百合の間に入りてェ~
俺が割って入った後、花園が泣き止むやむまで少しの時間が必要だった。
倉入は最初は花園の泣いている姿に興奮していたが、次第に冷静になったのかオロオロとしだして今は花園を心配そうに見つめている。
「うぅ……ふぅ……ぐす」
花園がようやく顔をあげた。顔がぐしゃぐしゃで美少女が台無しだ。
「ほれ」
俺がハンカチを差し出す。出来る男は女の涙を拭うハンカチを常に持ち歩いているのだ。
「……自分のがあるからいい」
拒否された。
まあ女子もハンカチぐらい持ってるか。これは俺の心の涙を拭こう。
「あの……萌香ちゃん。ごめんね……?」
倉入が遠慮がちに謝罪する。
「……変態」
「うぅ……」
「……はぁ~あ。もう最悪。明日から学校でどんな顔すればいいの。クラスには変態のストーカーがいるし、ガイア君にもこんなとこ見られたし」
花園は投げやりな態度をする。
「まぁガイア君は当初の予定通り私を襲った事にして退学させて。ねねちゃんもその共犯って事にしよっか? なんて、はあ、めんどくさ……」
「結果的に良かったんじゃねえの?」
「はあ? 何が良いの? 頭どうかしてるんじゃないの?」
「いや、すっきりした顔してるぜ。花園さん、萌香でいっか。教室でみんなの輪の中にいる萌香は確かに笑って楽しそうだったけど、どこか皆に合わせてる感じだったからな」
「……」
「あまりに良い外面を作りすぎると、それを崩すのは怖いもんな。実際の自分とのギャップを感じてたから、裏アカウントとかで吐き出してたんじゃないのか?」
「そんなこと……」
「うん! 私もそう思ってた!」
倉入が賛同する。
「萌香ちゃんの裏アカウントのつぶやき見てると、友達付き合いで気を使ったりとか、良い人でいるのが嫌だっていうのがわかるもん!」
「勝手に人の内面を見て……わかった気にならないでよ」
「わかるよ! 私は誰よりも萌香ちゃんを見てたんだもん!」
「このストーカー」
「うぐぅ……」
二人のやりとりを見て、俺は百合の形が出来上がりつつあるのを感じた。
「二人ともさ、親友になればいいじゃん」
「は? なんで私がこんな気持ち悪い奴と親友に?」
「わ、私がなんかが萌香ちゃんの親友に?」
「まあ親友ってなろうっつってなるもんでもないか。本音を言い合える友達って事だな。すでに二人の間に嘘はないし素で話してるだろ?」
俺が言うと二人とも目を合わせる。
「いや、そういうのじゃないでしょ。大体ストーカーなんだよ?」
「だったらストーカー止めろって言えばいいじゃん。自分の要求を相手に伝えていいんだぜ」
「私は、萌香ちゃんが嫌だっていうなら覗きみたいな事はもうしないよ? 友達になってくれるならそんな必要ないし……」
「そういう問題じゃ……。ていうか交換条件みたいになってるけどストーカーやめるのは当たり前でしょ! まさか写真とか保存してないでしょうね?」
「えっ……と、し、してないよ?」
「してるの!?」
「インスタに上がってた可愛い猫ちゃんとか、そういうのは保存しちゃうよね……?」
「私が言っているのは盗撮みたいな写真のこと!」
「うぅ……たまたまカメラに入っちゃった写真は何枚かあるけど、でも、これは家で萌香ちゃんを見るためだし、全部消すのは……」
「消 し な さ い!」
「ひぅ~~」
ああ、これだよこれ。俺が見たかった本当の百合は。
「ま、こんな感じで。別に萌香はクラスでは今まで通りで、ねねちゃんと一緒の時はこうやって本音で言い合えればいいんじゃないかな」
「ガイア君、あなたに知られてるんだけど……」
「俺は絶対言わないよ。女の子同士を仲良くさせるのが俺の正義だ!」
「気持ち悪い」
即答されると傷つくなあ。
「……ま、選択肢は無さそうだし。はぁ~~~……。本当に嫌だけど、仕方なくだけど、……そういう事でいいわよ」
「萌香ちゃん……!」
「ただし写真は消して」
「萌香ちゃぁん……」
ほほえましい光景だ。あとはここに俺が入れば完成する……。
「写真だったら今ここで撮ればいいじゃん。盗撮じゃないから別に萌香もいいだろ?」
「はあ? ここで?」
「仲良しになった記念撮影だよ」
「とってもいいと思う! このスマホ使って!」
ねねちゃんが俺にスマホを差し出し、すかさず萌香の腕を組む。
「ちょっとそんなに近づかないでよ」
俺は教卓にスマホを置いてタイマーを操作しようとする。
「俺が入る隙間も開けておいてくれよ~」
さあ皆で記念撮影だ。
「は? なんでアンタも入る気なの?」
「あの、私と萌香ちゃんのツーショットなので入らないで欲しいな」
「……冗談だよ」
わかっていた事だ。
くぅ~~百合の間に入りてぇ~~!!