それから
晴れた日。パドックと呼ばれるサークル状の広場を、緊張した面持ちで馬が十数頭周回している。その様子を少し離れたところで俺は見ていた。眺めながら俺はふと、あのレースの事を、馬生初めてのG1、そして全力を出し切ったレースの事を振り返る。
あのレースの後のことは正直よく覚えていなかった。後からグラスに聞いたのだが、俺とスペシャルデイどちらが勝ったのかは写真判定となり、決まる迄にかなりの時間が掛かったらしい。
暫くして掲示板に1着9番、2着4番、間にハナと表示された瞬間は、それはもの凄い大歓声だったとか。
そして、そんな歓声の中、俺は静かにぶっ倒れたらしい。
そう、俺は負けたのだった。
気付いたのは厩舎に戻ってからで、それも夜になってやっと目を覚ましたらしい。目を覚ました時は鈴木厩舎の面々が勢揃いで、調教師のおっさんが泣きながら抱きついてきたのは覚えている。
次の日、検査が終わった後にグラスが寄って来て、
「姐さん、レース見て泣いてたっスよ。」
って言ってたっけ。
あれから数年経ち、俺もGⅠは無理だったけど重賞を幾つか勝つことが出来、無事に引退できて今はこうして第2の馬生を歩んでいる。 ん? この豪華な衣装でわからない?
そうです。なんと、誘導馬になれたのです。
ジンロ姐さんはあのレースの後すぐに引退し、すでに2児の母親になっている。来年には長男がデビューするらしく、楽しみだ。グラスワインダーは、あいつは無駄に元気があったけど、今もまだ現役でダート路線で頑張っている。
小坊主は顔立ちは大人びてきたけど、腕の方は相変わらずらしい。調教師のおっさんも同様だ。
停ま~~れ~~の合図が発せられ、各馬に騎手が跨ると後輩たちの顔もピリッと引き締まり、勝負に臨む顔になってくる。そんな後輩たちの先頭に立って、俺はゆっくりと歩いていく。
地下通路を通りレース場に到達すると、俺の脇を後輩たちが元気よく駆け抜けていく。
そんな後輩たちを見て俺は思うのだ。俺も確かにここで走っていたと。そして、なんだかんだ言って、精一杯やり切ったと。
さわやかな風が吹いてくる。
その風が芝生を揺らし、すっかり白くなった俺の体を通り抜けていった。
おわり
・本物語の修正版をnoteに投稿しています。よろしければどうぞ(登場人物、話が増えています)。
https://note.com/moco348/m/me9dd624ffbff




