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とあるおウマさんの物語  作者: moco
タマクロス 放心する
2/21

数日後

 厩舎の朝は早い。日が出てくるよりも大分前には関係者は起き出し、馬房の清掃、馬たちへの食事などを手早く済ませ、朝の調教へと向かっていく。今は春をちょい過ぎたぐらいの時期なので少々肌寒い程度で済むが、これが冬になるとめちゃめちゃつらい。

人間たちは鳥さんの毛をふんだんに使ったコートや厚手の手袋などを着ているが、われわれ馬に対しては扱いが結構ひどい。名前がついたゼッケンに馬鞍、意思疎通の為の鐙、・・・これだけ。


たまにレッグウォーマーみたいなのを足首にちょっとつけたり、メンコと呼ばれるマスクを付ける馬もいるが、ちょっと体の表面積に対してカバーしてるところ少なすぎない?と言いたくなる。

 世の中には寒立ち馬ってのもいるし、馬は寒さに強いから大丈夫でしょ?と言う輩もいるが、寒いのは寒いのです! 馬だけど鳥肌立つこともあります!

 と、どうでも良いことを考えながら歩いていくと、すっと横に立つ馬がいた。


 「おはよう、タマクロス。相変わらずぼ~っとしてるのね」

 「あ、姐さん、おはようございます!あれ、ぼ~っとしてました?」

 彼女はジンロ、我がポンコツ厩舎の唯一のオープンクラスにしてエースなのだ!


 「してたわよ。眼の焦点があいまいだったし。どうせ、あ~調教かったり~な~とか考えてたんでしょ?」

 「いやいや~、そんな事ないですよ~。2着をキープするのも大変なんですよ?日々の訓練が大切なんです、気付かれないようスピード落とす練習とか、微妙によれたりする練習とか。」


 「・・・はぁ、あんたはまだそんな事言ってるのね。現役時代なんてあっという間なんだからもう少し・・・、って言っても聞かないもんね。で、次はいつなの?」

 「え~っと、確か3週間後って言ってましたね、場所も同じ。」

 「あら、随分間が短いわね。ふふ、向こうも余力があるって気付いてるんじゃない?」


と、意味ありげな笑みを残して彼女は調教へ向かっていく。俺はえ~、マジ?とその日の調教は彼女の言うことが終始気になりそぞろに走ったせいか、フォームはすばらしくそこそこのタイムも出てしまい、某新聞に「タマクロス、調教ばつぐん!次で決める!」とAランク印を付けられてしまうのであった。。。


 ―3週間後―

 3,4時間くらいだろうか。窓がない馬房付のトラックに乗り込み、がたがたと暗い中を揺られながらレース会場へ運ばれていく。到着後、トラックから降りると一気に明るい所へ出たせいか目が一瞬チカチカしてしまう。


それでも暫くすると慣れてきて辺りをキョロキョロと見回してみる。すると、あちらこちらで同じようなトラックから降りてくる馬たちがいた。今回もやったるぜ!と気合の入った馬、もう勘弁!無理!って嫌々するものの厩務員さんに強引に引きづられていく馬、はたまた車酔いしたのかふらふらと足元がおぼつかない馬と実に色んな馬がいた。


それらを見ながら俺は長時間輸送の後の凝りをとるためにん~~っと体を伸ばし、グラスワインダーと並んでレース会場の馬房へと歩いていった。


「また、お前と同じ日にレースだなんてな。こんな偶然もあるんだな。」

「ほら、自分の場合はそろそろ決めないとタイムリミットっすから。いけそうなレースは全部出とけってことっすかね?」

「あ~、そうか、、もうそんな時期か。でもまぁ、お前ならそろそろ決められそうじゃないか?」


彼もまた惜敗続きで、俺とならんでポンコツ厩舎のシルバーブラザーズなんて揶揄する連中もいる。ちなみに彼の言うタイムリミットとは、競走馬は4歳秋までに1勝も出来ないとほぼ強制的に引退もしくは転職させられしまうのだ!

 近頃人間たちの間では、40歳か45歳で定年になるって話題があったけど、こちらは4歳ですよ? しかも、何かしくじった訳でもなく、ただ脚が遅いってだけで、、、そんな俺たちに比べたらなんて甘々な世界なんでしょう!


「すんなり行けばいいんすけどね、、、でもこればっかりは相手もいるっスから、、 あ!相手って言えばセンパイ、センパイの次のレース、すごいやつが出るらしいじゃないっすか?」

「あー、なんかいたな、そういう奴。でも、そんなすごい奴なら今回も上手くいけそうかな?」

「まーた、センパイったらそんな事言って、、、たまにはやる気見せたらどうッスか?姐さんも嘆いてたッスよ。」


「何を言う。俺はいつでもやる気満々よ。厩舎貢献度で言えば、姐さんと同じくらいだぞ?」

そう、実は私、何のかんの言ってナンバー2なのです。ちっぽけな厩舎だからね。

「賞金の額だけで言えばそうッスけど、でもセンパイにはもっと上を目指して欲しいっス!」

「やめてくれよ、そういうの。それに、俺がこうやってるのも姐さんの背中を見てきたってのもあるんだぜ?」


するとあきれたのか、まずい方向にいったと悔やんだのか、グラスワインダーはあっさりと引き下がる。

「・・・わかったっス!もう言わないっスよ。まぁでも、例え2着でもあのすごい奴ともしハナ差にでもなったりしたらセンパイもすごいやつって事になるッスからね、期待してるっスよ!」

 と、釘をさすこと事も忘れない。


ここで出てきたすごいやつとは、父親がG1 四賞の名前、母がG1 三賞ので合計七賞の子供という、スーパーサラブレッドのセブンスターのことだ。

クラシック制覇も!と期待された大器だったが、故障のため長期離脱。それでクラシックは残念無念となったが、それでも復帰後のレース初戦で10馬身差の圧勝を遂げたものすごいやつである。

そんなのと比べるなよ、と思いつつもこいつもレース控えてるし、テンション下げるのもどうかなぁと思って「善処します・・・」とやる気があるのかどうかわからない、政治家みたいな回答をするわたくしなのであった。


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