第六話 かつての攻略対象
ロジオンと友達になり、毎日が輝いている。
お母さまがお仕事の日には、必ず付いて行くし、お父さまだけの日にもなんとかして引っ付いて行くこともあった。
私が遊びに行くと、ロジオンは笑顔で出迎えてくれる。眼福であるよ。
「いいかい、アリシア。ロジオンと仲良くね」
「とうぜんだよ!」
「良い子だね」
お父さまは、私の頭を撫でると騎士の仕事場へと向かった。
今日はお母さまはお家だ。
『乙女の園』はもう慣れた場所。一人でも大丈夫!
癒し手が生活する建物へ、ごー!
「ふんふーん」
スキップしちゃうよ。楽しみ!
白い建物が見えてきた。
入り口の前には、見慣れた姿が!
「ロジオン!」
待っててくれたんだ! 嬉しい!
ロジオンは、ぱあっと顔を明るくさせた。
可愛い!
「アリシア!」
二人走りより、手を取り合う。
「きょうも、あそぼう!」
「うん!」
きゃっきゃっとじゃれ合う。
ロジオンとはだいぶ打ち解けてきたんだよ! 嬉しい!
遊び盛りな二人だから、遊ぶのは全力である。
「今日は、何をしようか?」
尋ねてきたロジオンに、私はにんまりと笑った。
「かくれんぼ!」
せっかく広い土地のある『乙女の園』に来てるのだから、探検も兼ねてやりたい!
きっと楽しいよ!
「かくれんぼ……ジェシカ母さまとアリス母さまとしたことあるよ」
すごく楽しかったと、ロジオンは微笑んだ。
ロジオンは、癒し手を母さま。神官を父さまと呼んでいる。
皆に大切にされているのが、よくわかる。
「アリシアともやりたい。かくれんぼ」
「きまり! どこにかくれようかな?」
「うーん。父さまたちが、騎士の訓練所は危ないって。遊ぶなら、居住区画までしかだめって言われてるよ」
「えー……」
そんなあ。
遊びにかこつけて、お父さまの仕事姿見ようとおもってたのにい。
「そんな顔してもだめだよ。父さまたちは、怒ると怖いんだから」
「わかった。がまんする……」
「うん」
ロジオンはほっとしたように笑った。
お説教は嫌だもんね。わかるよ。
「じゃあ、俺が探す役やるよ」
「りょうかいなの!」
やった!
居住区画探検できる!
ばんざいをしたら、ロジオンが「あ、そうだ」と私を見た。なに?
「小石を集めたりしたら、だめだからね」
「アレキサンダーとエリザベスならいい?」
「それ同じだよね?」
「じゃあ、ピエールさがす」
「ピエールもだめ」
「ぬう」
一昨日、ロジオンをいじめる子供がいつ来てもいいように、大量の小石を集めたのを覚えていたか。
「アリシアは、もう……」
呆れた顔のロジオン。
私の扱いが手慣れてきた。理解が深まったようで嬉しい。えへん。
「なんで胸を張るの?」
「かんどうのあまり?」
「アリシア……」
おお、大きなため息。
「だいじょうぶ?」
「うん……」
ロジオン、まだ五歳なのに疲れてるね。
私なんか、元気いっぱいだよ!
「さあさあ! かくれんぼやろ!」
「……そうだね」
うーん?
ロジオンくん、テンション低いよ! もっとガツガツ行こう!!
まずは私がお手本を見せようではないか。
「ロジオン! わたしを、みつけてね!」
全力で走る。
「アリシアー。五十数えるからねー!」
「うい!」
よっしゃ!
隠れるぞう!!
「どこに、いこうかな」
建物のなかに入り、きょろきょろと周りを見る。癒し手の姿はない。皆、お仕事中なのだ。
よし、どこかいい場所がないか探そう!
とたたと、あちらこちらを歩く。
五十なんて、あっという間だ。急がなくちゃ!
廊下を走ると、先に開けた場所を見つけた。
ソファーやテーブルがいくつかある。
休憩所かな?
白いローブを着た男の人が一人、ソファーに座って右手で持ったカップに口を付けている。神官だ。
ーーごーじゅう!
「ぴゃっ!」
ロジオンの声がした。
数え終わったんだ。まずい、まだ隠れてない!
慌てて、テーブルの下に入り込む。
よし! 隠れたぞ!
ドキドキ。ロジオン、見つけられるかな!?
テーブルの下で丸まっていると、カチャとカップがソーサーに置かれる音がした。
「そこの君。何をしているのですか?」
低い声。
どうやら、休憩中の神官に話しかけられたみたいだ。
「……」
「無視ですか。ひとが話しかけたのに、応えないのは感心しません」
「アリシア、いま、かくれてるの」
神官の言葉には一理ある。
だから、答えたのだ。
「それは見ればわかりますが……、君丸見えですよ」
「なんと!」
確かにテーブルは脚が長い。
私、隠れてない状態だ。
「かくれんぼでしたら、もう少し頭を使いなさい」
「ちえー」
私は場所を移すべく、テーブルから這い出した。
そして、ソファーに座る神官と目があった。
私と神官は互いに息を呑んだ。
え……?
