


「旅を振り返っても、やっぱり最初に頭脳キャラを倒したのは間違いじゃなかったな」

「トーヤ頭いいね」

「その作戦を思い付いたのは魔法使いさんだけどな」


 別に俺は頭がいいわけではないので、そういった作戦とかは天才タイプの魔法使いさんが立てることが多かった。

 異世界だからって、現代知識で俺TUEEEとかできるわけではないし、そもそも戦うだけの毎日だったうえにチートとかもないので、普通に作戦を立てて普通に戦うだけだったのだ。


「トーヤは頭がよくないの?」

「俺の成績は普通だなぁ…」


 異世界召喚前で普通だったので、数年のブランクがある今では下から数えた方が早いくらいの成績となるだろう。魔王よりも夏休み明けの実力テストの方が怖い。


「でもトーヤは私に勉強を教えてくれた!」

「あれは俺がすごいんじゃなくて、リーネの頭がいいんだぞ」


 日本語だけではなく、日本の文化だとか知識だとかをみるみるうちに身に着けたリーネは、今や在日数年レベルの語学力を手に入れている。姉のせいでサブカル的な知識も身に着けているみたいだし…このままでは、異世界に戻ったときに浮いてしまうだろう。

 

「あの速度で日本語を身に着けるなんて、天才としか言えん」


 俺がリーネを褒めると、リーネは首を横にブンブン振った。


「違うよ!トーヤのおかげだもん!」

「そうかぁ?」


 俺はリーネに首を振る動作など教えていない。これは、リーネが日頃の俺たちを見て覚えた動作だ。

 たしかに、日頃の動作を見て覚えるというのは子供にとっては当然の学び方ではあるけれど、リーネはそれに合わせて動作の意味や日本語での言い方などを覚えている。やはり、リーネの覚える速度は尋常ではない。


 何度思い返しても、やはりリーネが凄いだけな気がする。言ってもリーネは否定するので、もう口には出さないけれど。


「私、もっと日本語覚えるからね!」

「そんなに覚えてどうするつもりだ?」

「だって、日本語が使えないとお金を稼げないんでしょ?」


 さも当然のように、日本でお金を稼ごうとする異世界の魔王の娘…シュールだ。


 どうやら、母からの提案により、俺が学校に行っている間はリーネはバイトをして少しでもお金を稼ぐ予定らしい。

 ずっと養ってもらっているので、リーネなりに恩返しをしたかった結果みたいだ。


「リーネがバイトか…」

「心配?」

「心配というか…なんだかなぁ…」


 女神様の連絡が夏休みが終わるまでに来なかった。そのせいでリーネがバイトをすることになっている。

 リーネがいなければ俺の夏休みの課題は終わっていなかった可能性が高いが、それとこれとは別。リーネがこっちに来なければ根本的な問題は起きていないはずなのだ。


 身に着けているものが転移するという設定のせいで、リーネがくっついたらリーネも来てしまったわけだけど…そこらへんも含めて女神様の責任なんだから、早く責任処理をしてほしい。


「女神様からの連絡、いつ来るんだろうなぁ…」


 俺がボソッと呟く。これは俺が日頃思っていることだ。


 そんな呟きに対して、リーネは小さい声で答えた。


「来なくても、私は幸せだよ」


 普通なら聞き逃す声量。だが、勇者スペックな俺の体は、リーネの声を一切聞き逃さずにとらえた。


「帰らなくてもいいのか?」

「だって、私、向こうに家族とかいないもん。【da@:2)1/<^\}\_:】にはお礼をしてないけど…」


 途中の聞き取れないやつは、確か聖女さんの名前だ。

 リーネは魔王城から国に来た後、ずっと聖女さんのところでお世話になっていた。そのため、お礼はしないといけないと思っているのだろう。せめてあっちに連絡する方法でもあればいいのだけど、それもないのでどうしようもない。


「リーネがいくら稼いだら女神様が来るかな」

「私の稼いだ額で来るかわかるの?」

「もしかしたらリーネが条件を満たしてないから戻れないのかもしれないだろ?俺だって魔王を倒したからこっちに戻れたわけだし、リーネにも何かあるのかもしれない」


 それに、魔王を倒してから一か月は時間があった。そう頻繁に異世界航行はできないのだろう。


 だとしても何かしら天啓とかできそうなものだけど、まあ世界が違うからな。できる限り、なるはやでお願いします。


「私がしないといけないことかぁ…」


 リーネが悩み始める。


 まあただの事故だし、多分何もないだろうけど、もしかしたらを考えるのであればそれでもいいだろう。リーネがこっちでできることくらい女神様だって把握しているだろうし、きっともうしばらくしたら連絡が来る。


 なんせ、一か月まであと数日なんだから。

面白いと思ったら評価や感想をお願いします。高校の夏休み、短かったなぁ…

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