一緒のグールプに入ろうよ♡
「社会科見学か……」
授業の合間の休み時間。
俺、田中ガイアは腕を組みながらつぶやく。
「どこ行くんだ? ムーミン谷か? 西武園?」
この百合丘高校がある場所はオシャレな東京都心、などではなく、畑と住宅街と山と西武ドームがある埼玉県所沢市だ。今でこそ、そこそこ発展してるがトトロの元ネタのトコロザワと言えばどのぐらいの田舎なのかがわかるだろう。
「例年だと横浜だってよ」
俺の質問に友也が答えてくれた。
「ファー、オシャじゃん。もしかして所沢から元町中華街まで直通運転のFライナーで行くのか? やば、私鉄五社直通運転とかどんなヤケクソかと思ったけど役に立つじゃん」
「普通に貸し切りバスだって」
「はえー、さすが元お嬢様学校だなあ」
約三十人五クラスの女子集団を朝の激込み通勤電車に乗せるわけないか。
「横浜かァ~。フェ〇ス女学院を社会科見学してェ~~へぶぁッ」
「ガッ、ガイアッ!!」
サキに裏拳で殴られるのもさすがに慣れてきた感がある。
「それは普通にアウトだから名前を出すのもやめろし」
「はい……」
しかし横浜か。大方自由行動で各グループでチョイスした観光名所を巡る感じになるんだろう。
「となるとメンバーだよなあ」
朝に先生が四人グループと言ったが、このクラスは三十人だから割り切れないのでは? という指摘もあり四人~五人のグループを作る事になったのだ。
「俺ら三人プラス二人か……」
つまり百合を至近距離で楽しめるというわけだ。俺がそんな思案をしていると前の席のサキが振り返ってきた。
「つかさ、なんでアタシも自然にグループに入ってるの?」
何言ってんだこの精神異常者、もといダウナーギャルでクラスから浮き子ちゃんは。
「自分一人だけ女だらけのグループに入りたいのか? 俺は構わないがサキって仲の良い女友達クラスにいんの?」
「や……いないけど。これから仲良くなるかもしれないじゃん……?」
「はぁ~~~ん?」
俺は懐疑的な目でサキを見る。別にクラスの女子とサキの仲が悪いわけではないが、コイツのとある致命的な欠点から女子グループでやっていくのは無理そうに思えた。
「ちっ、わかったわよ。仕方なくアンタ達のグループに入ってあげる」
「いや、雑なツンデレとかいらないんで」
「殴るぞ?」
「普段からもそうやって殴る前に警告してくれると助かる」
「あと二人どうするの? 一人でもいいわけだけど」
友也に言われ俺は教室を見回す。
「うーん、お」
目線の先に萌香とねねちゃんを見つけた。悪くない。あの二人なら良い百合を見せてくれるだろう。
萌香がこちらの視線に気づいたようだ。俺はウィンクでモーションを掛けてみる。きっと通じるはずだ。
すると萌香は物凄く嫌そうな顔をした後にべーっと舌をだして拒絶の意思を見せてきた。
「ふむ、ダメか」
萌香はねねちゃんとその他二人のいつものメンバーでもう組んでるっぽかったしな。
そもそも一度に女子二人を探すより、とりあえず女子一人で四人グループを作ってもいいか。
「ねー近衛さんさぁ。まだ社会科見学のグループ入ってなかったら入らない?」
俺はすぐ右前の席にいた近衛胡桃に話しかけた。
くるくると巻き癖のある栗色の長い髪。少し眠たそうに見える垂れ目。話したことはあまりないが、授業中はピンと背筋を伸ばしていたり、その所作から品の良さが伝わり、とってもお嬢様な雰囲気を感じる。というか黒塗りの高級車で学校に送迎されているのを見たことある。
「…………」
近衛さんはぼーっとした目でこちらを見て何も言わない。
「近衛さん?」
「えっ、あ、私ですか? ごめんなさい。まさか私が話しかけられてるとは思わなくて」
「ちょっとアンタ近衛さんにちょっかい出してんじゃないわよ。アタシらと違ってガチお嬢様なんだから、恐れ多いから」
サキが咎めてくる。なんなんコイツ。
「そんな、別にお嬢様というわけではないです……」
近衛さんは恥ずかしそうにする。可愛い。
「それで、グループどうかな。近衛さんを入れて四人なんだけど。近い席で組んだ方が今後の計画も話しやすいっしょ」
「はい。私もまだ組んでいなかったのでありがたいお申し出です。よろしくお願いします」
「よーしこれで四人グループできたな。百合を楽しむにはあと一人探してもいいが、最悪サキとカップリングさせればいいか」
「ちょ、それはハードル高いってゆーか、アタシなんかが釣り合うわけないっしょ。そもそもアタシは百合は見る専だし……」
「ハァー、このチキンが、むっつり百合好きが」
サキは百合を見るのが好きなくせに自分がその対象となるのが嫌なのだ。正確には嫌ではなくむしろ憧れている節すらあるが、女子相手になると極度のコミュ障を発揮するむっつり百合なのだ。だから女友達がいない。
クラスの女子に話しかけられてもコミュ障ゆえに短い言葉で「いい……」「別に……」と返しているのでギャルっぽい見た目と相まって少し浮き気味である。
というかダウナーギャルじゃなくてただの陰キャラギャルでは? 陰のギャルとか矛盾した存在だなあ。
「そういえば皆様の会話によく挙がるユリってなんでしょうか? お花の百合ですか?」
「!」「!?」「!!」
近衛さんのその純粋無垢な問いかけに俺たちは一瞬固まる。
百合を説明するのは簡単だ。いや、真に百合について説明しようとすると原稿用紙百枚じゃ足りないが問題はそこではない。
このガチお嬢様に対して包み隠さず伝えるのは正しいのだろうか? 普段あらゆる事に躊躇する事がない俺でも答えあぐねる。
「あー……と、百合って言うのは女の子同士で仲良くする事だよ」
とりあえず嘘は言っていない。
「まぁ! それは素晴らしい事ですね!」
近衛さんが純粋な目で食い付いてきた。
サキに視線を送って助けを求めるが「アンタの責任っしょ」とジト目を返されてしまった。
どうせ席の関係から会話は聞こえてしまうんだ。隠したってしょうがない。突き進め。
「そう、女の子達が百合百合するのは素晴らしい事だろう」
「まぁ!まぁ!」
近衛さんのテンションが上がっていく。
百合好きはともかくとして普通の子がそんなに食いつく要素あっただろうか?
「私ちょうど霧崎さんと百合百合?してみたかったのです」
「ぶふぇ、え? ちょアタシ?」
「あら〜いいですわゾ〜〜ごぼぁッ」
「ガッ、ガイア!」
俺に暴力を振るったサキはそんなそぶりを見せる事なくモジモジしている。
「アタシも……近衛さんと仲良く出来るのは嬉しいけど……いきなり百合はちょっとハードル高いってゆーか。や、そうなったらマジ尊いけど、ちょっとタンマ、マジ無理……」
「私との百合はお嫌いなのですか?」
「ひらいじゃないれす!」
「なんて声だしてんだよ……」
このあと近衛さんに百合という表現はあまり大っぴらに使うものではない、とやんわりと説明するのに残りの休み時間を費やした。
3月中旬まで仕事が多忙になるため更新頻度が落ちてしまいます。
週一投稿はしたいと思いますが気長にお待ちいただければと思います。