この神官、私知ってるよ?
後ろで一つに結んだ藍色の長い髪。
冷たいアイスブルーの目。
無表情の整った顔。
そして、神官服。
間違いない。彼は……ライオネル・クーゲルだ!
クールで皮肉屋で、でも神官として真摯に女神さまを信仰してる。
主人公ーーお母さまが癒し手としての力不足に悩んだ時に、相談に乗ってくれたりする面倒見の良い面を持つ攻略対象の一人だ。
あんまり、変わってないな。
ロジオンの年齢を考えて、本編から五年しか経ってないもんね。
大人はそう見た目は変わらない。
つらつら考えていると、ライオネルが呆然と呟いた。
「エティア……?」
エティアって、お母さま?
あ、そかそか。私って、お母さまによく似てたんだった。
「ちがうよ。アリシアだよ」
むうと、むくれてみせる。
女性を間違えるのは、失礼じゃないかね!
ライオネルは、ハッとしたように目を軽く見開いた。
「あ、ああ、そうですね。アリシアですか。確か、エティアとラティスの娘がその名前でしたね」
「うん。おとうさまとおかあさまのむすめだよ」
よいしょと立ち上がる。
ぱたぱたと埃を払い、ライオネルに向かって胸を張る。
「アリシア、びしょうじょなんだから!」
「……自分で言ってしまうのは、どうかと」
「じゃあ、びようじょ?」
「いかがわしいですから、おやめなさい」
「うーん?」
「何故そこで、不思議そうにするのですか……」
おや、ライオネルがロジオンと同じ表情になっているぞ。不思議!
私はライオネルに駆け寄り、ぴょんぴょん跳ねた。
「何をしているのです」
「みけんのシワふかいから、さわりたい!」
「馬鹿ですか」
「ひどい」
それでもぴょんぴょんをやめないのだ!
だって、シワどんどん深くなってるんだもん!
「とどかないー」
「……馬鹿ですか」
ライオネルは大きなため息をついた。ロジオンと同じだ!
ぴょんぴょんしたかったけど、ライオネルに頭を押さえられできなくなった。
「ぐぬぬ」
「まったく」
ライオネルは私を押さえていない右手で、ローブのポケットを探り始めた。
何をしているのだろう。
「これでも食べて、大人しくしてなさい」
そう言って出されたのは、小さな包みだった。
「開けてみなさい」
「はーい」
ぴょんぴょんをやめて、渡された包みを開く。
あ! クッキーだ!
「おいしそう」
「食べていいですよ」
おお! ライオネル、良い人!
「ありがとうございます」
「ちゃんとお礼が言えてえらいですよ」
「えへへ」
私はさくりとクッキーを食べた。甘い味が口のなかで溶けていく。
「おいしい!!」
「そうですか。口に合ったようで、何よりです」
「わーい!」
ライオネルが微かに微笑んだ。
私の知っている彼より、ずいぶんと雰囲気が柔らかいな。
クッキーさん、くれたし。良い人だ、うん。
ライオネルの隣に座り、クッキーを食べていると、人の気配が……。
「何してるの」
あ! ロジオンだ!
なんだか呆れた顔だ。よく見る表情だ。
「クッキーさん、むさぼりつくしてる!」
「いや、わかるよ」
ロジオンがこちらによってくる。
ちょっとむくれているようだ。
どんな顔も可愛いなあ。
「今は、かくれんぼ中だよね?」
「あ!」
「忘れてたんだ……」
ロジオンはため息をついた。
あわあわ、嫌われちゃう!?
「ご、ごめんなさい!」
口もとをぬぐって謝罪する。
「いや、アリシアだから、欲望に負けたんだなあって……それより」
ロジオンは私の隣に座るライオネルを見た。
「ライオネル父さま。俺もクッキー食べたい」
ライオネル、父さま?
びっくりする私の横で、ライオネルは微笑んでいる。
その笑顔は、お父さまが私に向けるものに似ていた。
「ええ、あなたの分もありますよ」
「やった!」
ロジオンはライオネルから包みを受け取ると、空いている方の私の隣に座った。
隣に座ってくれたということは、怒っていないということ。
良かったあ……!
「ライオネル父さま、美味しい!」
にこにこ笑うロジオン可愛い。眼福だ。
それにしても、そうか。
ライオネルが柔らかい雰囲気なのは、ロジオンが関係しているのだと思う。
ライオネルは、ロジオンを育てた一人なんだ。
ロジオンを育てたことにより、父性が芽生えたんだな。
うむうむ。
クッキーを一口食べる。美味しいなあ。
「ライオネル父さま! いつも、クッキーありがとう!」
「良いのですよ。また作っておきますね」
「やったあ!」
二人の微笑ましいやり取りを聞いて、私は固まった。
このクッキー、ライオネルが作ったんだ。
え、父性がすごい。
ライオネル。いや、ライオネルさん!
私も、またクッキー食べたいです!!
かつての攻略対象は、立派な父親になってました。