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 帰りの馬車の中でじっと母を見つめていると、母の方から声がかかった。


「聞きたいことがあるって顔ね」

「はい。聖女様との話って私のことですよね。私が聖女になる話があるのですか?」

「当事者なのだから知っていたほうがいいのかしら。セネット侯爵家の長女であるアネットは聖女になる資格があるの。もちろんアンナにも資格はあったのよ。でもあの子は『癒しの魔法』が使えなかった。資格はあっても聖女候補にもなれなかったわ。あの頃の私は自分の娘を聖女にしたかったから、聖女になれないアンナに冷たく当たってしまったの。冷たい母親だったと思うわ」

「えっと、あの頃はってことは、今は自分の娘を聖女にしたいとは思っていないってことですね」


 大事なことだから確認した。私は聖女になんてなれないもの。


「ええ、今はあなたに聖女になってほしいなんて思っていないわ」


 ホッとした。私はロイドと共に歩くために貴族になったのだ。聖女になんてなったらロイドと話もできなくなるに違いない。きっと神殿からほとんど出れなくなるわ。そんな暮らしは御免だった。


「安心したようね」

「はい。私には聖女なんて無理です」


 生まれたときから貴族として暮らしていたら、それもありだったかもしれない。でも庶民として暮らしてきた私には自由のほとんどない生活なんて息が詰まってしまう。


「ヘンリーに言われなければまた間違ってしまうところだったのね」

「兄さまですか?」

「ええ、庶民として暮らしてきたアネットには聖女は務まらない。そんなことを強制すれば彼女はこの家を出てってしまうだろうと」


 さすがは兄さま。私のことをよく理解している。


「そうですね。聖女だなんて大それたものにはなりたくないです。私は普通な暮らしが良いです」

「それは貴族として普通に暮らしていきたいということね」

「はい」


 私は初めて母に自分のこれからのことについて意見できてホッとした。まだロイドとは再会できていないから、ロイドのことを話すわけにはいかないだろう。だってまだ私の一方的な片思いなのだ。そんなことを会って間もない母に相談できるはずもない。」


「わかったわ。それなら早めに婚約者を選ばなければね」

「はい? こんやくしゃ?」

 

 こんやくしゃってなんだったかな? えっ? 婚約者?


「そうよ。本来、貴族の娘は生まれたときに婚約が決まっていてもおかしくないのよ。セネット家の場合は聖女になる可能性があるから遅くなってしまうけど、あなたは聖女にはならないと決めたのだから早めに婚約者を決めたほうが良いわ。神殿がうるさくなる前に決めたほうがよさそうね」


 ちょっと待って、お母さま。それはいくらなんでも早すぎです。

 母を止めるために言葉を探したけれど、ロイドのことは話せないし困ってしまう。

 私は悩んでいるうちに馬車は屋敷に到着してしまった。

 張り切っている母には悪いけど、結婚する相手は自分で選びたい。後で兄に相談しようと心に決めて馬車を降りた。


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