二人の百合の間に挟まりてェ~
「………」
「………」
「………」
俺こと田中ガイアと男友達の友也、ダウナー系百合好きギャルのサキは昼休み、教室の隅に陣取っていた。
陣取るというよりは単なる席の配置だ。黒板を前に見て窓際一番左下が俺、その前がサキ、隣が友也という百合好き三銃士のトライアングルを築いている。
必然的に教室全体が見渡せるポジショニング。俺たちは息を潜めてその光景を見ていた。
「あはは、それでさ~ついそのユーチューバーずっと見ちゃって~」
「一度見だすと止まらないよね~」
「わかる~」
女子三人で話題に華を咲かせる。女三人よれば姦しいというがここまで声が聞こえてくる。
だが俺たちが注目しているのはその三人ではなく、近くの机で一人スマホをいじっている女子だ。
彼女の名前は倉入ねね。
目が隠れそうなぐらい伸ばした前髪。根暗、とまではいかないがスマホが友達の引っ込み思案の子だ。
ふと、女子三人のうち一人、花園萌香がその倉入ねねに話しかける。
「そーいやねねちゃんは知ってる? この爆発系ユーチューバー。あらゆるモノを爆破しちゃうやつ」
「……え? あの、見た事ある……かも? 池の水全部爆発させてみたとか……」
「それ! 私それちょー好き~! 他には他には~? そのスマホで見てたりしないの~?」
「えっと、じゃあ、これとか……」
倉入ねねが話の輪に加わりさらに話題は盛り上がる。
「ふむ……花園萌香か」
花園萌香。良く整えられたセミロングの髪に大きな瞳。明るくて誰とでも友達になれそうな雰囲気を持ったクラスの人気者だ。
「流石クラスのムードメーカーといったところか。消極的な倉入ねねを話の輪に引き込んだ」
俺が今見たことを分析して言う。
「こういうシーン結構みるとゆーか、倉入さんも満更でもなさそう?」
サキもそれに応える。
「花園さんは明るくて牽引力あるよね。ところで池の水全部爆発ってどういう事なの?」
友也の疑問は無視する。
「感じるか……? 百合の波動を」
「その言い方はキモいけど、まあもう一押しというか……」
俺たちの勝手な分析の最中にも花園萌香と倉入ねねの会話は進んでいた。
他の女子達はトイレにでも行ったのだろうか、今は二人きりだ。
「思ったんだけどねねちゃんって絶対髪上げて目出した方が可愛いよ~」
「そ、そうかな?」
「うんっ、絶対そう! なんならおでこ出しちゃうとかっ」
「花園さんが言うなら……」
「私の事は萌香で良いって!」
「じゃあ、萌香ちゃん……?」
「うん、よしっ」
顔を赤くしながら花園萌香の名前を呼ぶ倉入ねね。遠慮がちに見上げるその目に込められた感情は……。
「ヤバ、これ一押しきちゃったわ。倉入さんこれ花園さんに惚れてるっしょ。私わかるわ。はー尊い。マジキテる。引っ込み思案でクラスに馴染めなかったけど彼女のおかげで勇気出せたっていうか? でも相手はクラスの人気者だから自分だけに構ってくれるわけじゃないんだわ。そうして次第に恋心や嫉妬心を募らせていくんだわ」
サキが百合妄想全開にしていく。マジ精神異常者だなコイツ。
「逆、ってこともあり得るんじゃないかな。実は花園さんが倉入さんの事を好きで、それで平静を装って話しかけてるとか。倉入さんはあくまで憧れの感情だけど、花園さんは恋愛的な感情で。互いの仲が進展していくうちに意識の齟齬があって、そして花園さんがいよいよ告白してそれに戸惑う倉入さん。憧れだけど、恋愛とか考えた事なかった。だって女の子同士だし……。そう言って倉入さんに拒絶された花園さんは……とかね」
「それありえる。そっちのが尊い。やるじゃんトモっち」
友也も友也で逆張りをしてくる。
だが真の百合伝道師の俺からするとまだまだと言わざるを得ない。
「なんつーか『浅い』んだよなお前ら」
「あん?」
サキがガンを飛ばしてくるが俺は怯まない。
「ま、今のままじゃ進展はしなさそうだしな。くそ、じれってえな、俺ちょっとやらしい雰囲気にしてくるへぶぁッ!?」
「ガッ、ガイアッ!」
サキの裏拳が顔面にめり込む。
「手だすなし、こういうのはゆっくり見守るんだよ」
「甘いなサキ。上等な料理に蜂蜜をぶっかけるが如く甘いぜ」
「は? むしろ台無しにしてるのはアンタでしょ」
「ま、見てロッテマリーンズ。明日もう一度この教室に来てください。本物の百合をお見せしますよ……」
俺はそういうと席を立ち件の百合二人、花園萌香と倉入ねねの元へ行き言う。
「楽しそうじゃん。俺も混ぜてよ♡」
花園萌香:明るいクラスの人気者
倉入ねね:遠慮がちでおとなしい子