この世でもっとも嫌な感じの円環
グロ表現ありますwww
『再起動に必要な魔力供給を確認』
無機質な声が、ガレスと呼ばれた無骨な鉄巨人から響く。
『魔導機関、点火。ガレス、スタンダップ』
「ガォン!」
鋼を打ち鳴らしたような音が、『ガレス』の声なのだろう。
かつて存在した、人間と寸分違わぬ外見を持つ自動人形とは違う。
人間への偽装を完全撤廃し、装甲と出力に全てを割り振った鋼の鉄巨人は……立ち上がれば三メートル近くの巨体を誇る。
その重厚な威容は、男達の戦意を削ぐに十分だ。
眼球の代わりに赤い単眼の光が、頭部装甲の十字の隙間から滑るように動いた。敵を睨む。
腰に背負っていた戦槌と大盾を構える。その巨躯に見合った巨大な武器は、一撃で人体を血水に変えるほどの破壊力を想像させた。怯えた男が叫ぶ。
「ば……ばかな、まだ生きてる自動人形だと?」
「ど、ど、どうすんだ!」
だがトラクスは苛立たしげに怒鳴った。
「てめぇ……この数の自動人形の残骸をみすみす見逃すってのかぁ?
あんなデカぶつは鈍いと相場が決まってる! 全員を半分に、一つは人形の足止め! もう一つはユキの奴を半殺しだ、自動人形を制御する人形使いはあいつだ、あいつさえ潰せばどうとでもなる!」
目の前に脅威が控えていても、欲の皮を突っ張らせたトラクスは一見冷静に見える判断を下した。
下知に従い男達が動く。宝の山を相手に逃げるのはもったいないし、何より美しい女がいる。略奪や強姦は気前よく許しても懐が痛まぬ褒美だ。
「ユキぃ……!
てめぇの『糸使い』なんて固有スキルは、至上最弱ってことを改めて教えてやんよぉ!」
トラクスの叫びと共に、下卑た欲望を胸にならずもの達が突っ込んでくる。
第一将機
『重装型戦闘人形』ガレス【起動状態】
起動状態=【機能解放】
安全地帯=【機能解放】
噴射戦槌=【機能解放】
水中形態=【機能解放】
おはようの星=【機能解放】
防御結界=【機能解放】
火炎放射装備=【機能解放】
戦車形態=<必要MP>2000/5000
主砲=<必要MP>2000/5000
『魔力1200/3200』
ユキ=ゴトーは自分の肉体に圧し掛かる虚脱感の理由を見つめる。
「……3分の2近くの魔力を持っていかれたわけだし……こうもなるか」
「にぃさま、無事かな?」
女に心配をかけないために、男児の意地一つで萎える足を奮い立たせる。
ユキは、魔力糸を繋いだ事で感覚を同期させたガレスに視線を向ける。
彼の使い方が分かる。コゴロウ=ゴトー先生はこういう日が来ることを予想していたのだろうか。
「ところでにぃさま。あいつらはどうするのかい?」
「……難しいところだな。俺と奴らはひと悶着あった。死体が出れば疑いの眼は俺に向くだろう」
「だったら、殺さないほうがいいかい?」
「……善悪を問わず、あまり殺しはしたくない」
いずれ家を出て世に羽ばたけばそう甘いことも言えなくなるだろう。
すると、プリメラは前に出た。
「ならばここはぼくに任せたまえ」
「なに?」
困惑するユキの前に進み出て、プリメラはにっこりと微笑んだ。
「へ。へへっ、へへへっ」
「お嬢ちゃん……大人しくしてろよぉ」
「うわぁキモい……」
真っ先に前に出てきたプリメラに、男達は観念して身を差し出すものだと勘違いしたのだろう。下卑た笑みを浮かべる。
三名の中で外見的に一番危険なのは全身を鋼の装甲で覆った自動人形ガレス。次はユキ=ゴトー。
そして一番弱いように見えるのは、強烈な色気ばかりが目に付くプリメラ自身であろう。もっとも彼女は生命と尊厳の危機であるにも関わらず、余裕を保ったままだ。
「へへ、とりあえず抵抗をやめさせりゃさ。後は好きにしていいんだろ?」
「お、おれサキュバスとヤルの初めてなんだわ」
