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 アオ(嫌っているようなのでこれからは私もこの名で呼ぶことにした)は兄との争いを嫌ったのか消えてしまった。


「やれやれ、まだ聞きたいことがあったのに勝手な妖精だ」


 呆れたように兄は言っているが、話があるのなら揶揄わなければ良かったのに。

 しばらく空中を睨んでいた兄だったが、諦めたのかこっちに視線を向けてきた。ドキッとする。


「さて、昨日はよく眠れたかな」

「はい。よく眠れました」

「そうか。それは良かった。慣れない環境で眠れないのはないかと思っていたけど、君は思っていたよりずっと逞しいようだ」


 一瞬嫌味を言われたのかと思ったが、彼の本心からの言葉のようだった。


「それとアンナのことは心配しなくてよい。君を育ててくれた家族と一緒に暮らすことになったから」

「え?」


 何を言われているのかわからなかった。貴族として育てられたアンナが私の家族と住む?


「そんなの無理です。あの家は狭いし、それに食事だって合わないだろうし、一人分食費がかかれば家族の負担になります。私が残してきたお金なんてそんなにないし、それに、それに…」

「アネットの言いたいことはわかる。だが私のもう一人の妹も結構逞しいんだ。きっと家族の迷惑にはならない。それに数年遊んで暮らしていけるだけのお金は渡してあるから大丈夫だ」


 お金があれば確かに家族は大丈夫だろう。でも貴族として育ったアンナがあの家でというか、あの場所で暮らしていけるのだろうか。引っ越しをしたから、前の家よりは広いし、家の周りの治安も良いほうだ。けれど彼女はきっと浮くだろう。兄を見ているだけでもわかる。貴族として育ったものは、庶民とは違う。歩き方、立ち姿、話し方、仕草の一つ一つが洗練されているのだ。これは一長一短で身につくものではない。


「どうして助けてあげないんですか? 私には無理でもずっとこの家で暮らしていたあなたならアンナ一人くらいこの家で暮らせるようにすることくらい簡単だったのではないですか?」

「確かに簡単かもしれない。だが今はまだ実権は父のものだ。この家で暮らすほうが苦痛になると考えたから手放すことにしたんだ。それにアンナがあの家にいたほうがあの家も守られる。さすがに十数年も一緒に暮らした娘まで殺したりはしないだろうからね」


 サラっと聞き捨てならない言葉が出てきた。怖い。


「そ、それってどういう意味ですか?」

「妖精に騙されたなんて、格好悪いだろう。あの人たちは本当のところ腸が煮えくり返っている。下手をしたら罪もないのにアネットを育てた家族たちを貴族侮辱罪で抹殺することだってできるということだ」

 

 怖い。貴族って怖い。

 あの抱きしめてくれた暖かい腕をしたあの人がそんなことをするなんて信じられない。でも貴族が庶民に対して理不尽なことをすることは庶民の間ではよく知られている。


「そ、そんな……」

「君も当分はおとなしくしていることだ。あの人たちを刺激しないように。ああ、それとわかっているだろうけど前の家族とは会ってはいけないよ」

「えー!」


 私は暇ができれば会いに行くつもりだった。捨ててしまったわけだけど、気になるし手助けはするつもりだったのに。


「守りたいのなら、当分は行かないことだ。まあ、そんな余裕はないかな。明日からは朝から晩まで君を貴族として恥ずかしくないようにするために予定を組んである。学院の入学までに間に合わせるとなると君に暇なんてないだろう」


 少しだけ優しい人だと思ったのは間違いだった。特に次の日からの貴族としての特訓は思い出したくもない。家庭教師も兄が選んだ厳しい人たちばかりで、絶対に兄にだけは逆らわないでおこうと身に染みた。



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