↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とあるおウマさんの物語  作者: moco
タマクロス 本気出す
PR
16/21

取材その2

 初めての重賞で2着、しかもG1出走権獲得! 当然、その夜は祝いの宴が繰り広げられ、皆でいつも以上のどんちゃん騒ぎに・・・なっていなかった。


しーーーーーーーーーん。


人は大勢いる。鈴木厩舎の関係者はみな揃っているのだが、俯いたりあらぬ方向を見ていたり。静まり返った中でたまにごくりと酒を飲みこんだり、ポリッとつまみを食べたりする音が聞こえるぐらいで、お祝いとはかけ離れた雰囲気だ。


どうやら喜びが通り過ぎて、今更ながらとんでもない事態になった事に気付いたのかもしれない。時折、鈴木の調教師のおっさんは『まさか、G1でも天皇賞に出るなんてな・・・』なんて、今からプレッシャー(?)みたいなのを感じているし、鈴木厩務員その一さんは『これは、そう、きっと夢だ。ホントの自分は暖かい布団にいるんだ。』なんて現実を否定し始めてるし、鈴木の小坊主に至っては『僕、母さんに電報打たなきゃ』なんていつの時代だよみたいな事を呟いてる。


「なんなんすか、このお通夜みたいな雰囲気は。みんな、もうビビってるんスかね~。走るのはセンパイなのに。」

「あれじゃない?タマが一気に駆け上がっていったから、心が追いついてないんじゃない?」

一方、馬たちは普段通りだ。餌やそこらへんの草をつまみに思い思い吞んでいる。


「あ、グラス。その草は止めとけ。不味いし腹壊すぞ。」

そういう当の自分は、すでに諦めの境地に入っていた。だって半年前は2勝クラスでうろうろだったのに、あれやこれやでG1ですよ?もう、笑っちゃうしかないよね。あはは・・・


「いや~~、しかしセンパイは凄いっスね!やれば出来る男だと思ってたっスけど、まさかG1まで行くとは!あっと驚く為五郎っス!」

「ホントよね~~。まさか、このまま一気にG1馬に・・・」

「なりません。いや、なれません。」

グラスワインダーとジンロ姐さんが悪乗りし始めたので、俺は即座に否定する。


「またまた~~、そんな事言って。」

「だって、最高峰レースですよ? そんなのに出場するだけで奇跡ですよ?自分なんて、大した血統でもない。厩舎だってポンコツ。ジョッキーに至っては洟垂れ小坊主・・・勝てる要素なんて、何一つないですよ。」


出るだけ恥だよ。


この言葉はかろうじてこらえて、弱音を吐く。それに、姐さんが反応する。

「もう!タマったら、まだぐちぐち考えてるの?あなた、頭が回り過ぎるから余計な事を考えちゃうのよ。重賞で2着だったんだから、G1でもそこそこいけるわよ。・・・ちょっとはあの人たちを見習って、何も考えずに突っ走ってみたら?」と向こう側を見ながら言う。


へ? と、姉さんの視線を追って見る。すると、鈴木厩舎関係者はさっきまでの静けさはどこへやら、いつものように、いや、いつも以上に盛り上がっていた。なんなのこの人たち。


―レース1週前―

 せめて恥だけはかかないようにという訳でもなく、ジンロ姐さんに言われた訳でもなく、G1に向けて割と真面目に調教をこなしていた。レースまで残り1週間となったこの日、調教に向かうと人だかりが出来ていた。よく見てみると、以前にもうちに取材にきたマスコミの人たちのようだ。


「前回の反省で、今回はセンパイが走ってるところを取材するらしいっスよ。」

いつの間にか、隣にいたグラスワインダーが語り掛ける。

なるほど。前回は調教師のおっさんの独壇場だったからねぇ、同じ轍は踏まないって訳ね。


 今回の調教は併せ馬というもので、他の馬と並んで走り、合図が出たらスピードを上げて抜き去るという調教だ。鞍上は本番でも手綱を取る予定のスズキ小坊主君。

一時、さすがにGⅠだからということで、一流どころのジョッキーに乗り換えようか、という話がオーナーとの間であったらしい。結局はお金の関係でスズキ君のままになったけど、危機感を感じたのか、ここ最近の調教はかなり気合が入っている。本番までに燃え尽きないかちょっと心配、、、


 そんなこんなで今回の取材は、自分にとっては調教中にカメラを向けられたのと、マイクを持ったお姉さんが何か話してたのを見てた、程度のことしかなかった。さぞかし無難な取材になったかな? と思いきやそうでもなかったらしい。

グラスに聞いたところによると、マスコミはなるべく調教師のおっさんは避け、厩務員さんその一や小坊主ジョッキーに取材するも、カメラの画面の隅にちょこちょことおっさんが映り込んで来たらしい。前回同様のスーツの上着インの状態かつポマードをたっぷりつけた玉ねぎヘアーをばっちり決めて・・・


しかも小坊主の方は緊張しまくっていたせいか、質問をされると『あ、あ、あ、あの、その、で、で、でででですから』と非常に要領を得ない話っぷりだったらしい。

トドメはそれを見かねたお姉さんが助け舟を出して、『あなたにとって、タマクロスはどんな存在ですか?』と聞いたところ、小坊主は『う、う、ウマです!』と答えたそうで。。。


当たり前だ。サラブレッドなんだから。

それ以外を聞いてんだよ! かけがえのない存在です、とか。

この回も放送された途端に視聴者の話題になり、ネット上では『鈴木厩舎 やべえ』がトレンド上位にランクインしたそうな。。

ポンコツぶりなら、文句なしにGⅠ級である。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。