道先2
茂枝木 花子の憂鬱
体がだるい、重たい。
今、何時……?
鉛のような体をようよう持ち上げて何とかベットから体を起こす。
寝すぎたのか頭痛もするし、背中が痛い。
少しくらくらする。視界が落ち着くまで、ベットの端に腰掛けてぼんやり。
薬の時間もだいぶ過ぎてしまった。何か食べないと、と台所へ向かう。
小ぶりな冷蔵庫を開けると、中にはうどんが一玉と温泉卵、納豆だけが入っている。
温泉卵は週末の酒のあてに楽しみにしていたのに……自分の思わぬ体調不良に辟易としてしまう。
ため息を深く吐いてそれらを手に取る。
小さな鍋に水を入れ、昆布出汁の入ったつゆを入れ一煮立ちを待つ。
気泡がポコポコと弾ける様を見ているとぼんやりした気持ちになってしまう。このままでは週末のお楽しみが無くなりそうで再度深いため息を一つ吐いた。
仕事が上手くいっていない訳でも、上司や同僚に苦手な人が居る訳でもない。
だが、何かが違うような、しっくりこないような変な焦燥感に苛まれる事が増えた。
それに伴い、体が疲れやすくなり眠りが浅い。寝付くまでもかなり時間が掛かる上、ちょっとした事で体調を崩してしまう。
暴飲暴食には走らないものの、週末だけは好きなツマミと酒を買って密かな楽しみとしていた。
理由も分からないまま。ただ、休めばと周囲から言われると「いや、休むなんてそんな。全然大丈夫だから」と言ってしまう。実際、仕事を一日休んだからと言ってこの不調が回復するとは思えない。
有給を使うのも「軟弱」そう思われそうで何か嫌だ。権利なのだから、使ってナンボな訳だけども。
ハッと意識を戻すと鍋から湯が減ってきていた。
「いけないいけない」
うどんの袋を開けて麺を投入。菜箸で少しかき混ぜそのまま5分タイマーをスイッチ。
いつもは3分くらいだけど、まぁ胃に優しそうな感じにしようと再びぼーっとする。
このぼーっとするのが瞑想みたいに効果を発揮すればいいのに、と的を得ない事を思いながら麺用の器を用意しておく。
ストレッチでもするか、と伸びをする。腰を左右にゆらゆらと揺らし体を捻る。
寝て固まった体が少し伸びて気持ちが良い。これ、習慣に出来るなら良いのになぁと出来もしない事を思う。
くだらない事を考えているとタイマーが鳴る。
火を止め、鍋からうどんと汁を移す。
「あ、忘れてた」
冷蔵庫を開けて納豆を取り出し、混ぜてうどんへ投入。そこへ温泉卵も一つ乗せる。
「いただきます」
ほこほこと湯気の出るうどんをふうふうと冷ましながら静かに啜っていく。
汁を飲めばカツオ出汁の香りが鼻を抜けてほっとする味である。
ゆっくり租借するつもりが美味しくてスルスル食べてしまった。
じんわり汗をかいた額を拭う。
「ごちそうさまでした」
手を合わせて食事を終える。
「あ、今度は肉カスいれよ」
そう思いつつ、体はまだだるいままソファに身を預ける。洗い物は明日でいいかと足をフットレストに足を投げ出した。