表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

ロードレース

 1992年6月26日 鈴鹿サンデーロードレース


 パァァァァァァァーン!カァァァァァァァーン!ブォォォォォォーン!グォーーーーー!

 鈴鹿サーキット南コースのストレートをロードレーサーRS 125ccが次々と駆け抜けていく。

 晃司もその中に居た。

 カァァァァァァァーン!、、 ストレートは伸びている。

 グォーーーーー!、、 コーナリングはマシンを上手く曲げられず遅い。

 ブォォォォォォーン!、、 スロットルに比してエンジンが吹けていない。


 タイムは59秒台。今日も予選落ちだ。決勝通過タイム54秒は遥か彼方。

 ストレートは早いが、コーナリングが不味くタイムが伸びないのが欠点だ。

 晃司は大学卒業後、定職に付かずに自分探し。と言えば聞こえは良いが、他に何もしたいことがないから。という理由で鈴鹿市に居を構えて職を転々としていた。

 働いた稼ぎはほぼ全て125ccロードレースにかかるレーサー、運搬車、メンテナンスにかかる費用等に消えていた。

 この1年間、走行時間だけが伸びてノービスライセンスにはなった。ただ、それだけだった。


 走行後、何かから逃げるようにサーキットに留まっていた。

「ドゥーハンしばらく欠場するらしいぜ!オランダGPの予選で大怪我したんだって!今年はぶっちぎりで総合優勝やったのになぁ、、、残念!」

 レース仲間の大樹はドゥーハンを推していた。

「シュワンツチャンス!でも、勝つか転倒か、、、好きなんやけど、、正直無理かなぁ。」

 晃司はシュワンツの天才的なライディングが大好きだった。

「ウェイン・レイニーが3連覇は難しいやろな。去年の転倒から今ひとつやし、、シュワンツがようやくチャンスだな!」

「500ccは130kgの車重で200馬力って、、、あんなモンスター誰も操れるわけないよなぁ。」

「俺ら125cc 75kg 32馬力でも必死でマシンにしがみつくもんなぁ」

「まあスライドしてもハンドル抑え込んで、足で制御できるな!」

 程遠い世界最高峰の500ccクラスの話題は、格好の現実を忘れられる話題だ。そして、大樹の様な仲間と話せる時は孤独が癒えた。


 その夜、誰1人いない社宅兼用の12畳はある英会話教室に寝そべっていた。

 ジィージー リィーリーン ジィージー リィーリーン

 静かな部屋に、虫の囁く声が響き、不安が頭をよぎった。

 、、来週こそ契約を取らないと、流石に所長に見放されるかも。

 働きながらレースをやっているから。という理由で、所長は新規契約の増えない晃司の給与を下げずにいた。 

、、さ、明日の練習をしよう!

「奥様、子供さんにチャンスをお与え下さい。お試し500円で英会話の可能性が分かりますよ。お子様の人生の為に、、、」

 ふと、英会話教室の壁に貼ってある「Giraffe」の文字が目に入った。

「何だったっけ?」

 晃司は、外国語大学を卒業した自分がその意味を想起できない事に焦った。

「この意味は、きっと、、、」どうしても想い出せなかった。


 キリンは、平和やバランスを象徴することで知られている。まさに、晃司に欠けている事、その物だった。

 

 ビィリーーーーン!目覚まし音が響いた。

「ヤバイ!いつ寝ていたんだ?」直ぐに今日のスケジュールを確認した。

 生の食パンを咥え、ジャケットを羽織って、レーサーを積んだトランスポーターに飛び乗った。車は一気に飛び出し、風を切って走り出した。

 慌ただしく駐車場に車を停め、トランスポーターから降り、すぐに会社の建物に向かって歩き出した。

 心が、一層急ぎ足をつけた。


「今日こそは勝負だ!誰にも負けるわけにはいかない。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