プリメラは、また吸精鬼に対する差別用語を使われてムッとしたが……これより彼らの身に降りかかる悲劇を思い、心を平静に保つことにした。いや、保とうとしたが……彼らが正気に戻った時、どんな顔をするのか想像して思わず吹き出してしまう。
「さて。きみたち」
「な、なんだ? 優しくしてほしいかよ」
「この場にいる全員が、みぃんな……ぼくと一夜を共にしたいって認識でいいのかい?」
その言葉に男達はいやらしい笑みを深くする。
少しでも乱暴されないように媚を売るつもりなのだと決め付けた。
彼女はふわりと笑いながら、その『瞳』を鏡として用い、己に向けられる害意を捻じ曲げる。
「その意の矛先をともがらに向けよ。害意鏡反射」
プリメラはにっこりと微笑みながら……その細腰を男達に向ける。
ふりふりと水蜜桃を思わせるお尻を揺らせば、男達は誘蛾灯に誘われる虫のようにそのくびれた細腰に近寄った。嫌がるそぶりも見せず、後ろに振りむきながらにっこりと微笑む淫魔の媚態にごくりと生唾を飲む。
だから、そう――彼女の笑顔があまりにも淫靡で美しいから……男はその目に写る彼女の括れて滑らかな肌の質感と、手に感じるごつごつした触感との大きな差異に気付くこともない。
かちゃかちゃとズボンの留め金が外れる音がする。
ぼろんっと露出する男根を、あてがおうとする。『ば、なにしてんだ?!』と絶叫するトラクスの声を聞いた気がしたが、罪の意識のない外道達はそれを気にする事もなかった。きっと彼女の近しい誰かが、暴力で辱められる娘の姿に怒りと絶望の声をあげたのだろう。
誰かの大切なものを踏み躙ることに邪悪な興奮を覚え、その男はニタニタと笑みを浮かべて……そして、欲望の塊を勢いよくぶち込んだ。
「「「「「「「ぬふぅぅぅぅぅ?????!!!!!」」」」」」
それは突然の衝撃であった。
美しく淫靡なサキュバスの娘へと突きたてたと思った瞬間――突如男は自分の後ろにナニかを激しい勢いでぶち込まれる感覚に襲われた。
まるで誰も彼もタイミングを合わせたかのような激しい絶叫を上げ……男は見た。
先ほどまで腰をくねらせ自分を誘っていた淫魔の姿はどこにもない。
代わりに目の前にあったのは、自分と同じくズボンを脱いで汚い尻をこちらに向ける汚らしい男の姿。
それが一列にずらりとならび……全員で子供のお遊戯のように仲良く円を描いている。
そして――見た。
前の奴が自分にぶち込まれ、その前の奴はその前の前の奴にぶち込み、そのまた前の前の前の奴もそのまたまた前の前の前の前の奴にぶち込んでいて――それが百足のように繋がって一周回って自分の尻に――。
「おげええええぇぇぇぇぇぇ!!」
自分の現在の状況を理解したならずもの達は、あまりにも気持ち悪く不快な状況に耐え切れずに吐いた。
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ!」
「ま、まだ幻覚にかかったままで(伏字)してる奴がいる!!」
「ひ、響く、やめろ、マジでやめてぇえぇぇぇ!!」
「「「「「「「いやああああああぁぁぁぁぁ!!」」」」」
むさ苦しい男達から女子供のような哀れな悲鳴がする。
ユキはその地獄をちょっと離れた場所で呆然と見守った。
どうやら効果範囲外にいたトラクスも愕然としている。感情とは無縁のはずの鉄巨人ガレスも「……ガ、ガォン……」とかなり引いた感じの声を発した。
人は想像を絶する惨劇を前にすると、何かをする気力を削ぎとおされるらしい。
一言で言えばどう軽く見積もっても地獄だ。
プリメラを陵辱しようとした男達は巡り巡ってぶち込みぶち込まれる地獄の円環に囚われている。人数が多すぎてなかなか脱出できないでいた。
トラクスは震え、へたり込みそうになったが、なんとか耐えた。
もう少し前に出ていたら、あの地獄の円環を構築するパーツの一つになる悪夢を体験しただろう。
心の底からの安堵と……死神の鎌がすぐ隣を通り抜けていた事実に、恐怖で震えた。