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目が覚めると知らない天井が見えた。
こんな豪華な部屋は知らない。
柔らかなベッド。
とても素敵な部屋なのに、嬉しくならない。
静かな目覚めなんて初めてではないだろうか
いつもマルやフリッツ、アニーが私を起こしてくれていた。
私の寝起きは最悪で、いつだって誰かに起こされないと目が覚めなかったのに、今日はどうしたことだろう。誰に起こされるでもなく、目を覚ましている。
「ああ、そっかぁ。ここってセネット侯爵さまの家だった」
セネット侯爵家は私の想像をはるかに超えていた。
私が眠った部屋は、私たちが住んでいるアパートの何倍も広い。しかもこの部屋は眠るときだけ使う部屋だというから驚きだ。
屋敷に連れてこられて一番はじめにしたことはお風呂に入ることだった。一週間に一回は共同浴場に行ってるし、毎日お湯で拭いてはいるけど臭かったのかしらと思いクンクンと嗅いでみたけどよくわからない。
腕まくりをした二人のメイドがさっさと私の服を剥いでいく。なんか凄みを感じさせる二人に「嫌だ」とは言えなかった。
メイドが二人がかりでゴシゴシと洗うものだから馬にでもなったような気がする。
隅から隅まで洗われて、今まで着たことなんてないほど素敵なレースをつけた下着とドレスに着替えて髪を結ってもらった私はどこからみても貴族の令嬢に見えるだろう。黙って立っていればね。
本当の両親らしき人たちから話でもあるのかと思っていたのに、綺麗なドレスに着替えさせられた私が案内されたのは大きなテーブルのある部屋だった。そこで私は一人で食事をした。たくさんの使用人に見られながら食べる調理は今まで食べたことがないほど豪華だったけど味がしなかった。そのあとこの部屋に連れてこられた。ドレスを半ば強制的に脱がされ部屋着を着せられた。使用人が出ていくと部屋の明かりは消えた。
いつの間にか夜になっていたのだ。
窓から漏れる月明かりを頼りにベッドに沈み込む。そのあとのことは覚えていないから眠ってしまったのだろう。
これからどうなるのだろう。
とんでもないことをしたような気がする。
この家の子供の名前はアンナだったかしら。取り敢えずその子と話をしよう。
私と取り換えられた子供。妖精のイタズラだなんて、妖精と出会っていなければ信じられない話だ。
「まったく、あの妖精。今度会ったらどうしてくれようかしら」
『あれ? 私のこと呼んだ?」
ぷりぷりと文句を言っていると、なぜかあの時の妖精が目の前に現れた。青い目に青い髪。
間違いなくあの妖精だった。
「どうしてあなたがここにいるの? まだ何か企んでいるの?」
『ふふふ。なにも企んでなんかいないわよ』
「信じられないわ。それじゃあ、どうしてここにいるのよ」
『それはおもしろそうだからよ。アネットは庶民として暮らしてきたから、色々と戸惑っているでしょ? それを見るのが楽しいの』
なんて性格の悪い妖精なのかしら。きっと入浴でゴシゴシ洗われているのを見て笑っていたのね。
まあ、いいわ。妖精に怒っても捕まえることもできないんじゃあ何もできないもの。それよりも便利に使うことを考えましょう。