~二代目歌川一家総長歌川源治の半生~歌川智子編
初代総長だったあたしの父親。歌川彦次郎がこの世を去って三年後、今のあたしの役どころは二代目をお継ぎになった兄様を助ける若頭というポジションにいる。
最初は何をしたらいいのか、全くわからなかったけど、当代になられた兄様だったり、父親の代から組を支えてくれていた、西新宿の愚連隊だった皆上康太さんや彼の内妻でもある一ノ瀬里緖さんの二人がまだまだ駆け出しのあたしを完全バックアップしてくれていたおかげであたしはこの怒濤の三年間を乗り越える事が出来た。
「お嬢…若頭のポジション結構イタについてきたじゃないっすか?けど…あぶねぇ事ぁ俺と里緖に任せてくださいやぁ……じゃねぇと俺等が二代目に大目玉だぁ」
ここは歌川一家の大広間、兄様に言われて先代若頭だった彼からいろいろ学べという事から、あたしと康太さん里緖さんという形で車座になり談笑しているときだった。
「智子…楽しく盛り上がってるとこすまねぇがよぉ今日は親父達の命日だぁ……墓参り…行こうや」
大広間で談笑するあたし達三人に、兄様が声をかけてきた。
「申し訳ありません兄様…急ぎ支度いたします……」
あたしはそう言うと、自室に戻り、白のストライプ柄のパンツスーツに着替えると、すでに事務所外に待機していた康太さんと里緖さんが乗る車の後部座席に兄様と二人乗ると、三人を乗せた康太さんの車は都内の霊園へと向かって走り出すのだった。
「……智子…一つ聞いてもいいか?親父は病に倒れたのか?それとも…殺されたのか?」
霊園に着き、墓参を済ませての帰り道、康太さんの運転する車の後部座席に並んで座る兄様があたしに聞いた。
「……俺が獲られたっていやぁあいつは間違い無く敵方に突っ込みかけんだろうから俺が獲られた事は黙っといてくれって…これが父さんの遺言よ兄様……」
父親の遺言どおり、彼の死を兄様に伝えるなというのはその時のあたしには出来なかった。
「……昔気質でめちゃくちゃ頑固だった……親父らしいよなぁ親父の遺言どおり仇討ちはしねぇけどよぉ俺の代で親父が守ろうとしてきたモノ…ぶち壊しちまうこたぁお天道様ぁ西から登ったって出来る事じゃねぇ……康太ぁ里緖ぉ事務所戻ったらカチ込みの支度だぁ!」
やはり兄様は、あたしや父親の心配どおり、決起の狼煙を挙げてしまった。
「……兄様…ご健闘をお祈りいたします!されど…今のあたしは兄様率いる歌川一家二代目若頭!あたしもそのカチ込み!ご一緒したく存じます!」
墓所から事務所に戻り、カチ込みの決起に沸き立つ兄様、里緖さん、康太さんの三人。まだまだ半人前のあたしがついていっても、足手まといになるだけなのは充分理解していたつもりだった。
けどこの時のあたしには、黙って兄様達三人を修羅場に送り出す事は出来なかった。
「……智子ぉ…ありがとよぉ……けど…その気持ちだけもらっとくぜぇ……おめぇにゃあ俺の跡を頼みてぇ里緖や康太達と力ぁ合わせてよぉこの歌川一家の三代目をよ……」
兄様はそう言うと、あたしと康太さん里緖さんの三人に瞬時に当て身をくらわせると、気を失ったあたし達三人を事務所に残し、一人敵方の本丸へとその身を踊らせた。