女子の個人情報知りてェ~
「萌香ちゃん……」
倉入ねねが遠慮がちにその名前を呼ぶ。
「ねねちゃん……」
花園は完全にしまったという顔だ。
「えっと、ね? 今のはガイア君の嘘なんだよ? ねねちゃんなら信じてくれるよね?」
この期に及んでまだ言い訳を重ねるか。気弱な倉入ならば言いこめると思ったのか。
「その裏アカウントね、私も見てるの……」
「え……」
「萌香ちゃんのつぶやき、前から知ってたんだ」
「なに……それ……」
驚愕していた花園は徐々に怒りに肩を震わせる。
「何それ! 二人して私をハメたっていうの? 人のプライバシー覗き見て、きっもち悪い!」
花園の逆切れにビクッと体を反応させる倉入。
「てかプライバシー覗き見てって言うがネットで全世界に公表してるのは花園なんだよなあ」
「うるさい! 何が目的なの? クラスの晒しものにでもしようっていうの?」
「そんな事しないさ。俺はただ仲の良い女子の間に入りたいだけだ。仲良くなってもらえればそれでいい」
「はあ? 裏垢も知られた相手とどうやって仲良くしろって言うの」
「だからそこは素直な気持ちで」
「――萌香ちゃん」
倉入がはっきりとした口調で言う。ここからは彼女に任せた方がよさそうだ。
「確かに私は萌香ちゃんの裏アカウントを知ってるよ。普通のアカウントも知ってるし、インスタも知ってる。投稿した写真のところは行ってみたし、お店のスイーツも食べてみた。ダイエットしなきゃってつぶやいてるのに実はポテトチップスを食べちゃうのも知ってるよ。コンソメ味だよね。コーヒーは最初はブラックで飲もうとするけど結局ミルクとお砂糖入れちゃうんだよね。そうだ、下着だってお揃いを付けてるよ。サイズはちょっと私の方が大きいけど。身長は私より3cm高い158.5cmで体重は46.7kgだよね」
「…………え?」
何を言っているのかすぐには理解できない花園。大丈夫、俺もだ。
「家だとジャージに眼鏡なんだよね。中学の時のジャージで身長が変わらないのが悩みなんだよね? youtubeで猫ちゃん動画が好きって言ってるけど、履歴だとソシャゲのガチャ爆死動画とか交通事故の詰め合わせ動画とか、あとなんか男の人が絡んでる動画とか見てるよね。それから、夜に一人でそういう事するのは週に3回だし、生理周期は……」
「ちょ、ちょっと待って! 何言ってるの? 何を言っているの!?」
「何って私が知ってる萌香ちゃんの事だけど……」
「え、あ、ぅ……ええ……?」
花園はあまりの衝撃に言葉を失っているようだ。
ちなみに俺も若干引いている。
倉入ねねも裏アカウントを持っており、そこで花園に対する並々ならぬ想いを持っていたのは知っていたがこれは予想以上だった。
「私は萌香ちゃんの事を沢山知ってるけど、でもできれば萌香ちゃんにも私の事を知ってほしいの。もっと私を見て欲しいの。ホントは私だけと話して欲しいんだけど、萌香ちゃんはクラスの人気者だから独り占めは出来ないよね。でも大丈夫そんな明るい萌香ちゃんを見てるのも好きだから、我慢するよ。ホントは素の萌香ちゃんが好きだけど。だから、たまにでいいから私を見て欲しいな?」
「な、なによ……こんなの、ストーカーじゃない……!」
「わ、私はストーカーじゃないよ!? そりゃ、お買い物の時にたまたま見かけた萌香ちゃんを目で追っちゃったり、お散歩した先がたまたま萌香ちゃんの家だったり、たまたまおうちのwifiのパスワードわかっちゃったからローカルネットワークでちょっとごにょごにょしちゃったけど……」
「何よそれ……変態……この変態ッッ!!」
花園は目で射殺しそうなぐらい激しい剣幕で罵る。普段のクラスの人気者の姿からは想像できない。
「あぁっ! うんっ! その顔だよ! やっと素で私を見てくれた。ノートパソコンのインカメラで見たときの様な眉間にしわが寄った萌香ちゃん。それよりも激しい表情を見せてくれる、見てくれる!」
「変態! 変態! 変態! しねぇ!!」
「うん、死んでもいい! 本当の萌香ちゃん可愛いよ!」
「変態! 変態、へん……たい。なんなの本当に……。もうやだぁ……うぁぁぁ……!」
花園はその場にうずくまり泣き出してしまった。
「泣いてる萌香ちゃんも可愛いよ! ね、もっと顔を見せて」
「オーケイそこまでだ」
俺は流石にこれ以上はまずと思い二人の間に割って入った。