アイテム屋
リーネがこっちの世界に来てから二週間と一日。女神は期待しない。
今日はリーネのために人形の代わりになるものを買いに街までやって来た。勿論、当人のリーネも一緒だ。更に、リーネの服を買いにきた姉も同伴している。
「統也じゃ服のセンス分からないもんねー」
「俺だって別にそこまで悪くないだろ」
「まあ男子たちの中ではそうかもしれないけど、まだまだだよ」
姉にそんなことを言われながら、ショッピングセンターを歩く。姉はキョロキョロと店を見渡しているので、リーネに合う服でも探しているのだろうけど、今のところ姉のお眼鏡にかなうものはないみたいだ。
「トーヤ、何買ってくれるの?」
「そうだなぁ…」
リーネの私物に関しては、俺のお金から出ることになっている。親曰く、家に迎え入れた責任らしい。
そのため、俺のお小遣いというのは俺とリーネの共有財産だ。俺も使う分であるため、あまり高いものは買うことができない。
「リーネちゃんの服は私のお金から出してあげるからね」
「最近ずっとそうだろ」
「リーネちゃんかわいくて着せ替え楽しいんだよね!」
なんだかんだ衣類というのは値段が高いので、そこが姉に補われているのは大きい。もし服も俺が払うことになっていたら、きっと破滅していただろう。
「むしろ、何が欲しいとかあるのか?」
「うーん、何もないかも。トーヤが選んで!」
「難しいなぁ…」
リーネは日本の文化についてそこまで知識があるわけではない。そのため、何が欲しいと言われても思いつかないのだろう。
とはいえ、俺だってリーネが何を貰ったら喜ぶのか分からない。俺が選ぶよりも姉に選んでもらった方がいいと思うんだけど、それはダメだとリーネが言う。
「あ、いい服発見!リーネちゃん、こっち!」
「はーい」
俺が何を買うか悩んでいたら、リーネを姉が連れて行った。とうとう姉の希望する服が見つかったらしい。
俺もついて行ってもいいのだけど、俺がいてもやることはないしその間に何を買うか探して…
「統也も来るんだよ!」
「なんで俺まで」
「統也に見てもらわなきゃ意味ないじゃんっ」
いや、俺別にそこまでセンスよくないぞ?よしんばセンスがあったとして、褒めるくらいしかできないけれど。
「いいから」
「えぇ?」
俺は二人について服屋に入る。
女性服専門店のようで、店内には女性しかいない。店員も女性なので、俺の肩身がとてつもなく狭く感じる。
姉は早速見つけた服を手に持ってリーネと共に更衣室に入って行った。どうやら、着方が特殊な服らしくて、姉が自ら着付けをするらしい。
カーテンの向こうからガサガサ聞こえて落ち着かなくなる俺。男子諸君ならわかるだろう、この苦痛が。
しばらくするとカーテンが開いて服を着たリーネが出てくる。なんという種類の服なのかは全くもって知らないけれど、中々似合っている。
「ほら、統也、今こそ感想を言うときだよ」
「ええ?んー、似合ってるぞ」
「やったー!」
いや別にこれでいいなら俺いらなくね?
姉のセンスには俺も信頼しているし、俺が言わなくてもリーネに似合う服を選んでくれるだろう。俺の中でリーネに何を買うか、という問題以上の要件ではないように思えるのだけど。
だが、俺の言葉を聞いてリーネだけでなく姉も満足そうにしている。なにゆえ?
「店員さん!これ買います!着ていくからタグを切ってもらってもいいですか?」
「かしこまりました」
姉は即決即断、買うことにしたようだ。
ハサミを持った店員さんの手によって、リーネの来ている服のタグが外されて、外に出られるようになった。
「ふふーん、いい買い物だったね」
「俺必要だったか?」
「何言ってるのさ。絶対に必要だったよ!」
絶対に必要って、意味重複してね?
服屋を出たら、今度こそ俺が買い物をする番だ。どうやら姉は、先ほど買った服で十分に満足したらしい。
「まだ悩んでるの?」
「いやー、難しいだろこれ」
「乙女心がわかってないなぁ。親友の彼氏くん(仮)でももっとすんなり決めれてたよ」
「誰だよそれ…」
誰かも分からん男と比較されて微妙な表情になる。
とはいえ、そんな風に比較をされると少し闘争心が駆り立てられるのも事実だ。こんな安い挑発に乗るのは勇者時代に卒業したはずなのだが、どうやらプライド的なものは残っていたらしい。
俺はショッピングモールの中にある店の数々を思い出して、リーネに買うものを考える。オモチャとかよりは、もっと身近に置いて置けるものの方が喜ばれる気がする。
魔王城にいたときは人形を持っていて、リーネ曰くそれはそこまで大切な要素ではないということらしいが…やはり、柔らかくてベッドとかに置いておけるものの方がいいだろう。
「よし、じゃあリーネ、こっちだ」
「うん!」
リーネを連れてある店まで歩く。リーネがキョロキョロしているけれど、今は目的地が決まっているので真っすぐだ。
しばらく歩けばすぐに店に到着する。街のモールと言えどそこまで大きいわけではないからな。
「んじゃここで…あれ、姉さんは?」
「んー?バイバーイって途中で別れたよ」
「まじかよ」
ついてきてるだろうと思って意識していなかったが、気配探知をしてみても確かに周囲にいない。
と、その時スマホにメッセージ。
『私は満足だからあとはごゆっくり』
なんじゃそりゃ。まあ姉が満足したならいいか。
気を取り直して、店の中に入る。
ここは雑貨屋。だが、取り扱っている商品はどれもインテリアというよりも家具に近い大きめのものだ。
「ここにあるはず…」
店内はそこまで広くないので、目的のものはすぐに見つかった。
値段を確認して、やはり少し値は張るものの、予算の範囲内で収まることを確認。レジまで持っていって購入。すぐにリーネに渡す。
「地球サイズってことで」
「猫の人形だー!わーい!」
「人形というかクッションだが…まあいいか」
買ったのは猫が寝そべっているフォルムをしている、言うなれば抱き枕だ。
リーネは猫をぎゅむっと抱いてスリスリしている。よし、満足してもらえた。
身近に置いておけるもので、固くないものと言えばやはり人形しか思いつかなかった。だが、小さい人形というのはショッピングモールでは手に入りにくい。
近所にあるような小さい店とかなら見つかるかもしれないが、モールで人形を買うのであればこれくらい大きいものとなる。クッションとして使えるからちょうどいいと思ったのだ。
因みに、猫なのは種類がそれしかなかったからだ。猫の柄は適当。
「ありがとうトーヤ!」
「どういたしまして」
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