レース当日
そんなやり取りのあった翌日、雲ひとつない快晴の絶好の競馬日和となった。春の割に日差しがきつくちょいと汗ばむが、これからやってくるであろう、うだるような暑さの夏に比べたらマシである。
俺は4番というゼッケンを背負い、もう目前に迫っているレースに備えゲートの手前で輪乗りしながら、噂の大物、5番ゼッケンを付けたセブンスターをちらりと見る。
・・・ものすごい顔つき。スーパーサラブレットなだけあって精悍な顔つきをしているのもあるが(イケメンですね、はい)、なんか気合が入ってるというよりか親の仇を目の前にしてるようなちょいと異常な雰囲気すら醸し出している。
こりゃあ、レース中は距離置いといた方がいいかな、なんて考えているとゲートインする時間がやってきた。偶数番号でよかったと思い、先にあいつがゲートにすんなり入っていった・・・と思ったら大暴れ。
ゲート内で暴れに暴れてジョッキーを振り落とし、しまいにはゲートをくぐり抜けて走っていっちゃった!
え、えぇ~~~!放馬ですか!?
「ただ今ゼッケンNo5番、セブンスターが放馬しました。この影響によりレース開始が遅れますので暫くお待ちください」とアナウンスが流れる。
会場はもう大騒ぎ。職員さんは暑い中走って追いかけ、観客は絶叫し(当然5番はダントツの一番人気)、俺は上に跨っている小坊主と一緒に呆然としていた。セブンスターがつかまったのはそれから2,3分後。
なぜかレースと同じ2000mを走ったところでスピードが落ち、職員さんにあっさりと捕まった。で、その後異常が無いかどうか馬医者さんに検査してもらうことになった。
周囲はざわつく中で、当の本人は何故かすっきり顔。レース前の険しい表情は消え、いい仕事したぜ、みたいな素敵な顔をしていた。そんな姿を見て俺は思った。
もしかして、もうレース終わったと思ってるのかな?前回より大差つけたぜ、みたいな?そりゃそうでしょう、もしそうなら2000m差ですからね。ギネス記録ですよ?
・・・こいつ、アホなのかな?
検査の結果、馬体に異常が認められたらしくセブンスターは競争除外処分となった。その旨を知らせるアナウンスが場内に響いたとき、アナウンスよりも大きな叫び声、というより悲鳴が競馬場の方々で轟いていた。
当然、その影響はレースを控えていた我ら馬たちにもある訳で、茫然自失の中でいつもの走りが出来なかった俺は、普通に走って普通に勝ってしまったのでした。
レース後、俺はこの勝利は何かの間違いだと自分に言い聞かせていた。
でも、まさかこのレースはこれから続くことの始まりにすぎない事を、この時の俺はまだ知る由もなかったのである。
続く