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22 ロイドside 2

 だからアネットには声を掛けずににいたのに彼女の方から僕に会いに来てくれた。あの時の僕は内心喜んでいた。貴族になっても自分のことを忘れずにいてくれたことが分かって嬉しかったのだ。

 でも僕はアネットに会えて嬉しいとは言えなかった。

 聖女様になれる彼女と子爵家の三男で将来が決まっていない僕とでは違いすぎた。男である僕は友としてもそばにいることはできない。だから冷たく突き放した。それが彼女にとっても良いことだと思ったから。

 そのアネットが一人で学院から出ていく姿を見て追いかけないでいることはできなかった。

 どこに行くのかはすぐに分かった。


(あの森だ。)


 僕を助けるためにアネットが『癒しの魔法』を初めて使ったあの場所だ。

 アネットは僕が尾行していることに気づかない。そして僕以外の人も彼女を尾行している。多分侯爵家のものだろう。その男はアネットが森に行くのが分かると踵を返した。主人に知らせに行くのだろうが、この森があまり魔物がいない所だとはいえ道を外れると魔物に襲われることだってあるのだ。まあ、道を外れなければ安全だともいえるのだが……。

 少しだけ迷ったが、僕は彼女の後を追いかけることにした。


 アネットは眠っていた。なんて無褒美なのだろう。僕が近づいても気づかない。

 こんな場所で眠ってしまうなんて。でもわかる。ここは聖域だ。彼女は薬草に守られている。

 僕が近づいてもアネットは起きなかった。気持ちよさそうに眠っている。

 アネットは庶民方貴族になった。僕には想像できないほど大変な日々だったのだろう。

 僕は貴族らしい姿になったアネットをさすがだとは思ったけど、彼女がどれほどの努力をしたのか考えもしなかった。以前のアネットの手は傷だらけだった。今は少しだけマシにはなったけど貴族の女性の手とは違う。苦労を知っている手だ。僕の手とも違う。剣の稽古をしているから柔らかくはないけど、彼女の苦労している手とは違うのだ。


 僕はアネットの傍らにそっと寄り添う。今だけそばにいさせてほしい。

 風が気持ちよい。

 ずっとこのまま、時間が止まってしまえば良いのに。

 でも彼女との時間はすぐに終わってしまった。

 数人の足音が近づいている。

 そっとアネットから離れる。


 ああ、アネットの兄であるヘンリー様だ。以前遠くかた見かけたことがある。アネットにそっくりな容姿だ。アネットに初めて出会ったときに、何故気づかなかったのか不思議なほど似ている。


 ヘンリー様はそっとアネットを見守っている。急いで起こすようなことはしない。

 ホッとした。アネットは家族に虐げられたりはしていない。庶民として育てられたアネットのことを疎ましく思ってはいないようだ。

 アネットが自然と起きたときはじめてヘンリー様が声を掛けていた。


「アネット、帰ろう」


 アネットはヘンリー様の手を借りて立ち上がっていた。

 他には何も話さない。責めることもなく、問いただすこともないヘンリー様にアネットも何も言わない。

 とても良い家族関係だ。もう僕は本当に必要ないのだなと思う。


 近くで見ている僕のことは最後まで誰も気づかなかった。




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